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8時間目

「金城先生」  その声で、俺は目を覚ます。  目に光が入る。  ん?  目に、光が入る……?  先ほど、俺は鈴谷くんに目を潰された。  だから、目に光なんて入らないはずなのに。 「…………………………」  戸惑う俺に、声の主――佐々塚(ささづか)先生が「大丈夫ですか?」と声をかける。 「魘されていましたけど」 「あ、いや、少し嫌な夢を見てしまって……」 「嫌な夢?」 「ええ、鈴谷くんに拘束され、目を潰されるという」 「それは怖いし、嫌な夢ですね」  でも、と佐々塚先生は、俺の前に座る。 「夢って、深層心理とかって言いますよね。もしくは、これから起こることへの警告」 「…………」 「俺も、よく変な夢を見るんですよ。そういうとき、それが何なのか調べたりするの好きで」 「は、はぁ……」 「色々と面白いですよ。夢占いって」  佐々塚先生は、少しずれた銀のリムレスのスクエア眼鏡を、左手の薬指で上げる。 「先生も、やってみます?」 「あ、いや……。気が向いたら」 「是非」  ニコッと、佐々塚先生は笑い、立ち上がる。  そして、扉を開ける。 「ああ、最後に一つ」 「はい?」 「鈴谷くんのこと、よろしくお願いします。彼、あなたのこと、本気で好きなようですから」 「……え?」 「優しくされたいとき、優しくしてくれた人を好きになるのは、とっても自然なことですよ」 「…………」 「では」  佐々塚先生が、そう言って保健室から出ようとすると。  物凄い勢いで川中(かわち)先生が保健室に入ってきた。 「いた!! ったく、早く教室に来てください! 佐々塚さん!」 「へ? 何だよぉ、川中さぁん」 「何だよぉ、じゃねえんだわ! 喧嘩!」 「川中さん、止めなよ」 「あんたが止めろ! 馬鹿じゃないの!?」  ほら行け、と川中先生は佐々塚先生を軽く蹴飛ばす。  その様子を見て、俺は軽く笑う。  仲良いなあ、この二人。  佐々塚先生と川中先生は恋人同士。  同性だけど、全く関係ないみたい。  校内校外隠さず、手を繋いだり、キスしたりしている。  普段、きちっとしている佐々塚先生は、川中先生の前ではだらけている。  それがギャップで、このカップルを推している生徒が何人かいる。  ふふふ、と笑っていると、川中先生が「あの」と俺に言う。 「少し、相談良いですか?」 「え? 良いですけど」 「ありがとうございます」  そう言って、川中先生は保健室の中に入り、ピシャリと扉を閉めた。 ☑ 「佐々塚さんが、全っ然エッチをしてくれないんです!!」  泣きそうな顔で、川中先生は言った。  俺はポカンとし、川中先生を見る。 「そうなんですか……」 「そうなんです! 全く構ってくれないっ! 俺が誘っても、乗らないんですよ!?」 「ま、まあ……。佐々塚先生も忙しいんじゃ――」 「あのヤリチンが! 忙しいという理由で! セックスしないとかない!!」  最悪! と、川中先生は泣きそうな顔で言う。 「俺、魅力ないんですかね……」 「そんなことないですよ。川中先生は、とっても魅力的です」 「……本当ですか?」 「本当ですよ。だって、先生アイドル系のイケメンですし、お菓子作りも上手で美味しいじゃないですか! 素敵です、とっても」 「ふ、ふーん。そう? そうかなぁ!?」  川中先生は、嬉しそうに笑う。  そして、ルンルン気分で「ありがと!」と、俺に礼を言い、保健室の扉を開ける。 「元気になりました」 「それは良かったです」 「ええ」  それでは、と出ようとし、川中さんは足を止め、俺を見る。 「気をつけてくださいね、金城先生」 「え?」 「佐々塚さん、遊び半分で人のことを惑わせたりしますから」 「惑わせる?」 「何か言われても、あまり深く考えない方が自分のため、という話です」 「は、はぁ……。でも、どうして?」 「話を聞いてくれたお礼です」  では、と川中さんは廊下へ出ていった。

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