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第5話
このために、貴彦は一週間ほど会社を休んだらしい。
オメガの発情期は疎まれるのに、アルファの発情期は優遇される。そんな世の中だ。
オメガは発情期に入ると、一週間ほどはセックス以外のことがまともにできなくなる。その間アルファは絶倫になり、ずっとオメガとセックスをし続ける。それが発情期だ。
考えるだけで怖かった。そんな風になるのが嫌だから、ずっと抑制剤を飲んでいたのに。
だけど俺は貴彦が望む通りに、抑制剤を飲むのをやめてみた。俺にそんなことを要求するぐらいだから、もちろん貴彦も今日の分の抑制剤を飲んでいなかった。
オメガが発情しない限り、アルファも発情しない。
オメガが発情すれば、アルファも発情する。
その時間が来るのを待つのは、恐怖に近かった。
死刑を待つ罪人のような気分だ。
※
貴彦の家に来た二日後にそれはきた。
狂おしいほどの渇望。激しい体内の疼き。荒くなる呼吸。頭がおかしくなりそうなほど、それは強烈だった。
俺はリビングのソファから動けなくなり、耐えるようにじっとうずくまった。
ちょうど貴彦が買い物で不在だった。
耐えられないほどの疼きで、身体の奥のほうをぐちゃぐちゃにされたくなる。どうしたらいいのかわからず、とにかくズボンの前を開き、下着の中に手を突っ込んだ。股間のものを握る。
息があがる。苦しい。つらい。だから発情なんてしたくなかったんだ。
玄関でドアの開く音。ぎくりとした。歩いて来る音。俺は激しく焦った。
買い物袋を下げた貴彦が俺を凝視していた。そしてすぐに買い物袋を放り出し、俺のほうへと向かってきた。
貴彦の息はもう荒かった。まるで獣のように覆いかぶさってきて、反射的に俺は、食い殺されると思った。
荒々しいキスにたちまち息ができなくなり、乱暴に服を脱がされていく。貴彦も服を雑に脱ぎ捨てていく。
愛撫らしい愛撫もなく、性急に繋がって来ようとする。むき出しになった尻に容赦なく指が入ってきた。
「濡れてる」
興奮した声で貴彦が囁いた。オメガの身体は男でも濡れる。知識としてはわかっていたことでも、実際にそうなると変な気分だ。
早くそこに欲しい。そんな激しい欲求が腹の底から湧いてきて、気づけば自分から誘うように尻を振っていた。
貴彦はためらいなく俺の腰を掴み、後ろからゆっくりと突き入れてきた。
「うあぁあっ……あぁ」
その後のことはよく覚えていない。ただ無我夢中だった。狂ったように身体が歓喜し、貴彦にされるがままになった。普段の彼からは想像つかない、獣のような荒々しさで、俺の身体を容赦なく突いてくる。
何度イッたかわからなかった。噂通り絶倫になった貴彦は、執拗なほど俺を犯してきた。発情期に入ると性欲が増大し、飲まず食わずでも平気になる。俺たちは何かに取り憑かれたように、ずっと絡み合っていた。
「来人、愛してる」
耳元でそう囁かれた直後、うなじに強い痛みが走った。
「……うっ……」
この瞬間にわかった。俺は永久に貴彦だけのものになったのだと。
貴彦は迷わず俺のうなじに噛みつき、完全に俺を手に入れた。
※
その後は早かった。俺と貴彦は永遠のつがいとして生きるため、一緒に暮らし始めた。
つがいになるとあの狂いそうな渇望もなくなり、貴彦は余裕を持って愛撫してくれるようになった。
彼と対等でいたがるあの頃の俺はもうどこかに消えてしまい、毎日のように愛される日々を、今は幸せに生きている。
彼の言葉を信じてよかった。今では強くそう思っている。
END
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