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第8話

 くち、ちゅく、と恥ずかしい音が密やかに響く。  シャツが一枚腕に引っかかっているだけの格好で足を開き、自分ですら見たことのないような場所を指で弄られている。  嫌ではない。怖くもない。けれど、未知の感覚への戸惑いを消すことはできない。  汗で光る艶めかしい肢体がどれほど男を煽っているかも気付かず、湊は半泣きで快感を散らそうと身を捩った。 「あ……っ、りゅ、じろ……っ、や、それ、も、だめ……」  腹側のふっくらしたところを擦られると、排尿感なのか射精感なのか判別付き難い快楽が走るのが怖くて、懸命に訴えたのに指の動きは止まることはない。 「俺のしたいことをしていいんだろ?」 「ん、そ…、だけど…っ、そこ、も、や…っ」 「んじゃ、こっちか」  笑いを含んだ声が近づいたかと思うと、乳首をカリ、と甘噛みされて仰け反った。 「ぁ!ああ…っ、あ、ち、が…」 「違う?」 「お、俺、ばっかり、きもちいの、や……、りゅ、竜次郎、も……」  足の間を陣取る竜次郎の下着を押し上げているものに手を伸ばすと、触れた瞬間びくっと反応を返す。 「っ……だから、煽るなっつったろ」 「あ、ごめ、なさ……」  怒られたのかと思って手を引っ込めながら反射的に謝るが、それに対する返事はなく、膝裏をぐっと持ち上げられ、体を折り曲げられる。 「……挿れるぞ」 「っぁ……!」  唐突な低い宣言と共に、狭い場所を押し広げながら、大きなものが中に挿入って来る。  苦しくて口を開いてもうまく呼吸ができない。 「も……ちょい、力抜け。入んねえだろ」 「っ……、ぁ、」 「息、ちゃんとしろよ」  空気を食むばかりだった唇に優しく口付けられると、舌と舌が触れる甘さにほっとして、少しだけ力が抜けた。  その隙を逃さず、ずる、と竜次郎が奥まで入ってくる。 「あ……っ!」 「ん……っきついな……」  苦しそうな吐息に、閉じてしまっていた瞳を開く。  寄せた眉が心配で、震える手を伸ばしながら、問いかけた。 「いたい、の……?」 「なわけねえだろ。イイんだよ」  つかそれ、俺のセリフだろ、というぼやきに、苦しさも忘れて微笑みがこぼれた。  二人分の体重と激しい動きを受け止めかねて、パイプベッドが悲鳴のような音を立てる。 「あ!っん、…あ、あっ、や、りゅ、じろ……っ」  汗ばんだ背中に縋るようにしがみつけば、きつく抱きしめられて胸がギュッとなった。  無理な体勢が苦しいはずなのに、求められているという喜びが、すべてを快感に変える。  愛しい、というはこういう気持ちなのだろうか。 「竜次郎……すき……」  苦しい息の下、あまりにも自然にあふれ出た言葉。  息を詰めた竜次郎が自分の中で果てたのを感じた時、湊もまた頂へと押し上げられた。  満たされることに幸せを感じながら。  墜ちてくる早鐘のような鼓動を抱きしめた。

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