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scene.2

 次の時間、空いてるよね?  屋上。  たったそれだけの言葉で誘い出されて、僕は指定された場所に行く。  施錠されているはずの屋上は開いていて、朽ちかけた椅子が何脚か乱雑に置かれていた。  そこには三人の生徒の姿がある。  高遠と、もうふたり。  ここにいるということは、椋と千賀が先日の立会人なのだろう。 「先生、おいで」  手招きされて屋上の中央にいる三人のところに行く。高遠の茶色い髪がきらきらと光って綺麗だ。罪悪感の欠片も抱いていない顔で笑うと、高遠は垂れた眸を細めて、自分の膝をぽんぽんと膝を叩いた。 「鈍いなあ。ここ座れってこと」  ぐいっと手首を引かれ、よろけたところを強引に膝に引き取られた。僕よりずっとしっかりとした身体つきをしている高遠は、大人の男を膝に乗せても平気なようだ。  横向きに膝に乗った僕を、高遠の腕が包む。 「先生、この間の動画鑑賞会しよっか」  高遠の言葉にくすりと笑った千賀が携帯を翳す。そこには仰向けにされた僕の姿が写っていた。その足元に高遠がいる。 『なかなかセクシーな顔してるけど……先生もこういうの好き?』  端末から聞こえてきた高遠の声に導かれ、写りこんだ自分の表情を目にする。そこには茫然としながらもどこか期待に満ちた顔をした僕がいた。 「先生地味だけどまあまあ綺麗な顔してるからさ、ゆるい顔するとすげーえろいの」 『いいねその視線……もっと見ろよ。自分がやられてるとこ』  自分の身体を、同意もなしに好きにされているというのに、うっすらと赤らんだ頬でゆっくりと視線を滑らせる。この動画を見た人は、ふたりが合意のもとで行為をしていると見るだろう。  それほどに僕は陶然とした顔で高遠を受け止めていた。 「自分でもえろいって思うだろ? せんせ」  耳元で囁く高遠に、ふうっと息を吹きかけられる。それだけでくたりと身体の芯が蕩けた。動画の僕は激しくなる高遠の律動にゆさぶられ、どんどんと顔を熱らせていく。写りこんではいないが、もみくちゃにされたペニスは大きく膨らんでいる。 「これ見て何度もおかずにしたよ……先生は?」  ──した。  強引に体を使われる。愛情の欠片もない性欲だけで好き放題にされる。僕の高まりなど歯牙にもかけず、高遠は自分の好きにイって……そして、侮蔑を込めて僕の顔に射精した。  その十分にも満たない行為を何度も何度も思い出し、僕は人生で初めてというほどにわき上がる性欲を処理するのに忙しかった。  もういちど、して欲しいと望むほどに。 「なんにも言わないけど、いいの? 好きにしちゃうよ?」  動画は止まった。  畳の上に使い捨てられた僕が横たわっている。顔に白濁を受け、無様に股間をいきり立たせたまま笑っている。 「全部脱ごっか。まだ後の授業あるよな」  動かない僕から高遠が衣服をはぎ取っていく。貧相な身体を隠すためのベスト。ネクタイ、シャツ。肌着もスラックスもブリーフパンツも全て。靴下だけになった僕は、朽ちかけた椅子に掴まって、尻を上げる。  空に向けて双丘の狭間がむき出しになった。 「孔まで丸見え。今度こっちも使おっか」  今日は無理だけど、と言いながら高遠が腿の狭間に滑り込む。この間と同じように冷たいぬめりを帯びた場所を擦った。 「千賀、先生の顔いっぱい撮っといて」 「えー高遠の鬼畜顔のがよくない?」 「そんなもの誰が見るんだよ」  三人は僕がなにを考えて、どんな気持ちでいるかなんてまるで関係がないようだ。ただ、面白いおもちゃを見つけたとばかりに、遊びかたについて論じている。 「ほら、腿締めて」  パンと叩かれた尻が鳴る。きゅっと腿に力が入ると、高遠はふっと小さく息を漏らした。  ──感じてくれたのかな?  ぬちゅりぬちゅりという濡れた音、律動の衝撃で椅子が揺れて立てるカタカタという音、肌と肌がぶつかる乾いた音、遠くで聞こえる生徒たちの声…………。 「は、あ……」  昼間の明るい空の下、裸になって肩を掴まれ、後ろから突かれる。滑ったペニス同士が擦れ合い、一層情欲を高めていく。 「ほんとこれで感じちゃってるんだもんなあ……喜嶋ちゃん、おとなしい顔して好きものだったんだな」 「や、っ、あ!」  横から伸びてきた手に胸の尖りを摘ままれ、甲高い声を零す。しゃがみこんでいた椋が力いっぱい僕の乳首を抓った。 「手、出すな」 「あらー高遠が怒ってる。椋、止めといたほうが良さそう」 「なんだよ、いい顔になってんのに」 「あ、あ、あ……」  一度声を上げたら止まらなくなった。  壊れたおもちゃみたいに、高遠が腰を打ち付けるたび、甘えた声が漏れる。  膝が笑う。 「もうちょっとだから、堪えてろよ」  ──もう無理だ……いく……。  イメージトレーニングの成果なのか。高遠の怒張が膨れ上がった瞬間に僕は吐精した。膝から落ちていきそうな身体を高遠が腕に抱いて引き止める。  ぎゅうっと抱きつかれると、破裂しそうな僕の心音に、高遠のものが重なった。 どちらも早くて激しい。腿の間に熱い飛沫が打ちつけられる。 「っ、は…………先生」  高遠の左手が顎を掴んだ。そして強引に右を向かされたその先で、荒い息を塞ぐようにくちびるとくちびるがぶつかった。 「ん……」  強く吸いついたくちびるは、触れた時と同じほどの勢いで離れていく。  かくり、椅子に縋るようにして座り込んだ。  呼吸が整うまで余韻に浸る。    その背中を太陽がじりじりと焼いた。

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