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【4】-2
新吾は説明した。
去年の春まで実家の裏山にあったはずの林檎の木が、いつの間にかなくなっているらしい。昨日、何気なく母に電話をして、見に行ってもらったのだ。
『そんな木があったの? どのへん?』
場所を説明し確かめてもらったが、それらしい木はどこにもなかったとラインに返事が来ていた。
「へえ……」
麦茶を飲みながら、律が首をかしげる。
「律ってさ……」
「うん」
「林檎のあやかしだったり、しないよな」
ブーッと顔に麦茶を噴かれた。
ふつうなら汚いと思うところだが、美しい律の噴いた麦茶だと思うと、さほど気にならない。
「思い切ったこと言うね。でも、もしそうだったら、新吾はどうする?」
「どうするって?」
「新吾の林檎の木のあやかしが、新吾のことが好きで好きで、ここまで飛んできたんだとしたら……」
ザワリと風が吹き、庭の林檎の木が揺れる。白い花びらが狂ったように舞い上がり、家の中まで飛んできた。
律の手が伸びてきて、顔の麦茶に張り付いた花びらを拭った。
その手首を掴んだ。細い手首だった。
「律……」
スルリと手首が逃げる。
「待って。ちょっと待ってね。今日は、ここまで。どうしたいのか考えて、一緒に決めよう」
「え……」
何を?
何を、考える?
何を決めるんだ。
混乱する。
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