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第4話
夏の強化合宿。
一体何を強化するのか……実態は不明。
海岸近くの別荘。
昭和の匂いがするような、寂れた古い平家。ベタつく木の引き戸。サビた赤い郵便受け。
玄関を開けて見えたのは、仄暗く、無駄に長くてうねっている広い廊下。
部屋は全て畳張り。広さは約8畳。3DK。
ずっと使われていなかったんだろう。肺がおかしくなる程湿気って、埃っぽい匂い。靴下越しに感じる、嫌な感触。
締め切っていた雨戸を開け放てば、夏特有の強い日射しが容赦なく襲い掛かった。
汗だくの中、畳や廊下、部屋の隅々までを綺麗にする。
黴っぽい布団や座布団を日干しし、長テーブルを引っ張り出して丁寧に拭く。
柚希と二人、この別荘に前乗りしたのは、この為だ。夜には先輩達がやってきて、合宿初日の大宴会が行われる。
それまでに、全てを終わらせないと。……余り、時間ない。
一通り作業が終われば、次は買い出し。
酒のつまみや必要な食材を、近くの商店で買い漁る。アルコール類は、後から来る先輩達が持ってくるらしい。
「……なぁ、柚希」
その帰り道。
並んで歩く柚希をチラッと見れば、彼女のポニーテールが楽しげに揺れていた。
「何でサークル、辞めないんだ?」
素朴な疑問だった。
幾らキングが好きだといっても、素行の悪さにそろそろ熱が冷めてもいい頃なんじゃないか。
「……んー、何でだろ」
少し照れながらも、あどけない笑顔を向ける。
両手で持つ荷物が重そうで。無言でそのひとつを奪う。
「……あ、ありがと。でも、みっつも持ったら重くない?」
「うん。……でも、平気だよ」
「へー、やっぱ男だねぇ。力持ちぃ」
そう言いながら、柚希が僕を下から覗き込む。
「……」
何処にでもいるような、普通の女の子。
健気に尽くす姿や仕草は、……可愛いと思う。
先輩達から見れば、真面目な柚希はタイプではないとは思うけど。
……でも、やっぱり心配だ。
「色んな噂があるけど。……キングは、良い人だよ」
……秘密、特別に教えてあげるね。
そんな、得意気な表情を柚希が浮かべてみせる。
「……あのね。サークルに入る前の話なんだけどね。
夜、一人で歩いてたら、しつこくナンパされた事があって。……その時助けてくれたのが、キングなの」
へぇ。
「私の肩にこう、腕を回してきて、『俺のオンナに、何か用か?』って。……何かね、キュンッてしちゃって」
「……」
「そのまま暫く歩いて。駅の改札口まで送ってくれて。
『気をつけて帰りなよ』って。優しく笑顔で手を振ってくれて……」
「……」
そのキングは、毎晩ナンパしてレイプしてるんだけどね。
……まぁ、でも良かった。
柚希はキングの好みじゃないんだって、解ったから。
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