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Please say yes:はじめてのデート2

 折りしも時は、クリスマスイブの朝だった。とりたてて、やることもなかった俺は、自分の部屋でぼんやりしていて。 「どーせ、クリスマスイブだろうと何だろうと、アンディには逢えないんだしぃ、クリスマスプレゼントを買ったところで、渡すのがいつになるか分からないから、絶対に買えない……」  ベッドの上でゴロゴロしながら、ぶつぶつとごちってしまった。  実は店に赴き、逢いに行ったことが、何度かあったんだけど。高級日本料理店だから、俺みたいな大学生が、ほいほい入れるお店じゃなくて。  しょうがなく店の前で、無意味にウロウロしまくった。あわよくばアンディが、何かの用事で出てこないかなぁと、出待ちをしてみたのだけれど。  そんなに都合よく、ことが運ばないのは世の常――アンディの声すら聞くことが出来ず、頭を垂れて毎回、帰るしかなかった。 「あ~あ、今日みたいなイベントのある日なら、すっげぇ忙しいんだろうな」  電話で聞くアンディの声色が、疲れたものに感じ始めてから、こっちから電話をすることを止めたんだ。俺の存在が余計な負担にならないようにと、配慮した途端、向こうからかかってくる電話の数が増えるなんて。  ちょっとした隙にかけているんだろう、コソコソッという感じで、いつも電話が始まる。 『和馬、カズマ……今、大丈夫?』 「うん。そういうお前の方が、大丈夫じゃなさそうだけど」 『それは忙しいから、しょうがないのだ。だけど数馬の声を聞いたら、元気になったぞ。お陰で頑張れそうだ、済まぬな』  その言葉に返事をしようとしたら、プツッと切られてしまう。少しは俺の話くらい、聞いてくれても良さそうなのに。 「困った元王子様だよな、もう!」  イライラしながら、傍に置いてあったスマホを何気なく手に取ったら、軽快なメロディが部屋の中に響いた。流れるメロディで電話の相手が誰か分かってしまうけど、わざわざ確認しちゃうのは、ディスプレィに表示される、アンディの顔が見たかったから。 「もしもしっ!」 『もしもし和馬ぁ! 聞いて喜べ! 半日だけだが、自由な時間が出来たのだ。今直ぐに、駅前のロータリー前に来てくれ』 「はぁっ!? 駅前のロータリーって?」 『デートなのだ。傍にあるショッピングモールを、一緒に見て回ろう。待っているぞ』  突然のことで頭が回らず、ぼんやりしたままの俺を残し、いつも通り通話が切られてしまった。 「デートなのだと言っていたけど、どうにもイヤな予感しかしないのは、今までの経験のせいだろうな。だって相手が、あのアンドリュー元王子だから」  高校時代、どんだけ振り回されたことか――それを考えると、大喜び出来ない自分がいる。いるんだけども…… 「やっぱり喜んでしまうのは、アイツから誘ってくれたってことと、久しぶりに逢えるから。ヤバっ、今頃緊張してきた……それよりも、何を着て行こうかな。早くしなきゃならないのに!」  いきなりのデートのお誘いに、ドキドキとワクワクだけじゃなく、ハラハラさせられる俺の心は、アンディが待っている場所に、飛んで行ってしまっただろうな。

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