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オレはアンタになりたいよ、

 話を遮ったにも関わらず、麗陽(れいひ)は嫌な顔1つすることなく、首を傾げた。 「そうか? オレには勉強しかないけど、月夜(つくよ)はなんでも出来るじゃねぇか。競技問わずコートを走り回れるのは、羨ましいよ」  そう言う麗陽は線が細くて、肌も白い。顔も中性的な方向に整っているから「儚い美少年」って言い方が凄くしっくりくる。そしてその見た目通りに、麗陽は体が弱くて、激しい運動についてはドクターストップだ。  対するオレは健康優良児。風邪と擦り傷くらいしか覚えがない。だから麗陽がオレの方が羨ましいって言うのは、多少成績が下がっても、おかしくもなんともないんだろうけど。 「だけどさ、それでもオレは麗陽になりたいよ」 「お前にとっちゃ、体育なんて退屈だろうからな。合法的にサボタージュしてぇの?」 「……確かにそれはあるけど」  嘘だ、そんな理由じゃない。そんな理由、1ミリだって含まれていない。でも麗陽にどう思われるかを気にするオレとしては、「唯一無二の親友」にも言えないというか、唯一無二の親友だからこそ言えない事もあって、本音を隠すために麗陽の言葉を助け船として使わせてもらう。  ……なんかもう、麗陽には、ある程度見透かされてる気もするけど。それで麗陽はやさしいから、バレたくないってオレの気持ちも悟って、知らないフリをしていてくれている気も、しないでもない。  麗陽は、本当にやさしい。だからいつでも、どんな時でも、人に、友達に囲まれて、輪の中心で楽しそうに微笑んでいる。対人スキル完璧。さすが人付き合いでもトップを譲らないだけある。  オレがそんな風になれないのは、オレの傍に麗陽以外の人間がいないのは、自業自得だ。時に意識して、時に無意識に、麗陽以外の人間をオレは見下して生きてる。くだらない、馬鹿みたい、弱い。  多分それは他のヤツにもハッキリ分かるくらいには漏れていて、そんな人間と積極的にお付き合いしたいと思う人間は、そうそういないだろう。よっぽどのバカか、よっぽどのマゾか、よっぽどのお人好しか。  はたまたオレにコンプレックスを抱く必要なんてないくらいの高スペックで、オレみたいな態度でも許してしまうような寛容さを持った人間……麗陽か。  で、オレの近くにはよっぽどのバカや、マゾや、お人好しはいなかったから、必然、麗陽しか残らなくなる。 「麗陽の周囲に人が居るのが羨ましいよ」 「だったらお前も少しは愛想よく振舞えば良いんじゃねぇの?」 「それは無理。オレが合わせるとか、絶対無理。愛想笑いとか、表情筋ダメにする自信があるね」 「我が儘だな、月夜は」  オレの暴論にも、麗陽は楽しそうに微笑むだけだった。他の人間じゃきっと、呆れて会話を打ち切ってる。  こうした気の長さと、相手に寄り添うやさしさが麗陽の周囲に人を呼ぶんだって、さすがのオレにも分かってる。誰だって自分の事をバカにして、否定する人間と一緒になんていたくない。  麗陽に友達がたくさんいるのは、そうした麗陽の性格と、麗陽の努力あっての事。  オレに麗陽しかいないのは、オレの性格が招いた結果。  だから麗陽をずるいとは思わない。でもつい、羨ましいとは、思う。 「オレはアンタになりたいよ、麗陽」 「何度も言ってるけどな? そんなに羨む身の上でもねぇぞ?」

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