6 / 13
第6話
「──んで? その柚希ちゃんは?」
神妙な面持ちながら軽い溜め息をついた山下が、僕に無粋な質問をする。
「………」
じわじわと痺れていく、脳内。
……嫌だ、思い出したくない。
だけど──あの時の光景は、忘れたくても忘れられない……
この目に、強く焼き付いてしまっているのだから。
別荘から海岸までは、僅か五分。
だけど、近くの商店までは急いでも片道十分はかかる。
しかも、遅い時間。空いている保証はない。
「……」
やっぱりだ。シャッターが閉まっている。
叩いて店主を呼び出そうか。
いや、こっちはギリギリ未成年だ。下手に騒いで年齢を聞かれたら困る。
……確か、この先に廃れたスーパーがあったような──
点々と、等間隔に続く外灯。
暗闇へと誘う灯火。
……兎に角、早く買って帰ろう。
走ったせいで体が火照り、大量に噴き出す汗。
額のそれを腕で拭い、闇夜に向かって地面を蹴った。
運良く、スーパーに辿り着くよりも先に、小さな酒屋を見つける。
店主に怪しまれないよう500mlの缶ビール12本を買い、泡立たぬよう注意しながら急いで別荘に戻った。
「……」
玄関を開け、直ぐに感じる違和感。
しん……と静まり返る室内。
あの女性二人を、輪姦しているのか……?
いや、それにしては静かだ。
次第に高まる胸騒ぎ。
……ダメだ、悪い方にしか考えられない。
「戻りました!」
玄関を上がり、襖を開ける。
と、そこには絶望しきった顔の渡瀬先輩が、テーブル前に腰を下ろしていた。
「………ああ、柚木か。お前も手伝え」
虚ろな眼。視線が何処に向けられているのか、解らない。
いつもの威勢の良さも、声の張りもない。
「はい……」
徐に立ち上がった先輩の後に続いて歩く。廊下を出て奥へと進み、寝室部屋へと入る。
中は暗かった。
木下先輩と幹部候補の二人が、何やら大きなものを布で包んでいる。
「俺と柚木で行ってくる」
低いトーンでそう言った渡瀬先輩の言葉に、三人はビクンッと体を震わせた。
「……ゆず、き」
「お前ら、しっかりしろ!」
それまでの渡瀬先輩が嘘のように、いつものように声を張り上げる。
「行くぞ!」
「はい」
見た事もない車。
そのトランクに、大きな荷物を二つ載せる。
……もしかして、これは……
考えたくない。
だけど、考えずにはいられない。
助手席に乗り、先輩の運転で夜道を走る。
先輩、飲酒運転ですよ。
そんな事、口が裂けても言えない雰囲気。
妙にギラギラとして、妙に落ち着いた渡瀬先輩が……怖い。怖くて堪らない。
車は山道へと入り、真っ暗な林道を走る。
不気味な程に生い茂る草木。
闇、闇、闇──
「柚木」
突然、先輩が口を開いた。
「はい」
「もう、勘づいてんだろ?」
何て答えればいい。
躊躇すれば、先輩が少しだけ余裕のある溜め息をついた。
「お前が出てった後、連れ込んだ女が帰るって言い出してよ……」
「………」
「ちょっとな。揉めたんだよ。
……木下のヤツ、あの女に騙されて玄関先まで逃しやがって。
まぁ他の奴らに捕まえさせたんだけどな」
「……」
つまり、女性と木下先輩の三人になる場面があった……って事か。
「そん時知らねえ男が一人乗り込んできて……そっからひと悶着あってよ。
……ああ、クソ!!」
ドンッ
先輩がハンドルを強く叩く。
「………ソイツを縛って、目の前で女をレイプして……最後にソイツのおっ立ったナニを女に突っ込んで、イかせて……口止めさせようとしたんだよ」
先輩を取り巻く空気が荒々しくなり、気迫に満ちる。
ハンドルを切ったかと思うと、突然の急ブレーキ。
「着いたぞ」
ともだちにシェアしよう!