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第6話
そうか。そういうことか。
やがて僕自身がキラキラとした光の粒になる。僕の周りにもたくさんの光の粒が。
あ。
あそこに見えるのは。
人の形はとどめていなくても、僕には分かる。
あれは。
僕の、恋人。
随分長いこと待たせてしまったけれど。
彼の光は殊更に美しく力強く輝いて、僕を包み込む。
由晴君。克己君。
ありがとう。
君たちの美しい魂が、僕をここまで連れてきてくれたんだよ。
「あれ」
「どうした、克己」
「今、キラッて光った」
「何が?」
「分かんない。空」克己が見上げる。
つられるように由晴も上を見た。「空?……天井だし」
「だよね。でも、今、一瞬天井がなくて、青空が見えた気がした」
「へえ、すげーな。どうやったら見えんのかな」由晴は目を細めたり寄り目にしたりする。
克己は大きな目をひときわ大きく見開いて、由晴を見る。それからプッと吹き出した。「由晴って僕の言うこと、何でも信じるよね」
「当たり前だろ。え、今の、嘘だったの?」
「嘘じゃないよ。本当に見えたんだ。流れ星みたいに、キラッて光って」
「俺も見たかったな」
「……そのうち見えるよ」
「そうかな」
「そんな気がする」
「よっしゃ、克己の言うことは間違いないからな」
ねえ君。もう少し背筋を伸ばしたらどうかな。君の恋人の克己君は、来年には君の背を越すんだから。今はブカブカの制服もきつくなるほどにね。克己君は、しっかり者のように見えて、案外と君を頼りにしていてさ。彼をあんな風に笑顔にできるのは君だけだから、太陽に向かって咲く向日葵みたいに、凛としていたほうがいい。
そして、君。君は知らないことだけれど、君によく似た人が、かつて僕を愛してくれた。僕は随分と遠回りして、ようやく彼にたどりつくことができた。君たちのおかげでね。
由晴君。克己君。
僕は君たちを忘れたくない。あのいちご大福を。渡り廊下を。隣り合って笑う恋人たちを。
でも、それはできないみたいだ。僕はもうすぐ昇天して、完全に光の粒になってしまうのだけれど、そうなったらどんな後悔からも恨みからも解き放たれる代わりに、こんな風に思い出を振り返ることもできないそうだ。僕を包み込んでくれたあの光は、間違いなく彼だったけれど、彼はもう、僕が誰なのか覚えてはいなかったんだ。ねえ、すごいと思わない? 僕が誰かも知らない彼が、それでも僕を特別に感じて、僕を抱き締めたってことなんだよ。
だから。
だから僕は、何度でも君たちに誓いたい。
光の粒になってしまっても、
君たちの幸せをいつまでも祈っている、と。
(完)
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