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恋を叶える男の話

三歳が目を覚ますと、 まず見慣れない天井が目に入った。 見渡せば、広いベッドにひとりきりだ。 シーツは冷たく、誰かがいた気配もない。 身体もシーツも至って綺麗だったが、 三歳の脳にも体にも、確かに昨夜の なまめかしい記憶が残っていた。 「…どういうこと?」 やはり、変な夢を、みていたんだろうか。 そう思った瞬間、 後ろでコトリと音がした。 振り返れば、そこには 焦がれて止まない京が立っていた。 「お早う、身体は平気?」 京は、朝の気だるげな 姿でさえ格好よく、 三歳は見惚れつつ返事をした。 「平気です。」 京の甘い微笑みを見る限り、 やはり昨夜のことは 夢ではなかったのだろう。 「あの、津本さん、昨夜のこと、」 言いかけた三歳を遮るように 京は指先で三歳の唇に触れた。 「ひとつ言っておく、 無かったことにはさせないよ?」 三歳は京のいちいち優雅な仕種に ときめきが止まらなかった。 「それは、こちらの台詞です。 俺を好きだって、本当ですよね?」 京は顎に添えていた手を 首もとにたどらせ、 ゆったりとした動作で三歳に顔を寄せた。 そして愛を確かめあうように、 ふたりは長い口づけをかわした。 「あれだけ求めたのに、嘘な訳ないよ。」 京は膝まずいて、三歳の両の手をとった。 「好きだよ、三歳くん。」 ふたりは、またキスをした。 「俺も、大好きです。…京さん。」 三歳の堪らなく嬉しそうな顔に 京は満足気に微笑んだ。 そして数日後、 ふたりは報告を兼ねて 玲とその恋人と食事をした。 ことの経緯を聞いた玲に三歳は 何故辛いときに頼らなかったのか と叱られたが、 それでもどこか嬉しそうな玲に 本当にいい友人を持ったと感謝した。 それから、三歳はもう一度 京とふたりでバーを訪れ、 恭くんとも再開した。 お酒の席でなくとも 恭くんとは話が合った。 玲も交えてよく遊ぶようになり、 すっかりいい友人だ。 そして佐波さん、 彼女は強かった。 京さんよりいい男と 結婚してやると息巻いて、 三歳のジムで身体を磨いているうちに、 三歳の先輩であるジムのマネージャーと 恋に落ち、 スピード婚を決めたのだった。 そのふたりの結婚式からの帰り道、 京にゲイではないんだと 告げられたあの日のことを 思い出して不安になった。 勘づいた京に 三歳を前にすれば 性別なんて意味を成さないと 散々に抱き潰された三歳は 三十路だと言っておきながら、 京は俺より若いと思わされたのだった。

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