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第2話

「何、これ」 「いちご大福」 「や、それは見れば分かる」 「お礼。購買で売ってた。季節限定だっておばちゃん言ってたぞ」 「……いいのに、そんな気を使わなくても」 「俺がおまえに気ぃ使うかよ。ついでだよ、ついで」 「由晴の分はあるの?」 「んー? うん」  曖昧な返事を残して、君は「じゃ、ありがとな」と立ち去った。  あのいちご大福がその後どうなったのか、僕は知りようがない。知っているのは、克己君がそれを食べないまま持ち帰ったってこと。家で一人で食べたのだろうか。それとも。  僕は、この場所(がっこう)から動くことができない。  ここにいる間の君たちのことなら見守ってあげられるのだけれど。 「ねえ、由晴」 「ん?」 「僕たちの学校の噂、知ってる?」 「七不思議でもあんのか?」 「七つもないんだけどね」  僕が生まれたのは、君たちが生まれるよりずっとずっと昔の話。今は共学だけど、その当時は男子校。僕の家は高等学校に行けるような経済状況ではなくて、もちろん僕は中学を出たら働くつもりでいた。でも、僕の成績が良いからと、中学の時の先生がいろんな人にかけあって、進学できるようにしてくださった。だから僕は、恩義に報いられるようにと、それはそれは猛勉強をした。  克己君。  君の名前を僕はいつも心に刻んでいたものだ。己に打ち克つ。遊んでいる暇はない。学友たちは色恋に目覚めていたけれど、僕は脇目も振らずにいたよ。  由晴君。  彼は君に似ていた。いや、君が彼に似ていると言うべきか。彼というのは、そんな僕に好意を寄せてくれた級友だ。もちろん金髪じゃあなかったけれど、すらりとしていて猫背気味なところは似ている。それから、僕を見つめる眼差しは、君が克己君を見る時にそっくりだった。  後悔しかない。  そのひたむきな眼差しを、あろうことか僕は無視した。無視するどころか迷惑だと拒絶した。色恋にうつつを抜かすのは愚かなことだと思っていたんだ。そのまま高校を卒業して、僕らは別の道へと進んでいった。  後悔しかない。  気が付いた時には何もかもが手遅れだった。卒業以来一度も会わないまま年を重ね、彼は南方の島で戦死した。僕は肺の病に侵され、兵役を逃れていた。風の噂で彼の「名誉の戦死」の報を聞かされた頃になって、皮肉にも回り回って僕の元にたどり着いた彼からの手紙。そこには、ただ凛と背筋を伸ばして咲く向日葵の花がスケッチされていた。療養所の病床でそれを目にした僕もまた、そこを生きて退院することはできなかった。  心残りの想いが強く、魂は地獄にも極楽にも行けず、彼と出会った(まな)()に縛り付けられたままとなった。それから幾人も幾人も見た。たとえ建物や制服の姿かたちは変わっても、そこに通う少年たちはいつの世も同じで、魂だけになった僕は、兄のような父のような気持ちで見守った。そうして、時折我らの生まれ変わりのような子らを見つける。

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