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第5話

「どうしたの? 颯太くん」 「あ、いや……なんでもないです! 美味しいですね、これ。聡史さんのお土産とかですか?」 「あーこれは別の人?」 「そっか。密さん、友達いっぱいいますもんね。交友関係広くてすごいな。俺まだあんまりいないんですよね、友達」  同じ講義を取っている友達は何人かできたけど、まだ家に呼ぶほどの距離間ではない。だから頻繁に家を訪ねてくる友達が多い密さんは単純に尊敬するんだけど、当の本人はなんだか微妙な顔をしている。自分の子供に、謎の粘土細工を満面の笑みで差し出された親の顔とでもいうのか、とにかく複雑な表情。 「……颯太くんって、見た目硬派っぽいけどどっちかっていうとピュアだよね」 「え?」 「ううん、なんでもない。可愛いなって思って」 「……そりゃまだ密さんからしたらガキっぽいかもしれないですけど、可愛くはないでしょ。この見た目で」 「まあ確かに黙ってると結構いかついけど……お、意外と腹筋ついてるね。鍛えてる?」  なんておもむろに伸ばした指先で腹筋をなぞられて、硬くなるほどそこに力が入ったのは、かっこつけるためではなく違うものが硬くならないため。  ともかく後ずさるようにその手から逃れ、その後は当たり障りのない会話で誤魔化せたと思う。  そばは本当に美味しかったし、本来なら楽しく食事をしたかったけれどいかんせんそばを啜る密さんがいちいちエロすぎて平静でいられない。  だからぺろりとすべてのそばを食べ終わった後は、洗い物は任せてくれ、あとで持っていくからと半ば追い出すように密さんを帰した。  腹いっぱいだからという体で動かない俺をおかしく思ったかもしれないけれど、こちらはそれどころじゃないから仕方がない。  最大限に耳を澄ませ隣のドアが閉まる音を待って、最速でジッパーを下ろす。  すでに痛いほど硬くなった俺自身をさっさと開放してやって、目を閉じてさっきの密さんを思い浮かべた。造作もない。だってまだそこに密さんの甘い匂いが残っている。  ……もちろんお隣さん相手にこんなことしちゃいけないということはわかっている。でもダメだと思えば思うほど匂いや声、唇に舌の動き、首を伝う汗までが鮮やかに思い出されてしまうからどうしようもない。  相手は「男」だという単純な事実ぐらいじゃまったくストップが利かないんだ。大学にだってバイト先にだって、可愛い女の子も美人の女の人もエロい格好したお姉さんもいるのに、一番燃えるのはやっぱり密さんだ。誰よりもあの人がエロい。  そばを啜っている時のあの落ちてきた髪の掻き上げ方と上目遣い、俺のを咥えてもらったらきっとあんな感じで……いやいや。なにを考えているんだ。それはいけない。  ……でも例えば、あのまま無防備な密さんを押し倒して服を脱がしたら、あの白くて綺麗な肌が赤く染まるのか、もしくは嫌がられて泣かれのか。それを想像したらもう収まりがつかない。  そりゃ男に押し倒されたら嫌だろう。だからきっと嫌な顔をする。でも俺の方が力があるし、押さえ込んだら勝てないはずだ。無理やり俺が、あの人を……。 「くそッ……」  乱暴に擦る手と一緒に、妄想の中の密さんが泣いて乱れる。でも俺の動きに合わせて徐々に潤んだ瞳が快楽に浸りだし、俺に縋り、あの甘い声で俺の名前を呼んでくるんだ。  颯太、もっと、と切ない声で哀願して、俺に突かれることを求めて何度も何度もあのピンクの唇が……。 「密さん、ひそかさ……んっ!」 「はぁい?」 「!?」  もうイくぞと妄想の密さんに呼び掛けた瞬間、まさかの答えがあった。冗談じゃなく体が跳ねた。 「もう、颯太くん。鍵はかけなきゃダメだって言ったでしょ?」  目を開ければ玄関で密さんが困ったように笑っている。やっぱり洗い物しちゃおうと思ったんだけど、と戻ってきた理由を口にしながら中に入ってきた密さんは、俺を見下ろし口元に手を当てて口角を上げた。 「ふふふ、光栄だなぁ。颯太くんが俺のことオカズにしてくれるなんて」 「あ、いや、その、これは……」  咄嗟に反論しようとしたけれど、言い訳しようがない。  一人でしている最中に、もっと露骨に言えば性器を擦りながら名前を呼んだんだ。むしろ今も俺の手の中で萎えきらないそれが密さんの目に晒されている。これ以上の現行犯はない。  ともかく言い訳をするにしろ謝るにしろ、自分の格好をなんとかしなくちゃと半勃ちのそれを下着の中に押し込もうとしたら、まさかの密さんからストップがかかった。

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