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Please say yes:追憶

 俺の恋人は、同性。しかも某国の元王子様だったけど、現在は日本料理店の板前見習いをしている。  出逢いは通っていた高校に、留学生として突然やってきたアンディこと、アンドリュー王子。その姿はまるで、童話の絵本から抜け出してきたような、全ての人の目を奪う存在で。自分には勿体ない存在――  そんな彼に、いきなり迫られた挙句に告白され、面食らったの何の!  だって俺、男だし、顔がいいとも言えないし、どこにでもいる一般家庭の子どもなんだ。あまり耳慣れない某国の王子様に、言い寄られる筋合いはなかった。  そんな王子さまに、毎日のようにしつこく迫られる覚えはないって思っていたとき、家族で一度海外旅行に行ってた話を弟にされ、そこでアンディと出逢っていたことに、やっと気がついたんだ。  俺が小学校2年のときに、グアム旅行で家族とはぐれ、迷子になっている最中に、アンディと偶然遭遇。ひとりで泣きじゃくった、目の前にいる外国人の見慣れない男のコを何とかしたくて、覚えたての英語を口走ってみた。日本語も若干、混じっちゃったけど―― 『I love you. 大丈夫、僕がついてるから。泣かないで。I need you……』  通っていた英会話教室で、偶然見てしまった光景。イケメン外人講師が、泣いてる女の人に言っていたのが、すっげぇ印象に残った。コッソリ隠れて見ていたら、女の人が泣くのを止め、満面の笑みを浮かべたから、きっと笑うことが出来る英語なんだって、子どもながらに思った。ただ、それだけだったのに。  アンディは俺の言葉を聞いて、青い色したキレイな瞳を潤ませながら、ニッコリと微笑んでくれたんだ。 『Really?』  肩まで伸ばした、さらさらの金髪をなびかせながら小首を傾げる姿は、子どもながらにどぎまぎしちゃったっけ。 『Yes! 僕がそばにいるよ、安心してね』  元気よく言った途端に俺の体に抱きついて、ぎゅぅっと細い腕を回し、眩しいくらいの笑みを浮かべてくれた、小さなアンディ。  何を思ったのかその後、俺の事を追跡したらしい――  アンディの執事がお礼がしたいからと、母親に住所を強請ったため、仕方なく教えたそれを使い、あろうことか、自国の軍事衛星で俺を監視というか、ストーカーしていたらしいんだ。 (というか、どうしてお付の人は、一国の王子の行動を止めなかったのかが、未だに不思議すぎる!)  成長していく俺を観察しながら想いを馳せた結果、日本の高校に留学してきたアンディ。  追いかけてきた経緯を知ったからこそ、ここは思いきって、振ってやらなきゃって思った。  男同士の恋愛だけでも問題すぎるのに、それが庶民の俺と某国の王子様なんて、どう考えたって釣り合わないし、将来別れる運命が、目に見えてしまったから。 『和馬、俺はお前を愛している。世界中の言語を使って伝えても、伝えきれないくらい、お前を愛しているのだ』  そう言って、右手を差し出してきたんだけど、あえてその手を取らなかった。 「いい加減にしてくれ。俺にその気はない、諦めろ」 『しつこいと言われようと、諦められるワケないだろう。この胸が張り裂けても、言い続けてやるぞ。和馬の事が好きなんだ、愛しているんだ!』  何度断っても、その手を弾いても、諦めることなく告白した上に、何度も俺に向かって手を差し出され、困り果てるしかなかったけれど、アンディの事を考え、語気を強めて告げてみる。 「自分の立場をわきまえろ。行く行くは王様になるんだろ? 男に、とち狂ってる場合じゃないぜ。しっかりしろよっ!」  まるで自分自身に言い聞かせるように告げた言葉が、アンディの胸を突いたらしい。差し出していた右手を、力なく下ろしたんだ。 『バイバイ……』  涙声でそう言って、自ら階段を落ちていった姿に、慌てて手を伸ばした。今すぐにコイツの手を、掴まなきゃならないって、本能で悟ったから。  なのに俺の手にした物は、アンディが付けていた手袋だけで。掴んだ俺の手を弾いて、ゴム人形のように、階段の下まで落ちていく、現実がどうしても信じられなくて、目の前がクラクラしたっけ。  生き別れじゃなく、永遠(とわ)の別れをその瞬間、思い知らされたんだ――  その後アンディは大学病院に運ばれ、一命を取り留めたものの、3ヶ月間ずっと目を覚まさなかった。どこにも、異常がないのに。  俺は責任を感じ、毎日病院にお見舞いをした。責任だけじゃない……少しでもアンディの傍に、いてやりたいって思った。  ――アンディが目覚めた時、一番に俺のことを見てほしかったから。  毎日通う内に、表情が変わっていくのが分かった。最初は見ているだけで、幸せになってしまうような笑みを浮かべて、静かに寝ているのに。俺がお見舞いしている時間、時々苦しげな表情を浮かべ、額に汗をかいたりしたんだ。  ――何か、夢を見ているのだろうか?  それを何とかしたくて、返事の返ってこないアンディに、ひたすら話しかけてみた。代われるものなら、代わってやりたいって、あのときどんなに思ったか。  そんなある日、アンディのベッドの傍で宿題をしている内に、ついウトウトしてしまい、寝てしまった俺に、誰かが話しかけてきた。 『和馬……和馬……』  遠くから語りかけられているような、とても小さな声。だけど聞き覚えのあるそれに、ちゃんと答えなきゃって、眠い目を擦って顔を上げたら。 『……和馬、相変わらず眠り姫なんだな』  青いガラス玉のキレイな瞳が、俺のことをしっかりと捉えていた。俺の大好きな、アンディの青い瞳が――  嬉しくて、泣きだしそうになりながら、ナースコールを押したっけ。 「アンディが……アンドリュー王子が、目を覚ましました。大至急来て下さいっ!」  大きな声で言い放ちながら、頭の片隅で考えたんだ。  これから俺は、どうなっていくのだろう。どうすれば、お前を守れるくらい、強い男になれるのだろうかと――

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