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第6話

「──んで? その柚希ちゃんは?」 神妙な面持ちながら軽い溜め息をついた山下が、僕に無粋な質問をする。 「………」 じわじわと痺れていく、脳内。 ……嫌だ、思い出したくない。 だけど──あの時の光景は、忘れたくても忘れられない…… この目に、強く焼き付いてしまっているのだから。 別荘から海岸までは、僅か五分。 だけど、近くの商店までは急いでも片道十分はかかる。 しかも、遅い時間。空いている保証はない。 「……」 やっぱりだ。シャッターが閉まっている。 叩いて店主を呼び出そうか。 いや、こっちはギリギリ未成年だ。下手に騒いで年齢を聞かれたら困る。 ……確か、この先に廃れたスーパーがあったような── 点々と、等間隔に続く外灯。 暗闇へと誘う灯火。 ……兎に角、早く買って帰ろう。 走ったせいで体が火照り、大量に噴き出す汗。 額のそれを腕で拭い、闇夜に向かって地面を蹴った。 運良く、スーパーに辿り着くよりも先に、小さな酒屋を見つける。 店主に怪しまれないよう500mlの缶ビール12本を買い、泡立たぬよう注意しながら急いで別荘に戻った。 「……」 玄関を開け、直ぐに感じる違和感。 しん……と静まり返る室内。 あの女性二人を、輪姦しているのか……? いや、それにしては静かだ。 次第に高まる胸騒ぎ。 ……ダメだ、悪い方にしか考えられない。 「戻りました!」 玄関を上がり、襖を開ける。 と、そこには絶望しきった顔の渡瀬先輩が、テーブル前に腰を下ろしていた。 「………ああ、柚木か。お前も手伝え」 虚ろな眼。視線が何処に向けられているのか、解らない。 いつもの威勢の良さも、声の張りもない。 「はい……」 徐に立ち上がった先輩の後に続いて歩く。廊下を出て奥へと進み、寝室部屋へと入る。 中は暗かった。 木下先輩と幹部候補の二人が、何やら大きなものを布で包んでいる。 「俺と柚木で行ってくる」 低いトーンでそう言った渡瀬先輩の言葉に、三人はビクンッと体を震わせた。 「……ゆず、き」 「お前ら、しっかりしろ!」 それまでの渡瀬先輩が嘘のように、いつものように声を張り上げる。 「行くぞ!」 「はい」 見た事もない車。 そのトランクに、大きな荷物を二つ載せる。 ……もしかして、これは…… 考えたくない。 だけど、考えずにはいられない。 助手席に乗り、先輩の運転で夜道を走る。 先輩、飲酒運転ですよ。 そんな事、口が裂けても言えない雰囲気。 妙にギラギラとして、妙に落ち着いた渡瀬先輩が……怖い。怖くて堪らない。 車は山道へと入り、真っ暗な林道を走る。 不気味な程に生い茂る草木。 闇、闇、闇── 「柚木」 突然、先輩が口を開いた。 「はい」 「もう、勘づいてんだろ?」 何て答えればいい。 躊躇すれば、先輩が少しだけ余裕のある溜め息をついた。 「お前が出てった後、連れ込んだ女が帰るって言い出してよ……」 「………」 「ちょっとな。揉めたんだよ。 ……木下のヤツ、あの女に騙されて玄関先まで逃しやがって。 まぁ他の奴らに捕まえさせたんだけどな」 「……」 つまり、女性と木下先輩の三人になる場面があった……って事か。 「そん時知らねえ男が一人乗り込んできて……そっからひと悶着あってよ。 ……ああ、クソ!!」 ドンッ 先輩がハンドルを強く叩く。 「………ソイツを縛って、目の前で女をレイプして……最後にソイツのおっ立ったナニを女に突っ込んで、イかせて……口止めさせようとしたんだよ」 先輩を取り巻く空気が荒々しくなり、気迫に満ちる。 ハンドルを切ったかと思うと、突然の急ブレーキ。 「着いたぞ」

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