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Please say yes:Yesと言ってほしくて2
***
建物の外に出たら、景色は一変していた。駅前の大通りが、イルミネーションでキラキラしていて。日が暮れるのが早いのも手伝って、それはとてもキレイに目に映る。
「和馬……クリスマスイブに相応しい、ロケーションだと思わぬか?」
「そうだな」
目の前にあるイルミネーションを見ながら、仲睦まじく寄り添って歩く恋人の姿が、そこかしこにあった。
「あのさ、アンディ。店まで送っていい?」
少しでも傍にいたくて出てしまった言葉に、ちょっとだけ驚いた顔をしたけれど。
「その誘いを断ってしまったら、祟られそうだからな。送ってくれ、プリーズ!」
ふわりと微笑んだかと思ったら俺の右手をさっさと握りしめ、自分の着ているコートのポケットに突っ込んだ。少しだけカサついてる、アンディの手。俺よりも大きくて、あったかい――ぎゅっと握り返したら、ゆっくりとした歩調で歩き出したので、慌てて並んで歩く。
大通りを彩るように煌くイルミネーションを見ながら、お互い黙り込んだまま、店に向かって歩いた。
いつもお喋りなアンディがまったく話さないので、不思議に思い、顔を覗き込んでみた。イルミネーションの光が反射して、メガネの奥の瞳が分からないせいで、その表情が伺えない。
読めないアンディの気持ち、そしてあともう少しで店に到着しちゃうなと考えたとき、ぴたりと歩くのを止める。
「アンディ?」
つられてその場に立ち止まってやると、ポケットに入れていた手を、ぽいっと放り出されてしまった。まるで冷たくあしらわれたみたいで、内心キズついていたら、アンディが片膝をつき、その場にうずくまる。
これって――
「ちょっと待て、お前っ! ここでアレをやるのは、絶対に人目につくから!」
授業中で誰もいない高校の階段の踊り場での告白劇を、まざまざと思い出してしまった。
白とエンジのミリタリージャケットを身にまとい、片膝を床について俺に向かって右手を差し出してきた、アンドリュー王子の姿を。
慌てふためく俺を尻目に、かけていたメガネをいそいそ外して、ポケットに入れてから、ゆっくりと顔を上げる。レンズ越しじゃない青い瞳が、逃げるなと言うように、強い光を放っていた。
「うっ――////」
歩道のど真ん中で始まってしまった俺たちの奇異な様子に、すれ違う人たちは皆、避けながらもしっかりと目で追っているのに、アンディがまったく気にせず、そのままでいるものだから、しょうがなく話を聞くしかない。
「俺はな、和馬の傍にいると、いつも通りの俺でいられるのだ。飾ることなく素直で、ありのままの自分でいられる。素直すぎてお前に叱られることもあるが、それすらも嬉しくて堪らないのだ」
「そうか……」
何と答えていいのか分からず、相槌を打ちながら告げた適当な言葉に、ニッコリと微笑んだ。
「俺が料理人として一人前になる修行をしてる間に、和馬も経営の勉強をしてると聞いて、胸が打たれてしまったのだぞ。心が震えてしまって、言葉では表現出来ないくらい、嬉しくて――」
口を真一文字に閉じ、左手を自分の胸に当て、右手を俺に向かって差し出してきた。
「あのときは差し出した手を取ってはもらえなかったが、今の俺のこの手を、取ってはくれぬだろうか? パートナーとして、ずっと隣にいてほしいのだ」
言いながら更に、右手を差し出す。その手を、じいっと見つめてしまった。
高校生だった俺は、この手を握ることが出来なかった。アンディの将来を考えたら、取るべきじゃないと判断したからだ。だけど今は――
「後悔したって知らないからな。あとからグチグチ、文句を言うなよ」
差し出してくれた右手に、そっと自分の手を重ねたら、逃がさないといわんばかりの圧力で、ぎゅっと握りしめる。
「和馬、俺の……。俺の生涯のパートナーに、なってくれますか?」
手を取ったのにも関わらず、更に訊ねてくるなんて――しかもいつもの口調じゃなく、真面目な感じで告げられたので、ぶわっと頬が赤面し緊張してしまった。
たったひとこと、言ってやればいい。分かっているのに、安易に口に出来ないのは先の見えない、将来への不安からだった。
「えっと……」
「……俺はもう2度と、この手を離すつもりはない。お前を守り、愛しぬくことをこの身に誓った。覚悟は決まってる!」
自分の胸をばんばん叩きながら、満面の笑みで微笑みかけてくる。こんなにムードのある告白シーンだっていうのに、アンディの表情はどこか、いたずらっ子みたいな顔をしていて。
俺はこの顔が結構好きなんだよなって、改めて思わされてしまった。そんな気持ちを悟られるのが恥ずかしくて、いつも誤魔化してばかりいた。
煌くイルミネーションをらアンディを通して、ぼんやりと見つめる。
綺麗な色した金髪に、スカイブルーの瞳を持つ整った顔立ちは、俺には勿体ないと思ってしまうレベルのものだけど、オマケとして、性格にちょっとだけ難がある――
……だからこそ俺が、傍にいてやらなきゃならないんだよな!
「Yes。どうか俺を、アンディの傍において下さい」
本当は、いさせてやってもいいと言いたかった。だけどそこはあえて、アンディの顔を立ててやることにした。俺の頼みは、喜んでやってくれるのを知っているから。
「ありがとなのだ、和馬っ!!」
いきなり素に戻ったアンディが、握りしめていた手を強引に自分に引き寄せ、抱きしめたと思ったら顔を寄せて……
「ん~~~っ////」
これでもかといわんばかりの、熱いキスをするとか、おいおい――手足をばたつかせても、何のその。そのまま続行したので、諦めてされるがままでいた。
あー……きっと変な外人に襲われてる、日本人の男って見られるだろうなぁ。通報されなきゃいいけど。
「やっとYesと言ってくれたな、和馬。俺の作戦勝ちなのだ」
「は!?」
「いやぁ、最高のクリスマスプレゼントなのだ。スカッとしたぞ」
この後、詳しい話を聞いてみたら、どうしても俺の口から『Yes』と言わせたかったアンディは、ずっと考えていたそうだ。そしてこの寸劇を思いつき、実行したそうで……
「呆れた。もう何か、イヤだ」
公衆の面前で思いっきりキスされた、可哀想な俺の身になってほしい。
「だが、ウソ偽りの言葉は言ってはおらぬぞ。すべて真実なのだ、安心して俺に身を任せるがよい」
肩を抱き寄せられ、グイッと立たせてくれたアンディを、白い目で見てやった。だけど嫌いになれないのは、しょうがない。
きっとこの先も強引にこうやって俺を引っ張って、どんな困難も乗り越えてくれるだろう。だから安心して、コイツの傍にいられる。
「Yesと言ってやったんだ。最後まで責任、とってくれよな!」
悔し紛れに言ってやると、音の鳴るキスを頬にする始末。
昔も今も、そして未来も翻弄され続けるだろうけど。俺に手を差し伸べてくれた、アンディの想いに応えたいから。
「愛してるのだ、和馬」
俺も愛し続けると誓ってやるよ、永遠に――
【Fin】
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