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scene.3

「焼けて赤くなってる」  洗面所で裸になった僕の背中に高遠が重なる。屋上で浴びた日差しが僕の背中を赤く焼いていた。日焼けしても黒くならずに赤くなるだけなのは昔からだ。  首のつけ根にキスする表情が、鏡越しに見えた。口元が笑っている。 「自分でできる?」  高遠の問いに頷くと、大きな手が僕の頭をくしゃりと撫でた。  五つも年下だが、小柄な僕が平均以上の体躯を持つ高遠にかなうところなどない。後ろを綺麗にするための道具を手に、僕はユニットバスに向かった。  あれから二度、学校の屋上で高遠と疑似セックスをした。  そしてこれ以上エスカレートすれば誰かに見られるのも時間の問題だと、理由をつけて高遠を家に呼んだ。 『セックスしてあげよっか。後ろでやるときは準備がいるんだけど、やりかた知ってる?』  僕が頷くと、高遠は明日の夜行くと言ってくれた。  仕事を終えて家に向かう僕の後ろを高遠がついてくる。適度に距離を置いて、ふたり連れだと知られないほどの距離で。  そして家に招くと、裸になるよう命じられた。    僕は調べた通りの手順でなかを綺麗に洗う。  思ったよりも大変な作業をなんとか終わらせると、熱った身体で洗面所に倒れこんだ。 「なんかすごい音したけど……大丈夫?」  頭はぼーっとしているが、大丈夫だ。小さく頷くと、仕方ねーと呟いた高遠に腕を引き上げられた。そのまま肩に担がれる。 「待ってな」  ベッドに僕を置いていった高遠は、冷蔵庫の水のボトルを手に戻ってきた。封の開いていなかったボトルを開けて、飲み口を僕のくちびるに押しつける。 「長いと思った」  ──だってわからないんだ。どれくらいで十分なのか、これで大丈夫なのか。失敗したらもう二度と君は僕を抱かないかもしれないのに。  不安と猜疑心のせいで、僕はこれでもかというほど身体の内側も外側も清めてきた。 「飲んだ?」  うんと頷くとくちびるを高遠が噛んだ。最初はきつく、それからやわらかく。何度か触れられて僕も覚えた。くちびるを開けば高遠の舌が忍ぶ。内側も外側も舐められて、僕の身体はぐずぐずに蕩けていくのだ。 「先生さ、あんまり抵抗せずに受け入れるから、慣れてんのかと疑いもしたけど、初めてだよな。キスは? キスも? そっか…………」  高遠がいやらしく笑った。  ふっと歪めた口元は、次の瞬間僕の喉元に噛みつく。形のいい歯が喰い込むくらい強く噛んで、次に反り返った胸の先を噛んだ。 「っ……、あっ」  高遠がそこに触れたのは初めてだ。女の子のように膨らんでもいない、小さな小さな器官は僕に必要のないもののように思ってきたけど、高遠は楽しそうに笑う。  舌を絡めて、歯で扱いて。高遠は僕の小さな粒を育てようとしているかのように構う。くちびるが離れると、充溢した赤い膨らみは蜜に濡れててらてらと光っていた。 「ちっさ」  そんなふうにからかって、もう片方もくちに含む。  ──そんなところ構わなくていいのに。いつもみたいにただ僕の身体を貪ればいいのに。僕を初めて使った時みたいに、即物的にペニスを扱いて。 「気持ちよくない?」  なにも感じない。視線を彷徨わせていると、高遠はぎゅっと指で粒を摘まんだ。そのままぎりぎりと捻りつぶさんと指を縒り合わせる。 「や……っ」 「前に椋が触ったら気持ちよさそうにしてたくせに」  あれは高遠が欲情を擦りつけている最中だったからだ。疑似セックスに感じていたからなのに。 「は、やく…………して」  傷みのせいで涙声になった。僕が欲しいのは高遠のペニスだ。これまでは股の間で挟むだけだったが、空っぽになった孔にペニスを押しこめば、僕は完全なオナホールになる。  高遠の好きに揺さぶられて、性欲を満たすためだけに使われる孔。 「あっそ。こっちしか用ないってわけ」  高遠が僕を引っ張りあげて、場所を変わる。壁に背を預けて服を脱ぐと、軽く勃ち上がった場所を示した。 「じゃ、舐めて」  一度だけ、僕のくちも孔にされた。弾力があるのに硬いその不思議な肉の棒をくちいっぱいに頬張ると、高遠は好きに腰を使った。  息苦しさと吐きそうな感覚をなんとかやり過ごして、歯を立てないよう必死に我慢した。鼻で息をするだけでは苦しくて、涙も鼻水も出た。  だけど髪を掴まれ、好き放題に腰を振られていると、胸の奥から満たされて、気づけば僕は射精していた。  またあんな風にしてもらえるのかと期待が湧く。だが今日は押さえつけられたりしなかった。高遠が広げた足の間に膝をつき、僕が顔を動かさなければいけないらしい。  おずおずとペニスを口に含む。覚えのある苦みを舌先で舐めて、喉元までペニスを埋めていく。 「舌からめて、やらしく舐めといて」 「ん……ん!?」  よく知った冷たさが尻の狭間に垂れた。それをすくい上げた高遠の指が、さっき綺麗にした場所をくるくると撫でる。  つぷんと埋まった指は入り口をぐるりと引っかいた。 「あ…………」  ぞくりと肌が粟立った。誰にも触れさせたことのない場所をローションのとろみを帯びた指が擦って、隘路を広げようとする。  僕を孔にするための作業だというのに、たまらなく感じた。やわらかかったペニスに芯が通っていく。 「くち、疎かになってる」  高遠の指の感触を追っていたせいで、ペニスを舐めることを忘れていた。自ら孔として奉仕するために顔を動かすが、高遠が指の深さを変えるたびに動きが止まる。何度もそれを繰り返すうち、高遠はなにも言わなくなった。  静かな部屋にくちゅくちゅと後孔をかき混ぜる音だけが響く。 「もういいかな」  そう言って指を引き抜かれた時には、全身の力が抜けてしまっていた。強引にひっくり返された身体を、高遠が開く。 「感じすぎ。これで処女って本当かなー。ま、ドMだからしょうがないか」  散々弄られた孔は、窄まることを忘れたようにぱくぱくと口をひらいている。早く、早くと高遠を誘うように。 「すげーやらしい顔」  高遠に鼻を摘ままれた。それに驚いてきゅっと首を竦めていると、熱塊が僕の後ろのくちを強引に開いて入ってきた。 「あ、ああ──っ……」  苦しい、熱い、苦しい……思わずいやいやと顔を振ってしまったというのに、高遠は腰を進めることを止めない。腹が裂けるのではと思うほど、深く、深く挿してくる。 「やべ……いいわ…………」  吐息と混ぜて高遠が囁く。  それを聞いてふっと詰めていた息を吐いた。そうしたらどんと高遠の身体がぶつかってくる。 「全部入ったけど……先生も良さそう、だな」  高遠を全部受け入れられたという安心感で頬が緩んだ。これでちゃんと孔として使ってもらえる。 「キツいなら言えよ」  高遠に問われ、ふるふると首を振った。キツくたって構わない。高遠が気持ちいいように使ってくれたらいい。 「なら動くよ」  最後まで入ったと言ったくせに、高遠は更に奥をえぐるように腰を押しつけた、それからゆるゆると律動を始める。  内臓をひっくり返されるような感覚が次第に熱に代わって、気づけば僕の口からはあえかな声がひっきりなしに零れていた。 「あ、あ……あっ、ん、あ……あん」 「かっわい。ぐちゃぐちゃに蕩けて熱くて気持ちいい……もっと先生も気持ちよくなって」  高遠は身体を倒してキスをしてきた。上と下と両方の穴を塞がれて、息苦しくて気持ちいい。そして触れ合う肌の狭間で胸のしこりを爪で掻く。 「や、あ……ん」 「いいだろ? こっちも。後ろがきゅんきゅん絞まる」  さっきはどうということもなかったが、嵌められた状態で摘ままたら、蕩けきった孔をコントロールするスイッチになる。  絞まる感覚がいいのか、高遠は何度もそこを摘んだ。 「先生ぎゅっとして」 「?」 「腕を首に回してぎゅっとして…………一緒にいこ」  そのほうがいいのならと、力の入らない腕をどうにか持ち上げて高遠の首に絡める。そのまま縋りつくと、高遠は律動を速めた。  ぐちゃぐちゃになって、肌の間でペニスが揉みしだかれて、極まる。 「いく……」  高遠と殆ど同じに達すると、そのまま倒れこんできた高遠の身体に潰された。

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