3 / 3
-3-
住み慣れた部屋のドアを閉める。
鍵を差し込む瞬間は、いつも少し躊躇する。この部屋の鍵だとわかっているのに、もしかしたらと不安になるのだ。表裏を間違えたり、古い鍵は摩耗して簡単に開かなかったり。だから毎回、指先の微かな手応えに緊張し、カチャリと響く金属音に安堵する。まだ凹凸は一致している。
力尽くで抉じ開ければ壊れる。
鍵か鍵穴か、どちらかが擦り減って歪んでも、壊れる直前までは持ち主の意志で閉じることができる。
「それじゃあ、元気で」
「今までありがとう、しあわせでいて」
いずれ壊れるのは解っていた。俺は変えられないし、こいつも変えようとはしない。
少しずつ擦り減って、互いに元の形を変えてしまう前に、笑って別れよう。
先に進むための『やることリスト』
・不動産屋に鍵を返す
☑︎ メイン
□スペア
スペアの項は、いつまでもレ点がつくことはない。
この部屋の鍵のひとつは、あの鍵の束の中。
俺は「その鍵を外せ」と言わなかった。
< おしまい >
ともだちにシェアしよう!