20 / 38

Come, say yes:ネットでの再会2

「兄ちゃん、起きてよ。ねえってば!」 「――んあ? 何だよ透馬……今、何時だ?」  ゆさゆさ体を揺さぶられ、しぶしぶ目を擦りながら、枕元に置いてあるスマホへやっと手を伸ばす。 「……3時ってお前、こんな時間に何で、起こされなきゃならないんだ」 「しょうがないだろ、ローランドが兄ちゃんに話あるから代われって、言っててさ。俺の部屋に来てよ」  急かすように俺の腕を引っ張り、強引に布団から引きずり出された。  ローランドが俺に話って、間違いなくアンディ絡みだろう。 「透馬……いつの間にローランドと、仲良しさんになったんだ?」  さっさと俺の部屋を出て、隣にある自分の部屋に入ろうとした透馬に話しかけると、扉を開けながら振り返り、ちょっと照れたような顔をした。 「えっと、アンドリュー王子の病院に行った次の日に、いきなり携帯に電話がかかってきて、世間話してから」 「どうしてお前の番号、分かったんだろうな」  つっこむべき問題は、そこじゃないか。 「それよりもここに座ってよ。ローランド待たせてるんだから」  勉強机の上に透馬専用のノートパソコンが設置され、モニターには不機嫌な顔をしたローランドが、じーっとこちらを見ていた。 「ロウ、兄ちゃん連れて来たよ。じゃあ俺、これからランニングしてくるから」  さりげなくローランドを愛称で呼んだ透馬は、俺の肩をポンポン叩いてから、颯爽と部屋を出ていく。  ローランドの雰囲気に、ビビった俺。透馬に放った、助けてくれの視線は、華麗に無視されてしまった。  寝起きのボサボサの髪で顔を引きつらせた俺を、呆れた眼差しで見つめるローランド。 「――相変わらず、酷い顔をしているな和馬。久しぶり」 「お久しぶりです、ローランド……。お元気そうでなにより」  以前病院で逢った時よりも、ぐぐっと威厳が増してる気がする。 「何をビクビクしているのだ、取って食ったりしないぞ。小者め」  愛情を感じるアンディの言葉遣いに対し、ローランドは辛辣な言葉遣いで俺に向かって、猛毒を吐いてると思われる。自分の大事な兄をたぶらかしてる、俺だからだろうけど。  同じ気持ちで今、ローランドをじっと見つめた。もしかして透馬に対して、好意を抱いているのではないかと、不安な気持ちになったから。 「透馬とやり取りしてるんですね。全然知らなかったです」 「ああ、いろいろ相談事に、乗ってもらっているからな。知らなかったのか?」 「初耳、です……」  交友関係に対して、わざわざ俺に報告しなくてもいいんだが――表向き一応、兄の友人の弟(しかも王子様だぜ)と交流があるのは、知らせた方がいいんじゃないか透馬くん。  俺が放つ、猜疑心を含んだ眼差しに、画面越しでチッと舌打ちした。 「貴様、激しく勘違いしてるだろ。俺にはそういう趣味ないからな!」  悪かったな、そういう趣味してて。俺はひとりの男として、アンディが好きなんだよ。 「いつもこの時間帯に逢って、話をしてるんですか?」 「俺も忙しい身だから、毎日というワケにいかないが。それがどうかしたのか?」  受験生の透馬、夜遅くまで、勉強してるハズなんだ。毎日でなくても、この時間帯は絶対にキツいと思う。友達の為にそこまで、出来るものだろうか? 「ローランドもし、透馬が告白してきたら、どうしますか?」 「はあ!? そんな事あるワケなかろう。自分がそうだからって、弟まで変な道に染めたいのかお前は」  超絶呆れたと言わんばかりに両手をW型にし、首を横に振る。  世の中絶対なんて、あり得ないんだよ。自分で実証済みだからこそ、この言葉を言ってみたのだ。 「こんなくだらない話をするのに、呼び出したんじゃないぞ俺は。お前にお願いがあってな」  お願いの台詞に、自然と顔を引きつらせた。心がズーンと重くなる。アンディのお願いの時は、ヒモになれと言われたから。まさか…… 「透馬が欲しいのだ、だから説得して欲しくて」 「やっぱりっ! そういう目で透馬を見てるんじゃないか」 「そういう目って、違うのだ! あ~もう、日本語は厄介だぞ……」  何やらブツブツ英語を喋り、肩まである栗色の髪を苛立ち気に耳に掛けながら、 「透馬の体が欲しいんじゃなく、能力が欲しいのだ。俺の傍で働いて欲しくてな」 「そんなに能力、高いんでしょうかね?」  ごくごく普通の、中学生だと思うんだが。 「和馬……陰ながら透馬がお前の事を支えているのが、分からないのか? 俺に対する態度や、接し方一つとっても一級品だぞ」  昔からドジばかりしてるから、透馬に支えられてるの分かってますよ。言われなくても。 「透馬はまだ中学生ですよ、欲しいと言われてもですね」 「鉄は、熱いうちに鍛えよと言うではないか。俺が透馬の持つ才能を、最大限に引き出す事が出来るのだぞ。兄として鼻が高いだろう?」  うへぇ――俺にそんな事、お願いされても正直困る。さすが兄弟だよ、変な頼みごとをするトコが。 「ええっと、その話は透馬にしてるんですよね?」  困った顔をしながら渋々訊ねると、モニターの向こうでも同じように、困った顔をしたローランド。 「俺の誘いに、Yesと言ってくれなくてな。理由を聞いても言葉を濁して、教えてくれないのだ。何か心当たりはないだろうか?」 「そんな事、急に言われても。う~ん」 「鈍くさいお前に、訊ねたのが間違いだった、もういい。ただ透馬を説得してくれればいいから。兄のお前なら出来るだろう?」 「ちょ……それは――」 「無論タダでとは言わん。きちんと報酬前払いにしてやるからな」  サラサラな栗色の髪を揺らして、小首を傾げながら不敵に微笑む。  タダより高いモノがあるのを、俺は知ってるんだぜ。正直怖いんだけど……  顔を引きつらせる俺にバイバイの仕草をして、モニターから消えたローランド。入れ替わるように、誰かがモニターの前に映った。俺は目を見開き、その人を食い入るように見つめる。 「何の仕打ちなのだこれはっ! 目隠ししてあちこち連れ回すなんて、卑怯だぞローランド」 「欲求不満がたまって、ヒステリー起こしてる兄上に、皆が困っているんです。反省の意味を込めて、連れ回しただけですが」 「こんな事、兄にやっていい事ではないぞ!」 「今は俺の方が偉いんですから、大人しく言う事を聞いて下さい。兄上のイライラは、見ていて不愉快なんですよ」  ローランドは苦笑いしながら言うと、アンディの後ろに回り、目隠しをパッと外した。 「アンディ……」  俺がそっと呼びかけると目を見開いて、食い入るように見つめ返してきた。 「軍事衛星使って和馬を見張ってるクセに、当の本人とは電話とメールのやり取りしかしない。どうして一昔前のコミュニケーションしかしないんだか。面と向かって話をすれば、誤解だって簡単に解けるだろうに。なあ、和馬」 「それはアンディなりに、ワケがあるんです。そうだよな?」 「…………」  俺が訊ねても、アンディは固まったまま、口を開こうとはしなかった。理由はその振動で瞳に溜まった涙が、零れ落ちそうになっているから。 「和馬、お前の寝起き姿があまりに醜いから、兄上が泣きそうになっているではないか。何とかしろ!」 「ええっ!? 何とかしろって言われても」  わたわたと手櫛で、寝癖を直してみる。 「とりあえず、報酬前払い成立だからな。しっかり透馬を説得してくれよ」  アンディの後方で言い放つと、部屋から出て行く扉の音がした。 「――生和馬だ」  目を擦って涙を拭うアンディは、ワケの分からない事を言う。 「生アンディだな、久しぶり。って、昨日電話したばかりだけど」  確かに電話したけど忙しいの一言で、すぐに切られたライン。たった一言だったが、耳元に残るアンディの声に、俺は胸がじんとしたんだ。相当重症だよなぁ。 「アンディごめん。イライラさせるようなことをしちゃってさ」 「イライラなんて、全然してないぞ。俺はそんな器の小さい男ではない」 「プッ! そうだな。ごめんごめん」 「なぜ笑うのだ、失礼だぞ」  ローランドがうんざりしながら文句を言うくらいだ、かなりヒステリーを起して、周りに迷惑をかけていたんだろう。その原因を作ったのは、俺なんだから。 「アンディ、好きだよ」 「どうしたのだ、唐突に」  真っ赤になって、横を向くアンディ――何か新鮮。こうやって向かい合うのは、2か月ぶりなのだった。 「仕事中、メガネをかけてるのか?」 「どうしてメガネかけてる事、知っているのだ?」 「日本の雑誌で見かけた。ローランドと一緒に、たまたまお前が載ってたんだ。メガネをかけた、真面目な執事風を装った写真がさ」  笑いながら教えてやったら、なぜ俺まで……と口元で呟いて、黙り込んでしまったアンディ。 「その写真こっそり切り抜いて、いつも眺めてるんだぜ」 「そうか……」 「誰かさんは忙しいって言って、全然相手にしてくれないからな」 「だって和馬があんな女に惑わされるから、無性に腹が立って、その……」 「俺だって妬いてるんだぞ。どこぞの姫様を格好良くエスコートしてるお前の写真見て、ムカムカしたんだ」 「あれは仕事なのだ、仕方なく――」 「分かってるよ、それくらい。頭で分かってても、どうしようもない事あるだろう? お前もさ」  俺がモニターにぐいっと顔を近づけると、上目遣いをしながら顎を引く。 「今回の件は、百パーセント俺が悪い。ドジした上に、女子の体にムラムラして、だらしない顔もした。アンディが怒るのは、当然の権利だと思う。だがなそのイライラを、第三者にぶつける行為は、いただけないと思うんだ」 「和馬……」 「お前の中にある想い、イライラも含めて全部俺に、ぶつけてくれないか? 貯め込まないでくれよ。遠くにいるからこそ、支えてやりたいって思ってるんだからさ」 「分かった。これからはちゃんと話するから」 「忙しいの一言で、電話切るなよな。寂しいんだから、これでも」  目を細めて見つめると、ぷいっと後ろを向いてしまった。 「アンディ?」 「その顔、反則だぞ。無性に、抱きしめたくなった……」 「俺も。アンディのその背中に、抱きつきたくなった」 「――だからイヤだったのだ、顔を見たらもっとお前が、欲しくなってしまうから。離れている距離感を、直に感じてしまう」  背中を向けたまま膝を抱え、寂しそうに呟くアンディ。 「そうだな。離れた距離感を埋めたくて、24時間繋ぎっぱなしにしちゃうかもしれない。学校サボって、お前に釘付けだ」 「俺もローランド放っておいて、きっと和馬にべったりだぞ」  こちらをちょっとだけ振り返りながら、可笑しそうに笑う。その切なそうな笑顔に、胸がきゅんとした。 「そういえば報酬前払いがどうとか言ってたが、ローランドに何を頼まれたのだ?」 「透馬が欲しいから、説得してくれって言われてさ。びっくりだよ」 「ローランドが透馬を、欲しがっているのか!?」  びっくりして、椅子から落ちかけたアンディ。慌てて立ち上がって、モニターを両手で掴んで、ゆさゆさと揺さぶる。  その様子は、さっきの俺と同じだった。 「違っ! 俺らみたいな恋愛関係じゃなく、ローランドが透馬の持つ能力を欲しがってて。鉄は熱いうちに鍛えろとか言ったんだ」 「なんだ……そうか、良かった――」  へなへなと椅子にもたれて座り込み、ふと切ない目をして、天井を仰ぎ見る。 「ローランドが俺と同じような辛い想いをすると考えたら、いても立ってもいられなくなってしまった。違って良かったぞ」  深いため息を一つついて、俺の顔を見ながら微笑んだ。  だがアンディの頬笑みに、俺は頬笑みを返す事が出来なかった。 「どうしたのだ、和馬?」 「透馬がローランドの誘いを断る理由が、思いつかなくてさ。何でだろうって」 「ん……。ローランドは兄弟の中で一番、知能指数の高いヤツだからな。俺でも何を考えてるか分からないし、付き合っていくのが困難だと、思っているんじゃないか?」 「付き合っていくのが困難な相手の、相談に乗れるかお前?」  俺が難しい顔をして言うと、 「俺はノーサンキューだぞ。仕事絡みなら仕方ないにしろプライベートなら、面倒な相手にわざわざ、首を突っ込まん」 「そうだよな、やっぱり。俺は正直ローランド苦手だから、絶対に相談とか頼み事とか、無理って思っちゃってさ」 「ローランドは和馬の事、気に入ってると思うぞ。普段より口数が多いし、俺と引き合わせてくれたじゃないか」  口数多いのは、俺に毒を吐くためだと思うんだけど。  アンディに引き合わせたのだって、透馬の件があるからなんだ。報酬前払いが、この逢瀬――返金出来ない上に、ギブアンドテイクを巧みに利用しているのが、知能犯だよな。 「俺も透馬の考えてる事、さっぱり分からないから、何とも言えないんだけどさ。ガキみたいな仕草をするクセに、言動にそつがないっていうか、掴みどころがないっていうか。全部計算して、行動してるみたいな……」 「なるほどな。ローランドは透馬のそういうところが、気に入ったのかもしれん。リアリストで、無駄を嫌うから」 「リアリストねぇ。なぁこの件、説得に失敗したら、お前と別れなきゃならないとかってなったりする?」 「ローランドに言われたら、俺と別れるのか?」  憮然とした表情をするアンディに、俺はちょっと笑ってしまった。 「別れられるワケないだろ。じゃなきゃ海外なんて離れた距離の、遠距離恋愛なんかしないって」 「和馬、今日はグサッとくる、直球投げてばかりだ。どうしていいか、分からないぞ」  鼻声で呟き、また顔を背けて、モニターに広い背中が映る。 「泣くなよ、おい」 「泣いてなんか……いない」 「アンディを泣かすつもりなんてなかったんだ。離れてるっていうのに、不安な気持ちにさせて、悪かったって思って。今まで言いたかった事、伝えてるだけなんだよ。――その言葉、お前の顔見ながら、ちゃんと言いたいんだけど」 「そういうのはっ! 逢った時に、とっておいてくれって。今言われても、すっごく困るのだ」 「俺の好きなお前の顔、見せてくれよ」 「……やだ」 「頬に伝ってる涙、拭ってやりたいんだ。こっち向けよ」 「拭えないクセに、そんな事を言って!」  声を荒げたアンディが、やっとこっちを見てくれた。ウサギのように目を真っ赤にしながら、号泣している顔に胸が切なくなる。 「俺の為に何度涙、流したんだろうな。その顔も好きだけどさ、やっぱり笑った顔の方が好きだよ」 「和馬……泣いてばかりで悪かった。感情が上手く、コントロール出来ないのだ、お前が好き過ぎて」  そう言って、袖で涙を拭う。  傍にいるなら――抱きしめてやりたいのに。 「俺なんて感情どころか、体のコントロールも出来ないんだぜ。アンディの顔見た瞬間から、勃っちゃった」  俺の言葉にプッと吹き出す。やっと笑ってくれたな。 「和馬って、見かけによらずエロいのな」 「お前が俺にエロい事していったせいで、何か変わったんだよ」 「顔、真っ赤になっているぞ。可愛いな、ムカつくくらい」  形勢逆転――今度は俺が、翻弄される番になってしまった。アンディはしっかりこっちを向き、頬杖をつきながら俺を見つめる。 「和馬の感じるトコ、たくさん責めて責めて、この手で触って、イかせたい」 「そそ、そうか……逢った時にやってくれ……」 「見せてよ、大きくなってるトコ」 「なっ何言ってんだ、エロアンディ! 恥ずかしいに決まってんだろっ」 「今更何、恥ずかしがってるのだ。俺は和馬のココとかアソコを、しっかり見てるっていうのに。減るもんじゃあるまい?」  不敵に笑いながら、右手で脱げとアピールするアンディ。  どうしてエロい事に関して、こんなに積極的なんだよ。俺が言う台詞に、あんなに顔を赤くしてたヤツとは思えない。 「減るっ、俺の自尊心が著しく低下するっ! まったくお前のお願いは、どうしてこうも変なのばかりなんだよ」 「だって見たいと思ったから、言ってみたのだ。しょうがないな、じゃあ俺のを」 「見たくないからっ、んもぅやめてくれよ……」  おもむろに立ちあがったアンディに、俺は頭がグラグラした。  どうして、こうなるんだ?  こんなアブナイ状況だというのに、俺は萎えるどころか、なぜかさっきよりも元気なんですけど……  顔を引きつらせてる俺に、アンディが楽しそうな表情をする。まるで出逢った頃の様だ。懐かしい雰囲気。 「じゃあ、一緒にイク?」 「や……それはちょっと、無理だと思う。ここ透馬の部屋だし、その」 「俺だって、ローランドの部屋にいるのだぞ」 「分かってるよ、そんなの。そうじゃなくて、えっと……持たないから、俺の」  言葉を重ねる度に羞恥心で、顔がどんどん熱くなる。 「どうしてなのだ?」 「恥ずかしい事、聞くなよ。もう!」 「恥ずかしい事だろうが、何でも知りたいのだ。和馬のすべて、教えて?」  モニターの向こう側、キレイな青い目を細めて、俺を包み込むように見つめるアンディ。事実を知ったら、軽蔑されないだろうか。  真っ赤な顔を見られたくなくて、横を向きながら呟くように答える俺。 「……お前の顔見ながら、ずっと弄ってたし。その……一緒にはイケないと思うんだ」 「なっ……」  呆れられた、よな? 穴があったら入りたいっていうの、こういう事だろう。 「和馬、俺にあんな恥ずかしい事言いながら、んな事してたなんて……。何て可愛いんだ!」 「あのアンディ?」 「いや、かなり感激モノだぞこれは。あんな顔しながら、ヤッていたなんてなぁ。クソ真面目だと思ってただけに、嬉しい発見だ。愛いヤツめ、ホントに」  興奮してモニターを、両手で激しく揺さぶる。  俺はこの言葉に、何て返したらいいんだろうか? 「一緒にイカなくていいから。和馬のイク顔が見たい、いいでしょ?」 「なんだよ、それ。恥ずかしいって」 「見せてくれないのなら、しょうがない。お前に分かるまで俺の愛を示すべく、直接俺自身を見せるまでだな、うむ」 「だーっ! 見せなくていい! 頼むから、やめてくれっ」 「じゃ、決まりだな。ほれ、ちゃんと顔を見せろ和馬」  俺の返答が分かってたんだろう、嬉しそうにモニターに顔を寄せるアンディ。まったく、知能犯め。 「ちゃんと真正面に顔を向けて。俺を見て和馬……感じてるトコ見せないと、俺もイケないんだからな」 「そんなにじっと見つめるなよ。恥ずかしいから」 「ん? 目をウルウルさせて、耐え忍ぶ姿、堪らない。可愛いぞ」  舌舐めずりしながら、わざと俺を煽る様な事を言う。モニター越しなのに、アンディから伝わってくる色香が、俺をクラクラさせた。 「つっ……も、イキそう」 「和馬、こっち向いて、目を逸らすな、俺から」 「アンディ……んんっ!」  目を逸らすなと言われたけど、やはり恥ずかしさで俯きながら、イッてしまった俺。しかも溜まっていたワケじゃなかったのに、手元がスゴイ事になっている。  透馬がいつ戻ってくるか分からない状況に、急いでティッシュを探すべく、しゃがみ込んでパソコンの前から姿を消した。 「何か和馬、野ネズミみたい。ちょこまか動いて」  離れたパソコンから、アンディの楽しそうな声が聞こえる。 「うるさいな、もう。見るなよ!」 「見る見る、しっかり録画させてもらったし、これでいつでも和馬で、ヌく事が出来るぞ」  その台詞に、俺は絶句した。録画って、一体何を!? 「さて、ローランドが戻る前に、俺のパソコンにバックアップせねば。和馬コレクションがまた増えたぞ」 「おい、待てよっ! 何なんだその、和馬コレクションって?」  汚れてしまった自身を拭って、慌てて透馬のパソコンに食らいついた俺。 「和馬の動画や写真のコレクションだ。さっきのは間違いなく、秀逸な動画になるであろう。フフフ(ΦωΦ)」 「さっきのって、まさか……」 「俺と会話を始めてから、和馬がイクまですべて録画しておいたぞ。俺が直視できなかったトコ、改めてチェックして、和馬が感じている箇所を探さねば」 「探すなバカアンディ! こっちの同意なしに録画するなんて、絶対卑怯だっ!」 「まったく照れ隠ししおって。ちゃんとローランドのパソコンから、抜いてやるから安心しろ」 「そこが問題じゃねぇよ、今のも持ってるヤツも、全部デリートしろっ! 消し去ってくれっ」 「えーっ、イヤだぞ。パソコンごと、破壊しなきゃならないじゃないか」  言ってる意味、全然分かんない。  かくて俺は、何も告げずにパソコンの電源をサクッと落とした。慌ててメールや電話が入ったけど、無視を貫かせてもらう。  俺の恋人アンディの変態っぷりが、ここまでだったとは、俺も予想外だった。イヤ本当に、マジ勘弁してくれ……

ともだちにシェアしよう!