11 / 18

【4】-2

 新吾は説明した。  去年の春まで実家の裏山にあったはずの林檎の木が、いつの間にかなくなっているらしい。昨日、何気なく母に電話をして、見に行ってもらったのだ。 『そんな木があったの? どのへん?』  場所を説明し確かめてもらったが、それらしい木はどこにもなかったとラインに返事が来ていた。 「へえ……」  麦茶を飲みながら、律が首をかしげる。 「律ってさ……」 「うん」 「林檎のあやかしだったり、しないよな」  ブーッと顔に麦茶を噴かれた。  ふつうなら汚いと思うところだが、美しい律の噴いた麦茶だと思うと、さほど気にならない。 「思い切ったこと言うね。でも、もしそうだったら、新吾はどうする?」 「どうするって?」 「新吾の林檎の木のあやかしが、新吾のことが好きで好きで、ここまで飛んできたんだとしたら……」  ザワリと風が吹き、庭の林檎の木が揺れる。白い花びらが狂ったように舞い上がり、家の中まで飛んできた。  律の手が伸びてきて、顔の麦茶に張り付いた花びらを拭った。  その手首を掴んだ。細い手首だった。 「律……」  スルリと手首が逃げる。 「待って。ちょっと待ってね。今日は、ここまで。どうしたいのか考えて、一緒に決めよう」 「え……」  何を?  何を、考える?  何を決めるんだ。  混乱する。

ともだちにシェアしよう!