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side butler
受け入れる側である周防は体の負担が大きいので、最初はほどほどにしようと思っていたのに、まったく押さえが利かなかった。もっと理性的な人間だと思っていたのに、流伽は自分で自分にあきれる。
「申し訳ございません。周防さま」
聞こえないと思いながらも、疲れ果てて眠る周防の頭を優しく撫でながら言う。
身の程知らずな、身分違いの恋だと分かってはいたが、流伽はずっと周防のことが好きだった。だから周防の手がかからなくなったら、気持ちを打ち明けてすっぱりフラれようと思っていたのに。
流伽が周防の専属の執事になろうと決めたのは、十三歳の時だった。
休暇をもらって遠出した両親が、不幸な事故で亡くなった。やることがあって忙しくしている間は、悲しんでいる余裕はなかった。悲しみが襲ってきたのは、葬儀を終えて自室のベッドで横になっているときだった。涙が浮かんで、こぼれそうになったとき。
ノックと同時に入ってきたのは周防だった。いつも一緒に寝ている、周防の体と同じくらいの大きさのクマのぬいぐるみを抱えている。
「流伽?」
慌てて目元をぬぐって、周防に駆け寄る。
「おひとりで来られたのですか? 一緒にお部屋に戻りましょう。お送りします」
周防たち主人一家が住んでいる建物が母屋で、使用人の部屋は離れにあるので、少し距離がある。
敷地内とはいえ、夜更けに八歳の周防が一人で来るのは危ない。
「流伽が悲しいはずなのに、ずっと泣いてないから気になったの。これからは僕が一緒にいてあげるから寂しくないよ! 一緒に寝よ!泣いていいよ!」
「周防さま……」
流伽の心配をしてくれる周防が、いじらしくて可愛くて。執事頭あたりに叱責されるのは想像できたが、流伽は周防をベッドに招き入れた。
照明を落とすと、明かりはカーテンから漏れる月の光だけで。
「流伽の髪がお日様みたいだから、真っ暗でも明るいね!」
周防が小さな手で流伽の髪を撫でる。流伽を寝かしつけに来たはずなのに、ひとしきりぺらぺら喋ると、周防はさっさと先に眠ってしまった。
同じベッドで眠る周防は温かくて柔らかくて。いつのまにか悲しみは少し薄れていた。
手放したくない、と思った。
翌日執事頭に二人は、こっぴどく叱られた。
周防の父には「大学までの学費は出す。その先は私の会社で働くでも屋敷で働くでも、外で働くでも自由にすればいい」と言われていたが、中学を卒業したら流伽は大学に行きながら周防の世話係の執事になることにした。
実の兄よりも年の近い流伽になついていた周防は、素直に喜んでくれた。
反抗期を迎えた周防の足に口づけた時、無性に興奮した。無垢な、さらに言えば主人である周防をそういう対象として見ていたことに気づいた流伽は自分で自分を軽蔑したが、周防もまた興奮していることに気づいて嬉しかった。反抗期まっさかりの周防が怒りだすのが分かっていたので、からかいたい気持ちを抑え、気づかないふりをしたが。
周防の柔らかい髪の毛に、流伽はそっと誓いのキスをした。
「I’ll never leave you again.」
優しくて可愛くて、無垢な主人。
周防は流伽の、唯一のマスターだ。今までもこれからも。
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