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なんでも出来ちゃうオレ

「なんでも出来て良いね」  子供の頃からずっと言われていた事だけど、オレとしては大声で訴えたい。「そんなことない!」って。  まあ、実際声に出して否定すれば白い目で見られるだろうし、こっちの気持ちも知らないで好き勝手罵倒されるだけだろうから、言い返した事はないけれど。でも、実際「なんでも出来るから良い」とは限らないんだ。  どうしたって周りから浮いて、好意的にせよ排他的にせよ、変な目は向けられる。他人からの評価なんてどうでも良いけど、いちいち凝視されるのは面倒だし、誤解されるのだって面倒くさい。それに子供の頃は、「達成感」ってヤツを味わえないのが、悔しかった。  才能があれば幸せだろう、っていうのは、しょせん隣の芝生ってヤツ。まあ、オレの「才能なんていらない」っていうのも、周りから見たら同じなのかもしんないけど。  だけどさ、試験は常に上位をキープ。運動神経だって抜群で、どの部活のレギュラーを相手にしたって圧勝する。  それを努力もなしに出来ちゃったら、ちょっとはこの才能を疎む気持ちも理解してほしい。  ……ああ、だけど、オレに「勝てない」って気持ちを味あわせてくれる人なら、1人だけ。  試験でオレがどうしても勝てない相手が、1人いる。つーか、今オレの目の前で、文庫本を読むのに勤しんでいる唯一無二のオレの親友こそ、オレが唯一勝てない相手。  試験で「上位」を譲らないオレに対して、この親友、涼しい顔をして1度も「トップ」を譲った事がないんだから驚きだ。それも嫌味とか一切なし、人当たりも良くて敵を作らず、やっかまれる事なく1位をキープし続けている。  ……そう思うと人付き合いっていう面では、オレは大敗しているだろうし、神様もさすがにそこにまでオレの才能を行き渡らせてはくれなかったみたいだけど、まあ、他人なんてどうでも良いから、対人スキルなんて必要ないし、問題ない。 「麗陽(れいひ)は相変わらず頭良いよねぇ」  読書に勤しんでいる親友、麗陽に声を掛ければ、麗陽は律儀に本を閉じてから、呆れたような溜息を1つ。 「……いや、お前も決して悪くねぇだろ。つーか、世間一般の尺度で語れば、成績優秀だろーが。それ、オレ以外に言ってみろ、グーで殴られるぞ? グーで」 「あはは、かもねぇ。でもオレは他人からの評価なんてどーでも良いし、そんじょそこらの人間からパンチを喰らうほど、運動神経悪くもないよ?」 「そういう問題じゃねぇよ……」  呆れたように指で額を抑える麗陽は、やさしい男だって思う。オレは本気で麗陽以外どうでも良いし、こんな性格してるから降りかかる火の粉は決して少なくないけど、持ち前のスペックで簡単に振り払えるのに。それでも麗陽はオレの事を自分の事みたく案じてくれて、オレが誰かと馴染めるように頑張ってくれている。  オレがそれを端から無駄にしてしまっても、呆れはしても、怒ることなんてなく。  人を気遣えて、人にやさしくて、自分の才能を鼻にかける事も、過度な謙遜もしない。  もし人付き合いに順位付け出来るなら、麗陽はそこでもトップを譲らないんじゃないかな。「好かれる人」「友達にしたい人」のお手本みたいなヤツだ。  そういう面ではビリ間違いなしのオレとは大違い。クラスメイトの大半は、なんでそんな麗陽の「親友」がオレなんだって、疑問に思ってるだろう。  オレだって、みんなに平等にやさしい麗陽が、よりによってオレみたいなのを「親友」だと言ってくれるのがいまだ不思議なくらいだしね。 「とにかく、月夜(つくよ)は、もう少し笑ってみるとか」 「オレ、麗陽が羨ましいなぁ」  まだ続く麗陽のお小言を遮って、オレはいつもの口癖を呟いた。麗陽がオレにくれるものなら、なんでも喜んで……それこそ飲み終えたココアの紙パックでも……だけど、このお小言ばっかりはさすがにお断りだ。 「麗陽になりたいもん」

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