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第5話
「あ」と君が振り返り、克己君も立ち止まる。「昼休み、購買な」
「了解。もうすぐ季節限定、終わっちゃうもんね」
購買でいちご大福をひとつだけ買う君たち。克己君はお母さん手作りの弁当。君はなんと自分で作ってるんだってね。そのうち克己君の分も作ってくるよと笑いかける。
それから渡り廊下のベンチで、仲良く並んで昼食を食べはじめた。渡り廊下は普通教室と美術室や生物室といった特別教室を結んでいて、昼休みにはそんなに人は通らない。けれど誰にも見つからないというわけでもない。時折行き過ぎる先生や生徒は、君たちに気付いたり気付かなかったり。君たちもまた、声を掛けたり、気にも留めなかったりだ。
まるで、この学校を通り過ぎていく者たちを見守ってきた僕のよう。
いいや、やっぱり違うかな。
君たちはやがてここを去っていく。僕はまた一人に戻る。毎年卒業の季節は淋しくてならないよ。僕も君たちみたいに、ここを卒業したいなあ。
弁当を食べ終えると、いよいよ大福の出番だ。大福は手ではきれいに半分にできないから、君たちは交互にそれをかじる。先にいちごにたどりついた克己君は、とっても嬉しそうだ。
僕が君たちの年の頃、大福はあったけれど、それにいちごを入れるなんて思いつきもしなかった。食べ物も着る物も若者言葉も、いろいろな流行を見てきた僕。こう見えて……いや、僕の姿は誰にも見えないけれど、流行りの言葉だって結構知ってる。さしずめ今の君ならこういうんじゃないかのな。「いちご大福なう」。あれっ、ひょっとして、これも流行遅れ?
どんな流行り廃りがあったって、変わらないことがひとつだけ。
それはほら、今の君の、そんな眼差し。それに応える克己君のキラキラと輝く瞳。
好きだよって気持ちは、口より目のほうが雄弁で、
ああ、
そんな風に、
彼も僕を見ていたっけ。
僕もそうすれば良かった。たったそれだけのことをしなかった僕の悔いが、君たちを見ていると浄化されていくようだ。
「あんこついてるぞ」克己君が君の口元を指で拭 う。
「そっちは白い粉ついてるし」君は言うだけで拭ってあげたりはしない。照れているのだろうか。
でも克己君は気にするでもなく、指先のあんこをペロリと舐めた後、その指先と口元を、律義に持ち歩いているハンカチで拭 く。「取れた?」
尋ねる克己君には答えずに、君は言う。「な、克己」
「何?」
「いちご大福の季節じゃなくなっても、こうして一緒にメシ食おうぜ」
克己君はにっこり笑う。「うん」
あれ? どうしてかな。
君たちの姿が輝いて見えたかと思ったら、すーっと遠ざかっていくよ。
僕の足元のその下に、小さく小さくなっていく。
いや、違う。
どうやら僕のほうが、上へ上へと昇っているらしい。
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