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第1話

 ねえ君。もう少し背筋を伸ばしたらどうかな。せっかくすらりとしたスタイル、その姿勢じゃ魅力半減だよ。それから、その髪。金髪なんて今時ヤンキーでもしない。地毛が充分明るい茶色なのに、どうしてそんなこと。ああ、「地毛証明書」に腹が立ったって? バカだなあ、そんなのおとなしく提出しておけば……え? 自分の地毛の話じゃなくて、友達の天パ? 先生に勘違いで怒られててかわいそうだったから、自分がもっと目立てば矛先が変わると思った? そっかあ、友達思いなんだねえ。まあ、僕としては、もっと良いやり方があるような気がするけどね。  でも、そこが君の良いところなんだろうなあ。友達思いでまっすぐで。天パの彼がちょっとうらやましいよ。ええと「克己(かつみ)」君だっけ。くりんくりんの天然パーマに大きな目。真新しい制服はまだブカブカで、小柄な体が余計華奢に見える彼。確かにちょっと可愛いよね。 「かぁつぅみぃ!」  わ、びっくりした。君の声はただでさえ大きいんだから、そんな風に張り上げなくたって聞こえるよ。ほら見て、克己君のクラスメートが一斉に君を凝視してる。その中を小走りで駆けつけてくるのは、もちろん、克己君。 「な、なに、由晴(よしはる)」  ちょっとさ、ちょっとだけ僕は、意外だった。克己君が君を呼び捨てしてるってこと。まあ、でも、聞いたところによれば、君たちは小学校時代からの腐れ縁だそうだから、それも当然なのかな。 「辞書貸してー」 「英語?」 「違う。古文の」 「あ、古語辞典?」 「それ」 「ちょっと待ってて」  克己君はあたふたと自分の席に向かい、鞄から古語辞典を出して、また教室の戸のところまで戻ってきた。 「克己、毎日持ち歩いてんの? ロッカーに入れときゃいいのに」 「普段は入れてるけど、宿題やるのに持ち帰ってたの。僕のクラスも午後古文あるんだから、昼休みには返して」 「宿題なんかあったっけか。おまえんとこの古文も、矢野先生(ヤノセン)だよな?」 「あったよ、品詞分解と語句調べ」 「あっちゃー」 「……もう」  克己君は再び席と戸を往復して、今度はノートを差し出した。 「サンキュー、愛してるぅ」 「絶対返せよ」 「おう」  何度か振り返りながら3つ隣の自分のクラスに帰る君が教室に入るまで、克己君はずっと見送っていた。  克己君は思ったより男っぽい口調で、でもやっぱり、思った通りに優しい子だった。  そうして君は、昼休みになるとちゃんと克己君に古語辞典とノートを返しに来た。しかも、それには何故か、いちご大福がひとつ、ついていた。

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