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第1話 ヤト、奉公先が決まる

 ライオス王国の西のはずれ。そこには狐族の一族が多く住んでいる。はるか何百年も昔、銀狐一族の王国がライオス王国に滅ぼされて以来、その眷属たちの末裔である狐族が生き残ってきた。  すでに銀狐一族の存在は、眷属たちの末裔にすら忘れ去られていた。                    * * *  山を挟んで向こう側に狼族が治める西の隣国ウルヴズとの境にある、小さな村、コーシュ村のアイダス家では、まさに末っ子のヤトの新しい奉公先が決まったばかりだった。 「エイブ兄さん、ありがとう!」  初等学校の卒業間際、その話を持ってきたのは次男のエイブだった。エイブはアイダス家を出て、隣町の商家に婿入りをしていた。その伝手でヤトの奉公先が決まったのだ。 「場所が王都ってのが、気に入らないが」  そう言って文句を言っているのはアイダス家の長男、ヨシュ。すでに両親は亡くなって、ヤトの父親代わりになっていた。 「ヨシュ、ヤトがかわいいのはわかるけど、これもヤトのことを思えばこそでしょ」 「そうよ!ヤトだって、大丈夫よね!」  そうとりなしているのは、妻のアガサ。励ましているのは、ヤトと同じ十二歳の娘、タリダ。 「わかってるよ。でもねぇ、王都までなんて、この村から乗合馬車を乗り継いだって二週間はかかるんだぞ。その間に、ヤトの身に何かあったら……。それに一度、奉公先に行ったら、戻ってくることなどそう簡単なことじゃない。ヤト、無理に行かなくてもいいんだぞ。このまま、俺の跡を継いだって」 「ヨシュ兄さん、僕なら大丈夫だよ」  ニッコリ笑って答えるヤト。  ヨシュとヤト、並んでみるとまったく似ても似つかない。同じ狐族ではあっても、毛色がまったく違うのだ。いや、正しくは、アイダス家の中で誰一人、ヤトと似ている者はいない。ヤト以外は小麦色の毛色に、濃い緑色の瞳、立派な体格をしているのに対して、ヤトは銀色の毛色に、空色の瞳、同い年のタリダと並んでも、男の子にしてはずいぶんと華奢な体格をしている。  それもそのはず、ヤトは三歳まで孤児院で暮らしてきていた孤児だった。今は亡き母親が、孤児院で一人遊びをしていたヤトを見つけて、父親に断りもせずに勝手に引き取ってきてしまった。その頃はまだ他の狐族たちと同じような毛色だったし、父親だけではなく、兄弟たちも受け入れてくれた。ヤトが八歳の時にその両親も流行病で亡くなり、すでに結婚していた長男のヨシュが跡を継いだ。そして、時を同じくして……ヤトの毛色が銀色へと変わり始めた。それでも、家族たちは変わらずヤトを可愛がってきた。  しかし、心ない者はどこにでもいた。狐族の毛色とは違うそれを嫌い、ヤトを虐めるやつらから噂が立ち始める。ヤトは『呪われし子』なのではないかと。小さな声ほど、耳についてくる。  だからこそ、このタイミングでの奉公の話は、ヤトには幸運だった。 「王都といっても店自体はそんなに大きなものじゃない。狼族の雇い主が一人と従業員が二人。従業員の一人が嫁入りするっていうので、代わりの者を探していたんだ」 「逆に、そんな小さな店で大丈夫なのか」 「店は小さくても、うちとの取引高は馬鹿にならないんだよ」  エイブの言葉に、ヨシュはまだ納得はいかないようだったが、ヤトのやる気に満ちた眼差しに、結局は折れることになる。 「仕方がない……辛くて耐えられないようだったら、さっさと帰ってくるんだよ。俺たちは、お前のことを待ってるからな」  ヨシュは眉毛を八の字にしながら、ヤトの頭をぐしゃぐしゃっと撫でつけた。

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