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第6話

「ちょっと待って。中断しちゃったお詫びに、ちょっとだけサービスしてあげる」 「え、あ、あの」 「颯太くん、素股って知ってる?」  咎められるわけでもなく気持ち悪がられるでもなく、密さんはいたずらっぽく笑ってからあろうことか俺の目の前で細いデニムをするりと脱ぎ捨てた。男のものとは思えない綺麗な足を惜しげもなく晒し、その足で俺を追い越しベッドに座る。いや、そこで手と膝をついた。いわゆる四つん這いだ。 「してあげる。おいで」  振り返り俺を呼ぶ密さんに、俺は目を白黒させるばかり。  なんだこれは。なんでこんなことになっているんだ。自分をオカズに使った俺のベッドでそんなポーズを取る密さんなんて、俺の妄想の産物でしかないはずなのに。 「いいから。ほら」  急かされ、まったく動いていない頭とは別に体が勝手にベッドへと這い上がる。  近くで見ると、太っているわけじゃないのに尻から太もものラインが絶妙な丸みを帯びていてなんともエロティックだ。ぴったりとしたボクサーパンツに包まれたそこが実際に見えるわけでもないのに、桃尻という言葉が脳内に浮かぶ。ごくり、と俺の喉が勝手に音を立てた。  これは抗えない。  なにがどうなっているのかさっぱりわからないけれど、妄想とは違う謎のシチュエーションだからこそ、これが現実なのだと思い知らされる。だからこそここでやめられない。 「失礼、します」  密さんが少しだけ足を開いて作ってくれた隙間に、半勃ちの俺自身を挿し込む。肉に擦れる感触だけで自分自身が一気に硬さを増したのがわかった。 「ん、いいよ。ゆっくり動かして」  ただの足の間だ。腿と腿に挟まれているだけ。濡れてもいないし柔らかくもない。そのはずなのに。 「あっ、そう……ゆっくり、ん、ダメ、ゆっくりとだってば」 「ダメだ密さん、無理、ゆっくりはもう……っ」  緩やかなピストンは、数回で限界を迎えた。ゆっくりなんてしていられない。  しなやかに引き締まった腰を両手で掴み、押し付けるようにしてスピードを速める。肌がぶつかる音が響いて、それがまた欲情を煽った。実際中に入れているわけじゃないけれど、密さんが腿を閉じて締めつけているからまるで本当に密さんの中を突いているような錯覚に陥る。 「あ、もう、はやい……んっ、あっ、やっ、そーたくん……っ」  俺の動きに合わせて密さんが揺さぶられ甘い声を上げる。腿の内側を強く擦られて感じているのか、密さんの声が上擦って腰が揺れるから余計止まらなくなった。  これじゃあまるで本当にセックスしているみたいだ。  俺が喘がせて、俺で感じてるみたい。いや、あながちそれは間違っていないのかもしれない。  俺に揺さぶられる密さんは色っぽい程度じゃ済まないくらいエロくて、声を抑えるためか顔を伏せてしまったせいでしなる背中のラインはあまりに煽情的すぎて一気に自分自身の熱が高まるのを感じた。 「密さん、イく……っ!」  本当はもっとこの非日常な空間を味わいたかったけれど、それよりも今はもうこの溜まりに溜まった欲を吐き出すことしか考えられない。  だから少しも耐えることなく、本能に従ってピークのタイミングでそのまま放った。まさしく絶頂だ。  それがあまりに気持ち良すぎて、たぶん数瞬意識が飛んでいたんだと思う。密さんの「颯太くん、大丈夫?」なんて言葉で我に返って、視線を戻したら密さんが尻もちをつくような形で座ってこちらを見ていた。上気した頬がとてもエロい。 「ふふふ、気持ちよかった?」  俺の放った白濁で汚れた腿を見せつけるように軽く足を開き、可愛く笑う密さん……にたまらなくなった。 「密さん!」  勢いのままに覆いかぶさるようにして密さんを押し倒す。そして剥ぎ取るように下着を脱がそうとした俺の手を、密さんの手がやんわりと止めた。 「ダメだよ。これ以上は、もう少し仲良くなってから」 「……え」 「今日はお詫びの特別。あとはまた今度。颯太くんが、もうちょっと、色々割り切れる大人になったらね」  子供相手の保育士さんみたいな笑顔の密さんの言葉をどこから理解すべきか。キャパオーバーで完全に思考停止している間に、俺の下にあった体がするりと抜け出る。そして俺の残滓を拭い去ると、あっという間に何事もなかったかのように着替えが済んでしまった。 「じゃあね、颯太くん。戸締りはしっかりと、だよ」  そして密さんは固まる俺ににっこり笑って、ついでに洗い物も回収して帰っていってしまった。  残されたのはベッドの上で情けなく下半身を露出させたままの俺と、いくつかの大きな謎。これ以上ないほどすっきりした直後なのに、モヤモヤが治まらない。  ともかく今真剣に考えたいのは主に二つ。  もう少し仲良くなったら、あれ以上をしていいのかってこと。  そして、俺は明日からどんな顔して密さんに会えばいいかってこと。

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