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『跪かせて、俺のDom』瀬野

act.05 この世にはバース性というモノがある。男、女という区別があるがそれとはまた別の話。人間はなにかしら、物事を区別し名前を付けたがるが、それは認識できていないものに恐怖を覚えるからだろうか。 Domと言われる性は所謂「支配をする側」で、Subと呼ばれる側は「支配される側」だ。する側とされる側。俺達人間にはさして問題ないようで、大きな問題だったりする。 「kneel(跪け)」 街のど真ん中で聞こえてきたコマンド。する側が、人間を「される側」にする瞬間のスイッチのようなモノだ。尤も、Subにしかコマンドは効かないけれど。 声が聞こえた方に顔を向けると、男性Subが既に次の命令を待っている。既に、顔をとろり、と蕩けさせ周りもあまりの色が含んだこの行為に目が釘付けだ。 そもそも、このD/Sのこの行為を人前でするなんて、街中でセックスしているのと変わりないだろう。周りはそう思わない奴もいるようだが、俺には理解出来ない話だ。 大人しく、足全体をぺたり、と地面に付けて雌顔を晒しているSubに相手と思われるDomは頭を撫で、目を細めた。 「good boy(いい子だ)」 俺はそこで足の歩調を早める。あぁ、気持ち悪い。 人間を「される側」にできる力なんていらなかった。…俺はDomだ。誰かに首輪を渡して番になるつもりもない。出来損ないのDomだ。 一刻も早く家に帰りたくて、俺の足は自然と走り出していた。 「おかえり、俊平(シュンペイ)君」 息を切らして部屋に入ると、そこには恋人がエプロンを付けて待っていた。いい匂いが部屋いっぱいに広がっていおり、走ってきた俺の胃は食べ物を入れるスペースを開けていく。 「……ただいま山蛇(ヤマダ)さん」 黒髪に端正な顔立ち、180cmの俺を優に越す身長、覗き込んだ瞳は真っ黒だ。普段は真っ黒で上質なスーツを着た彼がワイシャツになり、エプロンをしている姿は我が家じゃないと拝めないもので、俺は途端に優越感を感じる。 手を洗い、俺をぎゅっと抱きしめる山陀さんはとてもいい匂いがする。 「山蛇さん、俺今走ってきたんで…臭いですよ」 「本当だ、ちょっと汗の匂いがするね…でもいい匂いだ。君の匂いが濃くて好きだよ」 こんな台詞も一般人なら変態臭くて叶わないが、こうもイケメンだと悪い気はしない。というか物凄く照れる。 「山蛇さ、ん…俺手洗ってないし、お腹減った」 「うん、もうできてるけど、あとで温め直してあげる。だから、ね?」 するり、と腰を撫でる大きな手、武骨な指。ないはずの子宮が疼き思わず目の前の厚い胸に縋りついた。 「ね、命令してよ」 俺が自分のDom性を嫌っているのをわかっている癖に酷い人だ。こうなってしまえば、俺がこの欲求を我慢できないのを知っているくせに。 ふるふると、ゆるく首を横に振る。すると、軽いキスを瞼に堕とし、頬に堕とす。つまり、この先をしたければ、してほしいということだろう。 俺は、つけていたマフラーをゆっくりととり、着ていたアウターを床に落とした。 「kneel(跪け)」 口から発した言葉、形に成るのがわかる。街中のSubのようにみっともなく座るのではなく、まるで騎士のように跪く山蛇さんはカッコいい。彼の欲に濡れた瞳を見るとゾクゾクと背筋に快楽が渡り、本能が「命令しろ、支配してやれ」と騒いでいる。 「good boy(いい子だ)」 この言葉はSubにとって、最大のご褒美になる。山蛇さんは、目を細め俺の手を取り、甲に口づけした。 「ね、命令してよ、たくさん。そしたらもっと気持ちよくしてあげる」 そうして、俺は彼に自ら抱かれ、「もっと」と命令するために口を開く。傷だらけの美しい顔に口づけをすると嬉しそうに目を細める山蛇さんに、俺も嬉しくなった。 今日も彼からもらった黒塗りのピアスが光っている。 act.01 一年前の冬、丁度山蛇さんに出会ったのが一年前だ。 俺はその時高校三年生だった。 「悪い!頼むよ、入間(イルマ)!…ちょっと俺忘れ物しちゃって…」 「…やばいところに携帯忘れから取りに行けって…?」 クラスメイトである鈴木に頭を下げられてしまえば、話しも聞かずに無理とは言えなくなってしまった。そうは言っても、ヤクザの出入りするクラブに携帯を取りに行けとは… そうやら、そこのクラブで揉め事を起こしてしまったらしく、どうにも自分では取りに行けないとのこと。 その時は、俺はまだ世の中の怖さを知らなかったのだ。その時は、飯も奢るから!と言われてしまえば、じゃあいいか、なんて思ってしまったのだ。 まあ、今となっては、それが良かったのか、悪かったのかはわからな 「それで君のお友達がやらかしてくれたみたいだけれど…そう落とし前をつけるつもりなんだい?」 「…おれは……」 「鈴木(スズキ)孝弘(タカヒロ)が僕たちに何をしたのか知っているかい?」 黒髪に真っ黒のスーツに身を包んだ男。その瞳はまるで闇だ。深い闇。 俺を見つめる瞳は、俺を映していないように見える。長い脚を組んで、ソファに深く座っているヤクザの組長と思われる男は随分と若く、二十代前半と勝手に推測する。しかし、二十代前半にしては、背負っている闇が重すぎる。 「…いや、なにも聞いてないです」 ソファの周りに立った屈強な男達の眼光が鋭い。 「万引き窃盗強姦エトセトラ…両手では足りないよ。それで君は、どういうお友達なんだい?お仲間?」 「いえ…俺は、ただのクラスメイトで…忘れ物をしたと聞いて…」 「ふうん?じゃあ、君は可哀想な生贄な訳だ。」 あの野郎…どうやら俺は騙されたようだ。この状況をどうすれば抜け出せるのか全くもってわからない。俺は、生贄…? 「かわいそうだけど、逃す訳には行かないね」 闇に鈍い光が灯って、俺はその光に囚われてしまった。 じゅぷ…じゅぷ…と口内を熱い肉棒が暴れまわっている。 「ん”…ふ、ッ…ン”…」 頭を押さえつけられて、鼻が男の金色の陰毛に埋まる。…髪は黒髪だから、地毛はもしかしたら金色なのかもしれないなんて邪推をしてしまった。 「ン”…ッ、が、ァ”…んん、ン”ッ…」 苦しくて、嘔吐く度に生理的に涙がでてきてしまう。吐く喉の動きをする度にペニスを喉奥で締め付けてしまい、熱の形がはっきりわかるほど呑み込んでしまった。 「はー、最初へったくそだったのに、こんなに咥え込んでくれちゃってさあ…」 ソファに悠々と座り、スラックスの前だけを広げて、俺にイラマチオさせる男に腹が立ち、一瞬このチンコを噛み切ってやろうか、と逡巡するが多分そんなことをしたら、周りにいる男達に殺されて終わるだろう。 「ね、そろそろこのお口もマンコみたいになっちゃったんじゃない?」 「君、Domでしょ?こんなことされて、屈辱だよねえ、普段はこういうことをする側だもんね」 「ん、グッ…は、はッ俺は!死んでも『する側』になんてならねえ…!」 抑えられていた手を思いっきり振りほどき、入りきらないほどのサイズの肉棒を口から吐き出し叫ぶ。俺は、自身のDom性なんかに…負けたくはないのだ。 「…へえ、じゃあ『される側』、味わってみよっか」 そう言って、男が手を伸ばした先は、俺のケツだ。ズボンの上から俺の尻穴をぐりぐりと押されても、気持ち悪いだけで、やめてほしいという感情しか湧かない。 「いやだ、やだッ…」 「でも、『する側』は嫌なんでしょ?じゃあもう、女の子になっちゃった方が君も気持ちいいし、いいんじゃないかなあ…アレもってこい」 そう言って、部下に指図した男は俺の上半身を持ち上げて、ソファに押し倒した。ソファが元々一人用のものなので、背凭れに体重を預ける形になるが、足を折り曲げられた状況は完璧にМ字開脚と言えるだろう。 じたばたと暴れても、周りの男達が俺を押さえつけて離さない。腕は頭上でまとめ上げられ、足は太ももと足首が固定されてしまった。 ついには、俺のズボンは男によってハサミで着られ、下半身が靴下だけ履いている状況になる。 「やめ、ヒ…」 男の部下が持ってきたローションをかけられ、どっぷりとした液体が尻穴を伝い、ソファに落ちていく。男の長い指が、俺の入口を押し込むように触り、硬い門はゆっくりと開いていく。 「んぐ、ッ、あ、むり、だッって…」 「無理じゃないよ、大丈夫。安心して、しっかり挿れられるようにしあげるから」 なにも安心できねえよ!!そう心はこんなにも叫んでいるのに。尻穴の違和感に喘ぐような音しかでてくることはない。 「んぐ、ぐ、っう、ぅ…」 「ほら、一本入ったよ、こんなに早く入るなんて才能あるんじゃないかな…」 どんな才能だよ、そんなもんいらねえよ…泣きそうになるのを堪えて下唇を噛む。すると、男は下をいじっていない方の指を、俺の口に突っ込んだ。 「良い声なんだから、噛んだりしちゃダメだよ、もっと聞かせて?」 「あ”、ア、」 じゅぷ、ぐぷ、と次から次へと足される冷たいローションといじっているものが増えて奥にどんどん進んでいく感覚におかしくなってしまいそうだ。 「そろそろ、見つかりそうなんだけど…」 「ん、にがァアアアアッッ!?」 「…君の良いところ、見つかって良かったねえ」 トントン、と粘膜の内側を押すように突かれるとその度に腰が浮く。女のような声が出て、その度に目から涙が溢れてしまう。こんな風に喘ぎたいわけじゃないのに、身体が熱くてたまらない。 「ア、あ、アアッ、ッ、ッんあッ!」 「気持ちいでしょ?ココが君を雌にするスイッチだよ、ホラもっと喘いで」 「も、やッ、だあッ…むり、むりィ…んあ!アァッ…!」 粘膜を広げるようにして、動く指たちに腰が逃げる。それでも、背凭れによって逃げることのできない俺は、そのまま甘んじて快楽を受け入れるしかなかった。じゅぷ、ぐぷと卑猥な音を立てて広がっていく俺の尻穴はまるで… 「本当に、マンコみたいだね」 「ま、んこ、じゃッ、ァ、な…ッッ!」 三本も入った指は、二本は広げるように、あともう一本は前立腺を執拗に押している。押されすぎて、前立腺が先ほどよりも腫れているような気がしてならない。膨れ上がった前立腺を指先で抉るように押されてしまえば、腰がビクついて止まらない。 「勃ってるね、かーわいい」 「ッ、な、んで…」 完全に勃ち上がった屹立は、カウパーをだらだらと流しており、鈴口がヒクついている。そこを指で尿道をほぐすように触られる。痛いほどの快楽が俊平を襲う。 「こうやって先走りをだらだらさせてさ…でも今日は挿入できないで終わるんだよ、このチンコ。かわいそうにねえ…」 「ぅ、んく、ァ…ッ、はあッ、あ…」 「君、名前は?」 「ッ…ん、あ、ゅ、しゅんぺ…」 「挿れるよ、シュンペイ君」 「アアッ!?ッあ”あ”あぁぁッ!!」 焼き付くような痛みと、それを上回る快感に一瞬意識が飛んでしまった。打ち上げられた魚のように浅い息を繰り返す。粘膜はごりり、と押しつぶされて挿れられた後孔は今にも破けてしまいそうだ。 「い”だぃ…ッ、あ…ッッ…」 「本当に?痛いだけ…?」 痛いだけ、痛いだけのはずなのに、なんでこんなに頭が真っ白になるほどにトんでしまうのかわからない。太く長い肉棒が前立腺に当たっているのがわかる。馴染むためか、動かずにの腰を力強く掴んで、ゆっくりグラインドされる。その丁寧な抽挿が余計に骨盤に響いて、頭がおかしくなってしまいそうだ。 「も、もっとッ、激しくシて、ッっほし…」 その意図していないハズの命令に男は、素直に従った。それはまるでSubのように。 「ハッ…ハ、はは…たまんないなァ…」 興奮しきった男が腰を激しく打ち付ける。骨盤同士が打ち付けられて痛いのに、それすらも快感だった。 「ん”ぁ”ッ……っあ、ぁあ、ィ、」 「俊平く、もっと命令して、よッ!」 「ヒィッッ……!ん”ぁッ、な、ン……ッ」 腕の動きを制限する手錠。ガチャガチャと頭の上で金属の音が鳴る。上からプレスするような突きに、胃が押し上げられ体内を全てを征服されてしまった。ごぷりと、腸液が溢れて身体全体でもっとくれ、と叫んでいる。 「ね、君のココ、降りてきてるねッ…ッ、このナカ挿れたら、もっと気持ちいいんだろうなあ…ッ、」 ココ、と指をさしたのは臍の少し下あたり。長い指で外から押されるだけで、結腸の奥まで感じ入ってしまう。質量を増す熱が突き上げを更に鋭くし、降りてきた結腸口をこじ開けようとしている。 ぐぷ、ぐぷ、とローションと腸液がデロデロに混ざった液体が空気を含んで耳を犯す。やめて、やだ、駄目と、訴えているのに俺の体内は虐められ続ける。男が掌で下腹を思いっきり押し込んだ弾みで息んだ。 その瞬間、臓器がごぽぉ…というしてはならない音が鳴る。熱く太い竿が結腸を貫き、肉襞が亀頭を美味しそうに飲み込んでいる。 「ッ”、…グッ…ン”、ハ…ッ、…ッ…」 喉が締まり、息が吸えない。視界がチカチカと点滅して身体が小さく痙攣している。腰が震え、息を取り込めないのに、熱く熟れた粘膜はもっと、もっととねだってしようがない。もういらない、いやだ、そう言っても身体は心と反して、もっとちょうだい、やめないでと訴えている。 ぐぷり、ぐぷり、という生々しい音を他人事のように聞きながら、やっと落ち着いた視界で男の顔を映した。俺を無理矢理犯している憎い男なはずなのに、こんなにも必死に俺を貪る男が愛おしくて堪らない。 自然と口角が上がり、涙腺が緩んだ。 「アァ、んあ、ナカにッ、ッ、…んあ、出せ…ッ」 そう言うと、一瞬驚いたのかぴたり、と動きを止めた男が俺の顔をまっすぐ見つめた。その美しい顔を幼い子供のように綻ばせる。 「仰せのままに」 「ヒ、んあ、あ”、あ”、あ、ンア”アッ、ッア!!あ”ッ、」 浅いトコロを小刻みに抉られたかと思えば、綻び欲しがりな奥を貫きそのままカウパーを擦り付け、マーキングするようにピストンされ、翻弄される。一瞬でも殻が離れてしまうのが寂しくて、両脚で男の腰をホールドする。男は俺の背に腕を回して俺と男の距離はゼロになった。 一際大きく鋭い突きの直後熱い精液が体内出されたのがわかる。結腸の奥が熱く、火傷してしまいそうだ。 「ァ…ッ、は、ぁ”…」 「ッ、はー、ッ」 余韻が抜けず、痙攣が止まらない。それでも、俺には言わなきゃならないことがあるんだ。それだけははっきり覚えている。 「…ッ、んあ、は、…ぐっどぼーい…」 俺の視界いっぱいに嬉しそうな顔をする男が広がっていたが、それは一瞬のことで直後、暗転した。 act.04 「あのっ、好きです!付き合ってください!」 大学生になってから初めての冬を迎えようとしている、高校時代もそうであったが、この時期はこういった類の呼び出しが一番多い。 大学に上がれば、こういった面倒事も減るかな、と思っていたのに、逆に増えるとはどういうことなんだ。大学生の貴重な休み時間がどんどん減っていく。まあ、冬はクリスマスに年越し、バレンタインとイベント目白押しだ。人肌恋しくなる季節でもあるし、みんな必死なのかもしれない。 「悪いけど、俺付き合ってる人がいるから」 冷たくあしらうように言えばここで大体の奴等は、目に涙を溜めて走っ去っていく。俺は反応せずうつむいている女の子を冷ややかに見遣り、さっさと昼食を取ろうと背を向けた。その瞬間、背に衝撃が走る。 「その付き合ってる人より、私の方が満足してもらえると思います!私はSubだし、Domの入間君と相性ピッタリでしょう!?」 そう言って、泣きつき離れない女のせいで、胃がキリキリしてきた。お願いだから離れてくれ…匂いでマーキングされているので、女にこうも密着されていると、帰った時にバレて怒られる。 「アンタのこと知らないし、アンタの匂い、好みじゃないんで」 いつの間にか、野次馬が出来てるしこれ以上騒ぎたくない。 「じゃあ、入間君の好みの匂いを教えて!…この匂い、すごくいい匂い…」 女が俊平の匂いを嗅いだ瞬間、一気にその場凍り付いた。それは決して彼女の行動が気持ち悪かったから、という訳でもなく、気温が下がったという訳でもない。 俊平が、Dom特有のGlareで威圧しているのである。この場の全てを支配した圧に野次馬までもが座り込んでしまっている。この大学は国内でもレベルの高い学校であり、優秀なDom性の人間も多くいる。 それにも関わらず、一瞬にして支配を譲らない俊平のGlareが強かったのか、はたまた彼の怒りが大きかったのか。 「今、匂い、嗅いだ?」 この場で一番彼の近くにいたSubの女は、すでにぺたりと座り込み、服従の態勢だ。威力の強いGlareは、Subを強制的にSubスペースにもっていき、彼女はすでに雌の顔をしている。それと同時に目の前のにっこりと笑いながら目の笑っていないDomの彼に恐れ慄いていた。 「この匂いは俺の恋人が、朝付けてくれものなんだ。勝手に嗅がないでほしいなあ」 そう言って、顔をズイ、と近づけた俊平の顔は綺麗だ。しかし、にっこりと笑っていても、怒りがビリビリと伝わってくる。先ほどとは意味の違う涙を流しながら、ごめんなさい、ごめんなさいと、女は喘いだ。 「ホラ、見て、ココ。俺のココ、ちゃあんと他人のモノっていう印がついてるでしょ?」 二度と近づくな、そう言ってこの場を支配していたGlareを引っ込めてさっさと食堂に向かった俊平の背中をその場にいた全員が見送った。 彼は、知らない。その優秀なDom性を持つ彼に服従したい、という人間が増えて増々昼休みが潰されていく、ということに。 act.03 元々巻き込まれやすい質だった。 幼いころはよく誘拐されていたらしい、この前財布を拾って交番に届けたら警察官が俺の名前を覚えていて、君の小さい頃は~っていう、親戚のおじさんのような話しをしだした。 まあ、こんな体質だったから、恋人と出会うことができたんだろう。それは感謝しているが、まさかこんなことになるとは… 大学から出ていつもの帰り道を歩いていると、突然後ろから男数人掛かりで拘束され黒いハイエースに乗せられた。そのまま手を縛られ、目隠しをされてどこに連れていかれるのか、犯行グループが何人いるかすらもわからない。 まあ、何故こんなに落ち着いていられるかというと、俺の恋人が誰か、という答えを知っていればわかるだろう。 優しそうな甘いマスクをひっさげた彼は、初対面で俺を強姦した男だ。さらに言えば、ヤクザの組長であるのだ。普段、家では仕事の話はしたくないかな、と思って詳しい話なんて聞いたことはないが、彼の背負う物は決して小さい物ではない。 きっと用心深く、千里眼かという程自分の周りに情報網を張り巡らせている彼のことだ。早いところ解決するだろう。 「随分、落ち着いているんだね、入間 俊平君。」 フルネームで呼んだ声は落ち着いて、甘さと色気を含んだ声だった。 声だけの印象であれば、山蛇さんに近しいものを感じる。音や振動からして俺はまだ車の中にいるのだろう。声は真横からした。するり、と耳を撫でられて、腰がうっかり浮かせてしまう。 「はあ…やっとあの黒蛇の元から君を連れ出せた…これからは、僕の元においで、かわいがってあげる。あんな内面腐ってる奴といたら、君まで腐っちゃうよ」 そう言って、俺の浮かせた腰を大きな掌で撫でる男。めちゃくちゃに変態臭い。前言撤回だ。山蛇さんはこんな変態臭くない。もっと、色気があって、彼の声を聞くだけで欲情してしまうような…。俺の耳に直接吹き込むように、小声で丁寧に話す男にむかっ腹が立ってきたが、喋れないので、貧乏ゆすりで訴える。 喋ってやるから、この口に噛ませたタオルをとってくれ。 男は、黒蛇、と言っていたが、それは山蛇さんのことだろうか。やっぱりちゃんと話を聞いておくべきだったか。 そう言えば、今朝出かける時に「最近はちょっとこっちのヤマでいろいろあったから、帰りは僕が迎えに行くね」って言ってた…ような… これは、確実に怒られる奴だ。お仕置きと称して、この前延期してもらった尿道を開発されてしまう。その瞬間、口の中が乾き、俺の体温が下がっていく。 それを、良いように解釈したのであろう、俺の耳元でずっとなんか言ってる男は「怖がらないでいいからね…」なんて言っていたが、俺はそれどころではなかった。 しばらく経つと、車が止まった。腰に手を回されて女のようにエスコ―トされる。車から降ろされて、歩いていく。床はカーペットが敷いてあるようで、匂いは少し古い建物のようだ。 どこかの部屋に入り、ここに座って、という言葉で腰を降ろす。 ようやく目隠しが外されてやっと視界から情報を得ることができた。内装を見るに古い洋館らしき場所に連れてこられたようだ。 彼らの向かった方向と、頭の中にある地図を照らし合わせると、そこまで遠くに来たわけでもなくM市だろう。噛まされていたタオルもはずされ、やっと喋れるようになった。 「アンタ、俺を誘拐するならもっと遠いとこまで逃げないと。」 黒髪をワックスで撫でつけて、細いフレームの眼鏡をしている目の前の男。コイツが主犯格なのだろうか。深緑のスーツを着る細身の男は神経質そうだに見える。 第一声がそれだったことが面白かったのか、男はクスクス、と笑い始める。 「大丈夫ですよ。黒蛇はきっと来ない。」 「そんなことより、自己紹介をしていなかった。私は緑葉会(りょくようかい)の若頭、(げん)と申します。」 「はあ…」 曖昧な返事にすら満足そうに笑う玄。それにしても、緑葉会は隣街に縄張りを持つヤクザだったような気がする。おれはそういったことにあまり詳しくないけれど。 「黒蛇はあなたにこういった話はしないのですね。随分甘やかされているようだ」 甘やかされている…?今日だって、口うるさく弁当持ったか、ちゃんと顔を洗え、最近は物騒だからって母親のようなやかましさだったぞ。 「ならば、教えてあげましょうか…?龍河組組長、山蛇という男について…」 それは大変に甘いお誘いであった。彼は基本的に仕事の話をしたがらない。理由を一度だけ聞いたことがあるが、「精神衛生上良くない」と言われてしまった。やはり俺は彼の恋人ではなく、子供なのだろうか。 そもそも、彼は俺を全く信用していないのではないか。今日みたいに、簡単に他のヤクザに捕まっちゃうし、そんな野郎に大事な情報を渡せない、ということだろうか…。 別に全部を話してほしいということではない。彼は、よく忽然と消える。短ければ二週間、長い時は一か月。 それすら、連絡も無く、なにが恋人だ。 そう思うと、次第に悔しくて目のあたりが熱くなってきた。 俺がボタボタと泣き始めたことにびっくりしたのか、自信たっぷりに笑っていた玄が焦り始める。どもりながら、どうしたんですか、なんて聞きながら背中をさすってくる。 あれ?コイツ意外と良い奴じゃね? 「そうだったのですね…」 ぐすぐすと泣きながら話すと、玄はその繊細そうな瞳を少し潤ませていた。 「僕は、麗しい男を集めるのが趣味なのですが…」 そう言って、話始めた。まて、話をするのは構わないが、初っ端からぶっ飛ばしすぎではないか…? 「交友の証として送られてきた男が問題で…」 それでも、しれっと被害者ヅラして語る彼の顔は儚い。 「確かに、好みど真ん中の若い男だったのですが… 話しはきかないわ、自分の意思が強すぎて全然ペットらしくないわ、挙句の果てにこの僕を組み敷いたんです…!」 それは…ツッコんでいいのか、嘆くべきなのか… いや、この男が突っ込まれたのはナニだが。 「そこで、僕は彼に復讐をするべくあの男の周りを探っていたら、君に辿り着いたのです…!しかも嬉しいことに、君は僕のタイプど真ん中じゃありませんか!」 ここまで来ると、知らねえー…の一言に尽きる。 なんだこの茶番は。 「ホント…やはり、そんな男は放っておいて、僕にしませんか…? 気持ちよくしてあげますよ?」 そう言って、俺の首から腹にかけて掌を撫でつけられる。その仕草に嫌悪感が起こり、どうにかして腕を縛る手錠を外そうとするが、やはりというかなんというか外れない。 俺の屈強な腹筋をもってしても、押し倒されマウントを取られてしまった。 「いやいやいや、それは話が違うだろって…!」 「なにも違わないですよ…気持ち良いことをするだけですよ…」 ひいぃいぃぃやめてくれ…というより、あの優男助けに来るのが遅すぎやしないか…?早く来いよこンのあんぽんたん!!! 「お待たせ、僕の王子様」 「でたな……!黒蛇……!なぜ、ここが……」 「彼の前でその呼び方はやめてもらえるかな、玄」 黒いシックなスーツを身に纏い、ループタイをした彼は世界一かっこいい。長い足が強調されるような作りで、足首が少し見える丈のスラックスと少しヒールの高い革靴が山蛇さんらしい。玄の後頭部に拳銃を突きつけた山蛇さんの目は据わっている。 「ちょっと、彼を連れてくるのに時間がかかってね、でも助かったよ。さすがに玄の祖母の家なんて知らないからね」 「申し訳ありません、山蛇様。私の恋人の頭に物騒な物を向けないでいただけますか。」 あぁ、悪かったね。なんて彼が顔を向けた先は山蛇さんより少し背の高い目付きの悪い男。 「く、熊、お前、本家から呼び出し食らってたんじゃ……」 山蛇さんに拳銃を突きつけられても怯えることなく平然としていた玄の口元が引き攣っている。 「ですから、山蛇様に連れ出されたのです。さあ親父さんカンカンでしたよ。」 そう言って細い彼の身体をひょい、と軽々担ぎあげ、熊と呼ばれた男は部屋から出ていく。その間玄はやだやだ、と騒いでいたけれど。 「俊平くん」 クリップを使い、手錠の鍵を開けた山蛇さんは、ベッドに転がった俺の身体を抱き締める。 その仕草がまるで迷子の幼子のようで、胸が締めつけられる。 「…僕は、君にそんな思いをさせているだなんて、知らなかった……」 「やまださ…」 まさか、先程の玄に零した愚痴を全て聞いていたというのだろうか。俺がじとり、という猜疑心溢れた目で見つめると、彼は笑って自分の右耳は指さした。 まさか、このピアス… 「防水加工盗聴器搭載」 さらりと言いやがった。そう言えば、最近何かとタイミングが良く、特に自慰をしていると部屋に入ってきたりといったことが多かったのだ。 その事実に、顔が熱を持っていくのがわかる。 「そ、」 「そ?」 「そこまでやるなら、GPSもつけやがれ!!!」 act.06 今日は本当に疲れた。毎週木曜日は一限から授業があり、その後はアルバイトを終電ギリギリまでやって帰る。カフェのアルバイトで夜はあまり人が来ないのだけれど、今日は天変地異の前触れか、馬鹿みたいに客が来店したのだ。 クタクタになってお店を出ると、スマホに一件の通知。 山蛇さんだ。 どうやら、彼も仕事が終わって俺のアパートに居るらしい。先にご飯食べてていいよ、と返すと少し迷ったのだろう、五分くらい空いてわかった、と返ってきた。 今から帰ると日付を跨ぐ。早く帰って買っておいたプリンを食べよう。お疲れ自分。 俺は急いで、電車に乗り込んだ。 風呂から出て、冷蔵庫の中を確認した時に事件は怒った。 「は!?山蛇さん、プリン食べた!?!?」 冷蔵庫に入れて置いたプリンが無い。風呂から出てきてソファに座ってやがる彼に詰め寄った。 「え、うん。美味しそうだったから」 「お、美味しそうだったから!?!?!」 確かに山蛇さんの前のテーブルには空になったプリンのカップ。 「なんで食べちゃうのさ!!!」 「いや…二個あったし……」 違うのだ、浅草橋で売っている限定プリンで人気の味を二種類をひとつずつ買ってきたのだ。しかも、山蛇さんが食べたのは俺が特に楽しみにしてた方!平日ですら長蛇の列でおひとり様二個までなのだ。 二人で半分ずっこしようと思ってたのに……… 「なんで俺に聞かずに食べちゃうの!」 「ごめんね?今からコンビニで買ってこようか」 「それじゃダメなんだって!」 俺はふと冷静になってこれじゃ、駄々を捏ねる子供だ。落ち着きたいのに、それでも怒りは収まらない。どうしよう、どうしよう。 「~~~!、もう知らん!!山蛇さんなんて大っ嫌い!!!」 疲れと怒りで爆発してしまい、そのまま寝室に向かう。ベッドに潜るとなんだか涙が出てくる。 ほんと、こんなことで怒るなんてガキ過ぎる。 しばらくして、ベッドにそっと潜り込んでくる暖かいもの。きっと山蛇さんだ。背を向けて寝る俺のジャージをきゅ、と掴んで、おやすみ、と囁いた。 今日は疲れた。もう眠ってしまいたい。 次の日の朝、今日は二限からなのでちょっと遅起きだ。山蛇さんが寝ていたであろう場所はもう冷たくなっており、テーブルの上には朝ごはんにラップがしてあった。 『昨日はごめんね、いってきます。』 そう書かれてある。その優しげな彼の気持ちが伝わってきてまた泣いてしまった。俺はいつからこんなに涙脆くなってしまったのだろう。 それから、日中に山蛇さんからLINEが入っていたが全て未読無視をしてしまった。 本当に子供でごめんなさい、モヤモヤして仕方がない。自分の部屋に帰ってきてソファでふて寝をする。 「俊平くん、俊平くん起きて」 何時間経ったのだろうか、目を開けると山蛇さんがちょっと困ったように笑ってる。 「おかえりなさ、やまださ、」 「ほら、見て?」 山蛇さんの手には、プリンのお店のロゴが書いてある紙袋を持っている。 「ね、怒るの疲れたでしょ?許してくれる?」 きっと、あの長蛇の列だから部下の人に買わせたのだろうか。部下の人、かわいそう。 「心外だなあ、ちゃんと自分で並んできたさ」 そう、俺の為に? 「そう、君の為に ………いや、僕の為かもしれない。」 俺の為? 「君に嫌われたら、僕は生きていけない」 ハハ、重いなあ 「そうかな」 うん、そう。そのままもっともっと深みに嵌っちまえよ。俺はとっくに…… act.02 あの男に蹂躙され、帰ってきた頃にはとっくに太陽は昇っていた。寮へと戻ってくる。寮監がたまたま席を外していたのか、寝ていたのかは定かではないがお咎めも無く帰ってくることができた。幸い成績も上々だったので、そう言った生徒には一人部屋が与えられる。 しかし、この身体中の痛みはどうしようもない。鈴木、アイツは殺す。 一件LINEが入っていることに気付く。そこには、俺の数少ない友達の中の一人からで、『なんか鈴木が帰ってこないんだけど』から始まり、 『アイツ、お前に彼女取られたとかなんとか言ってたんだけどさ』 『多分、お前とばっちり食らってるだけじゃね?とか思ってたんだけど』 『なんか関係あったりする?』 …バッチリ関係あるだろう… 携帯は放置してシャワーを浴びるべく服を雑に脱いでいく。 鏡の前に立つと、あちこちにエグい程のキスマークと噛み跡が咲いていた。…なんじゃこりゃ 呆然と鏡の自分を見つめていると、尻穴からどろり、となにかが垂れてくる感覚が俺を襲う。 「…嘘だろ…」 はああああ…と溜息を吐いてシャワーからお湯を出す。そっと自身の後孔に指で触る。少し切れてしまったのか、ピリッ、というような痛みがある。まあ、あんだけヤれば、切れるのは当たり前か…となんだか納得してしまった。力を抜いて中指を入れていく。簡単に流れ出してきた粘り気のある液体に思わず眉を顰めた。 いつの間にか、浴室の冷たい壁に身体を預けていた。ふぅ、ふぅ、とどんどん息が荒くなっている。力を抜いて中指をなんとかして中に入れていった。 はやく、終わらせたい。でも、ちゃんと掻き出さなきゃ 二度とこんな思いはしたくない、シャワーの音が浴室に響いた。 その思ったのに、何故この男がここにいるんだ。 「…なんで、」 黒塗りの高級車で学園の門の前に乗りつけている。放課後になり普段より一段と騒がしい様子を不審に思い、校庭に出て様子を見に行ったところ男に捕まったのだ。 やあ、俊平君奇遇だね、なんて言って爽やかに笑うこの男。とても、ヤのつく職業を営んでいるようには見えない。まあ、それもこの黒塗りの訳アリな車が異質なのだが。 それよりも、彼の容姿で学校の生徒を釘付けにしているのがよくわかる。女の子たちはきゃあきゃあ言って帰路へと向かっていく。 ちなみに言うと、この学園は全寮制ではなく、入寮は希望者だけである。 奇遇だね、なんてこの門でで出待ちをしている時点でおかしいというのにこの男は何を言っているのだろうか。あくまで、偶然会っただけ、とでも言いたいのか。 「行こう、俊平君」 どこに、なんて聞く暇も無く誘拐されるような速さで俺は助手席に詰め込まれる。隣に座る男の顔は美しく、まさに西洋人形だ。この男は何がしたいのだろう、こんな華奢でも女らしくもない男を組み敷いて、あげく学校に迎えに来るなんて何を考えているんだ…? 「…あの、」 「どうしたんだい」 一度こちらをちらり、と見てその先の言葉を促した。 「その、鈴木が、やっちまったことを、俺が尻拭うってやっぱり納得いかないんですけど、なんかしら俺に対価があっても良くないですか」 自分で言っていて腹が立ってきた。そもそも、アイツの尻拭いをなんで俺がしているんだ?冷静に考えても、俺がこの車から逃げられることはないし、もう既に昨晩俺は失うものを失っている。 それなら、せめて俺に見返りがあっても良くないか。 この場において、俺とこの男は、対等だ。 「ッ、ク、ハハッ…」 俺が眉を顰めて真剣に考えて取引を持ちかけているというのに、笑い始めたこの男を睨みつける。なんだよ、なにが面白いんだ。 「ククッ…いや、ごめん、ッ、気を悪くしないでくれ… …僕がどういう人間か知らないわけじゃないだろう?」 「…ヤのつく…アレ…?」 増々笑いが止まらなくなったのか、男は車を寄せて一時停車する。肩を震わせて笑い続ける男に若干の苛立ちを覚えながらも笑いが収まるまで待った。 「いやあ、ごめんごめん。面白くてね…はー、久しぶりに笑ったよ。ヤクザに取引を持ちかけてくる男子高校生なんて初めて見てさ…」 俺の心臓を掴み、いつでも息の根を止められる男は本当におかしそうに笑った。…そこまで笑われると、張りつめていた何かが切れるというか、なんというか肩に重くのしかかった何かがずるり、と落ちていった。しかし、油断は禁物。相手は裏社会に生きる人間だ。俺が今まで生きてきた舞台とは想像も付かない世界で生活をしている人間なのだ。いつ殺されるかだってわかりやしない。 「これでどうだい?君はDomだろう。しかも、相手がいない、もしくはあまり自身のDom性を良く思っていない。その両方か。 …しかし、その抑圧された性はいつかは爆発する。君も知っているだろう?自分の欲求を抑え続けたDomがどうなったか」 二、三年前に自分の「誰かを服従させたい」というDomの本能を嫌い、抑圧し続けたDomが街中でGlareを暴発させ、ちょっとした騒ぎになり、ニュースにも取り上げられた。なぜそこまで大事になったかというと、今まで蓄積された強いGlareが一気に放出されたことにより、強制的に周りのSubがSubスペースに陥り、あてられたDomによる二次的被害、つまり強姦事件が起きるというものだった。 「君の相手に俺がなってあげる、これでどうかな」 綺麗な顔を花のように綻ばせ笑う彼から視線が外せない。 「で、でも貴方は…Domじゃないんですか」 その問いに彼は更に笑みを深め、距離を縮めてくる。キスをしてしまいそうな、近さだ。あ、めちゃくちゃまつげ長い。 バクバクと鳴りやまない心臓は、相手に筒抜けなのではというくらいうるさい。顔を全力疾走キメたんか、というくらいに熱く、息も上がっている。この男を自身の従属にしたらどれだけ、…どれだけ?俺は何を考えているんだ。 …もしかして、 「…もしかして、」 蚊が鳴くような声で発したその答え合わせは、かわいらしいリップ音に呑み込まれる。 そう、僕は、Subだ。 「この情報は、外部には一切漏れていないし、身内でも知っている人物は数少ない。トップシークレットだ。 これを聞いた時点で、君は…」 逃げられないんだよ 俺は自らその蜘蛛の糸に絡まれに行ったのだと気付いた。 act.00 入間家とは良き関係を築いてきたと思う。落ちぶれていたこの龍河組を俺が当主になってからは立て直しを図り、今ではどこに行っても恥ずかしくはない程に大きくなった。その時俺は成人したばかりで、まだ青かったけれど。 そんな中、入間家とは裏で暗躍を主に担当している家柄で、当主入間(イルマ)俊輔(シュンスケ)はかなり仕事の出来る人間だった。親父がまだ現役だった時から数えれば四、五年の付き合いではあるが、お互い信頼を寄せていた。 ある日、入間夫妻が連れてきた幼子が俺の運命を変える。 入間俊平、齢五歳。 母親似の顔立ちは、五歳にして将来が楽しみなほどに。そして何より、彼を一目見た時に普段ピクリとも動かない俺のSubとしての血が騒ぎ出す。 これは、運命だ。捕まえろ、離すな、逃がすな そう騒ぎ立てる。待て、落ち着け。彼はまだこんなに小さい。時が熟し、迎え入れる準備が出来た時に会いにくればいい。 何故ならこれは、運命だから。俺は待つことは得意なんだ。 入間夫妻は、自分たちになにかあったらよろしく頼むと言って彼を龍河組本家に置いて仕事に向かった。どうやら、相当骨の折れる相手らしく、彼らの顔付きは死地に向かう武士のようだった。 そして、俊平は愛する両親を失った。 その後、このまま引き取っても良かったのだけれど、こんなヤクザよりは良いと、俊平は裏社会とは一切関係のない親戚へと引き取られていいた。良い子で待っているんだよ、俊平。 きっと、すぐに迎えに行くから。 その時は、二度と放すつもりはないけれど。

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