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 住み慣れた部屋のドアを閉める。  鍵を差し込む瞬間は、いつも少し躊躇する。この部屋の鍵だとわかっているのに、もしかしたらと不安になるのだ。表裏を間違えたり、古い鍵は摩耗して簡単に開かなかったり。だから毎回、指先の微かな手応えに緊張し、カチャリと響く金属音に安堵する。まだ凹凸は一致している。  力尽くで抉じ開ければ壊れる。  鍵か鍵穴か、どちらかが擦り減って歪んでも、壊れる直前までは持ち主の意志で閉じることができる。 「それじゃあ、元気で」 「今までありがとう、しあわせでいて」  いずれ壊れるのは解っていた。俺は変えられないし、こいつも変えようとはしない。  少しずつ擦り減って、互いに元の形を変えてしまう前に、笑って別れよう。  先に進むための『やることリスト』 ・不動産屋に鍵を返す  ☑︎ メイン  □スペア  スペアの項は、いつまでもレ点がつくことはない。  この部屋の鍵のひとつは、あの鍵の束の中。  俺は「その鍵を外せ」と言わなかった。 < おしまい >

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