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Come, say yes:ネットでの再会

 未だかつて遠距離恋愛なんて、した事がなかったから、どういう感じなのか実際イメージが湧かなかった。逢いたい相手は、はるか遠い海の彼方にいて、寂しい想いを抱える毎日なのかなって、始めは想像したり。  大好きな相手――板前希望の元王子様で、誰もが羨む容姿をしているアンディ。今は王位継承権が弟のローランドに移り、その補佐を仰せつかっているらしい。  補佐の仕事をしながら、板前になるべく修行を兼ねて、暇を見つけては料理を作っているそうだ。  メールや電話のやり取りをしながら、アンディの頑張りを感じ取って、俺も頑張らなきゃなぁって思っていたある日。  メールに添付されていた写真に、俺は凍りついたのである。  軍事衛星で俺の事を、こっそり監視しているは知っていた。それは俺と出逢う前から行っていた事なので、今更止めろと言っても、きかないだろうと諦めていたのだが。 『鼻の下伸ばして、デレデレしおって。みっともないったら、ありゃしないぞ』  写真と一緒に、書かれていたアンディの文面。  ――確かに、否定はできない……自分の目でその写真を確認したら、本当にだらしない顔をしている。  アンディが怒ってる理由は、俺のドジが授業中に炸裂したせい。  体育の時間に誤って女子とぶつかってしまい、足を挫かせてしまったのだ。お詫びを兼ねて登下校を一緒にしているだけなんだけど、歩くのがしんどそうなので、鞄を持ってあげつつ、肩を貸していた。  その時体にさりげなく密着する柔らかい胸とか、シャンプーの香りで、俺はものすごぉくグラグラしていたのだった。故にだらしない顔を、していたというワケ。  ただそれだけなんだけど、アンディの怒りは収まらない(当然か……)  毎日ご丁寧に登下校の様子を撮り、メールに添付してくれる。 『毎日お熱い2ショット、ご馳走様!』 『お前の優しさは、イライラを通り越して呆れるぞ』 『そんなに密着してたら勘違いされて、告白されるかもな(笑)』  アンディから放たれる文章に、毎回頭を悩ませていた。誤解を解きたくて、携帯のアドレス帳に載ってる『愛しのアンドリュー様』に電話しても―― 「今すっごく、忙しいのだ!」  の一言であっさり終了、いつかけても繋がった試しはない。  メールする暇あるクセに、(しかも写真まで撮影して)話しすらしてもらえない現状に、俺はほとほと困り果てていた。一方的に監視され、嫉妬たらたらのメールを送りつけられた揚句、弁解の余地もない。 「俺だってお前に逢いたいんだぜ。おい――」  母親が読み終えた女性週刊誌に、世界のプリンス特集が載っていた。  淡い期待を抱いて、パラパラ捲っていくと予想通りアンディは元王子として、ローランドと一緒にバッチリ掲載されていて。背中まである長い金髪を束ねるように三つ編みし、なぜかメガネをかけて、ローランドの後方に控えている姿。  本人は目立たないようにしているつもりだろうが、メガネをかけた事によって、容姿端麗さに磨きがかかったように見えるのは、俺の目の錯覚だろうか。  その写真をこっそり切り抜き、数学のノートに挟めている。アンディが日本を去る前に、数学のノートに書いてくれた想いのこもった文章は、俺の支えだった。  一緒に残してくれたアンディが調合したという香水は、机の中に仕舞っている。俺が付けたとしても、求める香りにならないし、キレイな青色の液体がアンディの瞳の色を思い出させ、胸が切なくさせるから。 「両想いなのに、どうしてこんな切ない気持ちを、抱えなきゃならないんだよ。アンディのバカヤロ……」  今日も数学のノートを眺めつつ、挟めている切り抜きを見つめながら、アイツに届かない文句を言った。  今頃忙しく、仕事してるんだろうな。  アンディの事を寂しく想いながら、ぎゅっとノートを抱きしめて、その日は眠りについた。

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