2 / 3
-2-
こいつは常に鍵の束でズボンのポケットを膨らませている。仕事先の鍵と自分のアパート、実家、車の鍵に至っては古いものも紛れていて、後はもう何が何だか。キーホルダーの出る幕などない。新旧入り乱れた鍵たちがぶつかり、動く毎に音を立てている。
つきあい始めた頃に尋ねたことがある。なんでそんなに持ち歩くのか。混合して間違えたりしないのか。こいつはそれを非難とも受け取らずに答えた。
「俺にはどれがどこの鍵かすぐわかるからいいんだよ。ダミーが多ければ、悪用しようとしても手間取るだろ?」
「どんな防犯対策だ。手放した車の鍵なんか、車に添えて渡すか処分するものだよ」
「それは寂しい。なんか鍵自体に愛着が湧いて、捨てられないよ」
「いつかポケットが破れるぞ」
やっぱり言われたか、と首を竦める。
「ひとつひとつが特別で、俺の礎 だ。まだこの量ならポケットに収まるし」
と、一本一本を懐かしそうに見つめて柔らかく笑う。
やがて俺の住む古い単身者用のアパートで暮らすようになり、その合鍵で、また束は重くなった。
呼び鈴が鳴らなくても足音で帰宅が分かる。
無駄な鍵は外せと忠告しても意に介さず、ポケットは常に膨らんでいた。
ともだちにシェアしよう!