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scene.4

 望み通り最奥まで高遠に明け渡したというのに、僕は空虚を抱えている。  二度抱き合った後で高遠は後始末をしてくれた。それから腕枕をして僕の身体を抱きこんで眠っている。  居心地の悪いそこから抜け出そうともがくと、抱きしめる手に力が籠った。 「ん……起きた?」 「離して」 「嫌。先生の肌すべすべで気持ちいいよ。体温低い? こうしててもさらっとしてる」  どういうつもりかべたべたしてくる高遠を持て余すが、腕力では到底叶わない。それに思ったよりもセックスは体力を使うらしい。できるならこのまま横になっていたかった。  ただしこの腕は余計だ。 「身体平気? 最後がつがつしたから……先生えろかわ。俺ちょーはまった」 「平気だから離して」  高遠は僕の言葉を無視してくちびるを合わせてきた。奥を探るようなキスではなく、くちびるを触れ合わせたり軽く食んだりする遊びのようなキスだ。 「あさってまた来ていい? 明日はバイトだから」 「家にはもう来ないで。学校ならいいから」 「え、なんで? 学校じゃ慌ただしいし、先生が身体痛いだろ」 「いいから……それでいいから」  こんなふうにべたべたと事後まで慣れ合う気はない。後ろを使うセックスを学校ではできないと思ったから家に招いた。  だが家だとこんな風に高遠の態度が変わってしまうのだとしたら、今まで通り学校でするほうがいい。朝、ちゃんと後ろを綺麗にしていって、また屋上か空き教室ですればいいだけのことだ。  一度したことで、どんな準備が必要で、どうすれば慌ただしくともセックスできるか大体分かった。 「やだよ。それだけじゃ足りない。ゆっくり抱きたい」 「僕は……」  粗雑に扱われたい。ただ性欲処理の道具として好きに体を使われて、行為が終わったらごみみたいに放り出して欲しい。  僕の欲望なんか顧みもしないで、好き放題に穿って嬲って捨てて欲しい。 「好きだよ。最初は退屈しのぎの遊びにするつもりだったけど、相性いいし先生えろかわいいし。もう他のやつにもやってるとこ見せないし、動画だって消す。そんな顔しないでよ。俺本当に……」 「動画、僕にちょうだい。最初のやつ。あれが一番好きだから」 「え、なに……」 「軽い気持ちで、友達同士のおふざけで新米教師をからかって。人の身体を性器にして好き放題に使って放り投げていった。僕自身も知らなかった望みを、君たちは叶えてくれたんだ」  それが僕の探していたピースだった。  僕には人を愛する力がないらしい。  誰かを大切にしたいとか、愛しみたいとか、自分よりも大切に思うとか、そういう感情がないがためにずっと埋まらない場所だったのだ。  その代わりに、僕は新しい埋めかたを知った。  誰かの欲望のはけ口として、好き放題に扱われて捨てられることだ。  決して大切に抱かれたり、朝まで抱きしめられたりしたいわけじゃない。 「怒って……る?」 「違う。感謝しているんだ」  僕の穴を埋めてくれた君に。  僕に穴の埋めかたを教えてくれた君に。 「さ、早く帰って。今度は最初の時みたいに乱暴にして…………できないなら、もう要らない」  そう。なにも高遠でなきゃだめな理由はない。僕の望みを叶えてくれるなら、オナホールみたいに使って人格を顧みもしないセックスをしてくれる相手なら誰でもいい。  どこで探したらいいのかな。  出会い系を使えばいいのだろうか。 「先生…………」  力の抜けた腕から抜け出す。ベッド周りに落ちた高遠の服を拾い上げて玄関に行く。 「早く取りに来ないと外に置くよ?」  裸の君は慌ててベッドから起きだして、僕の手から服を奪い取る。そして急いでそれを身に着けると部屋を出ていった。  僕はその場に座り込む。  そして股の間から流れ出した白濁が腿を濡らすのを、うっとりと眺めた。                                       了

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