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Please say yes:はじめてのデート

 父親である王様からお許しを受け、指導を受けていた板前のツテを使い、老舗の日本料理専門店に、コッソリと潜り込むもとい、修行することになったアンディ。  同じ日本にいられることに、俺としては、すっごく嬉しかったんだ。  太平洋を隔てて、ずーっと遠距離恋愛をしていた期間が長かったからこそ、おんなじ国にいられることに、喜びを感じて止まなかった。手を伸ばせば、触れられる距離にいる。逢いたい時に、逢えると思っていたのに―― 『ああ、和馬。どうしたのだ?』 「えっと……その、お前の休みって、いつなんだろうって。ちょっとでもいいから、逢いたいなと思ってさ」 『済まぬ。下っ端は、たくさん勉強することが多くてな。それに先輩方のお世話もあって、息つく暇もない状態なのだ。もう少ししたら多分、落ち着くと思うから、それまで待っていてくれ』 「でっ、でもさ、ちょっとでもいいから、顔を出せないか? 逢いたいんだけど」 『無理なのだ。今、逢ってしまったら間違いなく、堕落してしまう恐れがある。それだけは、どうしても避けたいのでな。我慢してくれ、愛してるから』  そして俺の返事を待たず、切られてしまう電話に、落胆の色を隠せなかった。 「アンディ、お前は一言目にはいっつも済まぬと言って、二言目には我慢しろで、最終的には好きだの愛してるだの、感情の伴ってない言葉を吐いてくれてさ。昔から今までずっと、俺を翻弄してくれちゃって……」  流す涙すら、枯れてしまった状態だ。こんなことなら、太平洋の向こう側にいてくれた方が、諦めがつくっちゅーの!  切ない気持ちを抱えながら大学に通い、ゼミやコンパなどで友達を作って、気を紛らわせる毎日。  アンディに逢えない日が、当たり前になってしまった3ヵ月後に、それは突如として訪れた。

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