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【4】-1
「律、飛梅 伝説って知ってる?」
「知ってるよ」
有名な話だ。
風呂上がりのカルピスタイムが日常化し、最近は食事を一緒に取ることも増えた。お互い一人暮らしなら、協力し合ったほうが経済的だ。
あまり料理が得意でない律がベチョッとした焼きそばを皿に盛って差し出す。
「コチフカバってやつだろ?」
「何その、めっちゃカタカナな感じ……」
「うるさいなあ」
見た目の美しさに騙されていたが、生活をともにする部分が増えるにつれ、律が意外とガサツな男であることを知った。
寒暖差の激しい四月の終わり、日によっては作務衣の前をはだけた格好で家の中を歩き回る。
白い肌が目の毒だ。
時々覗く薄紅色の飾りはもっと毒を孕んでいる。
「好きで好きで仕方ない道真 が大宰府に行っちゃったから、梅のくせになんとか頑張ってそこまで飛んでいったんだよね。ちょーミラクル!」
「何か、ちょっと違う気がするけど、だいたい合ってるのか?」
「合ってるよ。恋するフライングプラムだよ」
とりあえず頷いて、なんだか芯の残るキャベツを噛む。
「なんで?」
唐突に、律が聞く。
「何が?」
「なんで、急に飛梅?」
「ああ、うん」
返事にならない返事をして、肉が生でないことを確かめながらベチョベチョの焼きそばを完食した。
「林檎の木が、ないんだって」
「ぼ……?」
口いっぱいに焼きそばをほおばり、律が首を傾げる。
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