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第3話
「うちの学校、昔、男子校だっただろ?」
「へえ、そうなの」
「そんなことも知らないのかよ」
「克己がいるから入っただけだからな」
「こう言っちゃなんだけど、由晴が入れるとは思ってなかった」
「受験勉強、キツかったなー。俺、あんなに必死に勉強したこと初めてだよ」
「はいはい、僕のためにご苦労さん」
「まったくだよ。ご褒美くれよ」
「ご褒美? いちご大福か?」
「ばーか、違うよ」
君たちは一緒に登校してるみたいだけれど、その道中ではどんな会話をしてるんだろう。入学式の日、クラスが分かれて落胆していた君たちを見た時から、僕はずっと君たちを見ていた。
君たちはそれぞれ違う部活動に入った。それぞれのクラスメートもなかなか良さそうな子ばかりだ。君たちにも新たな交友関係が生まれつつある。それは良いことのはずなのに、僕は心配でならなかった。そうなったら、お互いよりも大事な存在ができてしまうのではないだろうか。でも、僕には分かるんだ。君たちには、君たち以上の存在なんていない。この先も巡り合わない。そのことに気付いた時には手遅れ――そんなことにはどうしてもなってほしくなかった。
そうは言っても、僕にできることは限られている。幽霊だからって、誰もが恨めしや~などとおどろおどろしい姿で登場したり、椅子を空中浮遊させたり、ましてや誰かを呪い殺したりするような真似ができるわけじゃない。できるのはせいぜい、「気配」を感じさせること。克己君が窓から君を見てる時、僕はそっと暖かな風を君の頭の上に吹かせる。君がその気配に顔を上げたら、克己君が見えるように。その逆の時は……君は僕の「気配」なんかより、ずっと克己君を惹きつけるのがうまいから、僕の出番はほとんどない。
でも、どうやら君は知らないみたいだ。
君は自分ばかりが一方通行の想いを募らせているように思っているけど、君が思っているよりずっと熱い眼差しで、克己君が君を見ているってことを。
「それで、男子校だったからなんだっての」
「やっぱりその、恋愛もあったみたいだよ」
「男同士で?」
「そう。ラブレター交換したり、手ぇ繋いで登校したりする人たちもいたって」
「ふうん。……でも、別に良いんじゃない、それって」
「ぼ、僕もそう思う」
「克己も?」
「うん。だって、誰かを好きになるのに、そんなの関係ないと思うし」
「本当に?」
時代を追うにつれ、後輩たちも随分と様変わりした。何の抵抗もなく愛を語り合い、手を繋いで校内を歩く男子生徒たちを見た時には、ついにこの日が来たかと喜んだ。でも、やっぱりそれはごく一部の特例に留まり、「かつての僕や彼に似た子たち」の多くは、その切なる想いをそっと秘めたまま去っていく。
そんな時に現れたのが、彼によく似た君。そして、僕によく似た克己君。
僕はある予感がした。もし君たちが、想いを遂げることができたなら。
その時には。
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