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第2話

出会って、十年。 つきあい始めて三年。 ずっと、願っていた。 君の寝ている顔が見たいなって。 「……ふふっ」 かわいい。 太平楽、というのが似合いそうな寝顔。 隣に寝そべって、君の顔をのぞき込む朝を迎えられるなんて、幸せ。 つきあい始めたころには、この願いが叶うなんて思ってもいなかった。 かおるは、あまねの……親友の弟。 出会ったときに、かおるはまだ中学生だった。 こっち側に引き込んじゃいけないと、距離をとったこともあった。 自分が教職について、模範的な生活をしなきゃと、離れることを選んだりもした。 でも、何度そうやって突き放しても、好きだった。 ずっと。 親友を怒らせても、縁を切られても、かおるの手を離せなかった。 だって、好きなんだ。 ひとり立ちしたかおるが、おれを捕まえてくれても、怖くて信じきれなかった。 身体を繋げても、いつか、離れる日が来ると怯えていた。 『俺と暮らそうよ。日本の法律じゃできないってわかってるけど……結婚的な意味で、俺と暮らしてください。一生、智弘のこと、守らせてください』 いつも、かおるが手を伸ばしてくれる。 つきあいはじめの時も、あまねに殴られた時も。 『智弘がどんな奴かなんて、兄ぃの方がずっとわかってんじゃないのかよ! 智弘が俺を誑かしたとか、本気でいってんの?』 あまねとかおるは、仲のいい兄弟だった。 多分、あれが最初で最後の大げんか。 子どもみたいに涙を流しても、おれを選んでくれた。 あまねとはあれ以来会っていない。 かおる曰く、賛成はしていないけど黙認してくれてる感じ、なんだそうだ。 きっと、誰もが賛成して祝福してくれる恋じゃない。 それがわかっているから、おたがいに一人暮らしだったけどだらしないことはしないでおこうって、どちらからともなく決めてた。 だからどれだけ恋しくても、一緒に朝を迎えたことはなかったんだ。 「……ん……」 もにゅもにゅと、口を動かしながらかおるが寝返りをうつ。 それすら、かわいくて胸が熱くなる。 「…も、ひろ?」 「うん、おはよう」 うっすらと眼をあけたかおるが、おれを見てほにゃんと笑う。 昨夜の肉食獣みたいな様子は、かけらもない。 「夢みたい」 「ん?」 「朝なのに、智弘が横にいる」 「夢じゃないよ」 「うん」 まだ半分以上夢の中のかおるが、おれを引き寄せて腕の中に閉じ込める。 「嬉しい」 「うん」 「ホントに、夢みたい」 かわいいかおる。 素肌同士が触れ合うと、また、求めたくなってしまう。 けど残念なことに今日は平日で、かおるもおれも、職を持っているのだ。 だらしないことは、しないでおこうな。 夢から覚めるようなことを、言ってあげよう。 「かおる、今日平日」 「……うう」 「かおる?」 「うん……」 「ここで、残念なお知らせです」 「なに?」 「動けない」 「は?」 実は昨夜の肉食獣が、おれを貪ったので、腰が立たない。 なので随分と前に目が覚めていたのだけど、かおるの寝顔を見ながら、起きるのを待っていたのだ。 「だ、大丈夫? おれのせい?」 一瞬のうちに目が覚めたかおるは、飛び起きておれをのぞき込む。 「誰のせいかと言えば、ふたりのせい。風呂入れてくれる? 多分、動けるようにはなると思うから」 「わかった」 バタバタと動き始める、かわいい男。 慣れない様子で風呂の用意をしてくれる背中を、ベッドの中から見る。 これが、おれの男。 一生、一緒にいる予定の、最後の男。 もう、迷わない。 離れない。 かおるとおれ、ふたりの生活は、こんな風に始まった。 <END>

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