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第7話 side イズラエル

 最初、エイブに、エミーの結婚の話をした時、イズラエルは国から新しい人間を呼び寄せなくちゃいならないことを面倒に思っていた。 「でしたら、うちの弟など、どうでしょう?」  エイブには年の離れた弟がいて、それが今度初等学校を卒業するという。それも、本当なら上の学校に上がれるくらい優秀なのに、自分が養子だからと、遠慮して仕事を探しているというのだ。 「ほお。お前さんのことだから、資金くらいだしてやれるだろう」 「ええ、金は出せるんですが」  その弟というのが毛色が違うせいで地元では虐められているらしい。 「……銀狐だと」  銀狐一族の存在は、一部の王族にしか伝えられていない存在だった。なぜなら、銀狐一族には隠された能力があったのだ。それは番となる相手の優秀な能力のみ引き継ぐ子供を、男女関係なく、生すことができる。だからこそ、古のライオス王国が他の国々に奪われないうちにと自国の領土とし、捕らえようとしたのが、銀狐一族はそれに反発し、一族郎党ともに全滅の憂き目にあった。  ……そのようにウルブズ王国でも伝え聞いていた。  イズラエルはウルブズ王国の国王の五男だった。世間的には商会の支店長としてふるまっているが、ライオス王国の第二王子のアランには、なぜだか正体がバレていた。  眷属であるはずの狐族には、銀狐の能力については語り継がれておらず、もしその養子の能力がバレてしまったら大変なことになるのは目に見えていた。だから、イズラエルも最初は、能力とその養子を保護してやるつもりで、雇い入れることを認めたのだ。  しかし、実際に会ってみて、イズラエルは一発で恋に堕ちてしまった。  まだ、十二歳と成人すらしていない小さなヤト。しかし、その愛らしい姿に、イズラエルはメロメロになる。初めての仕事に振り回されながらも必死に頑張る姿に、毎回、脂下がった笑みを浮かべては、甥のリュカに馬鹿にされ、義理の姉になる予定のエミーには呆れらる。 「まさか、本気なのか」  そう問いかけてきたのは兄で四男のダリウス。護衛稼業が性に合うと言って大陸中を巡っていたが、エミーと出会い結婚して国に戻るというのだから、人生何があるかわからない、とイズラエルは思う。そして自分自身の気持ちですら。 「まずは成人するまで待たないと」 「そりゃそうだ」 「でも、その前に国に連れ帰って、父上たちに紹介しておかないと」 「……おいおい。ヤトの気持ちはどうなる」  身内だけしかいないこの場では、イズラエルは眼帯を外す。隠されていた左目には、ウルブズの王族に時々現れるという金色に輝く瞳。 「大丈夫です。あの子は私のものになりますよ」  満面の笑みを浮かべたイズラエルに、周囲の者は固まり、内心、ヤト頑張れ、と思ったのは言うまでもない。

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