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第1話

あれから六年が経った。 桜の咲く季節。まだ少し肌寒い。 「ユキ、そろそろ起きろ。」 「ん……命……」 眠たそうに目を擦る手を取って、顔にかかっている髪を退けてやる。 「前髪伸びたな。切るか?」 「……ふぁぁ」 質問に答えること無く欠伸を零して、上体を起こしたかと思えば腰に腕を回してくる。 「朝ご飯食べよう。今日は一緒に出かけるんだろ?」 「……そうだった」 「ほら、早く起きて。」 サラサラの髪を撫で、腰に回された手を無理矢理剥がす。 唇を尖らせて不満を伝えてくるユキ。その唇を指先で摘む。 「若に会うって言ってただろ?」 「……ん」 「立って」 手を離して、もう一度髪を撫でると漸く動き出した。 まだ少し性格には幼さが残っているけれど、ユキは今年で二十一歳になる。 容姿はみるみるうちに綺麗に育った。 可愛かったはずが、今じゃまるで王子様だ。絵本の中から飛び出してきたかのように整っている。身長もあれだけ小さかったのが、今じゃ百七十五センチを越して、よく成長したなと思う。 キッチンに戻り、作り終えた朝食をリビングに運んでユキを待つ。 少しして戻ってきたユキは、手を合わせて『いただきます』をすると、まずは一口カフェラテを飲んだ。 「若と会って何をするんだ?」 「わからないの。ハル君が会いたいって言ってくれたんだよ。久しぶりに会うから、お話したいけど……忙しいかなぁ?」 「さあ。陽和さんもいると思うよ。」 「あ、そうだよね。二人は一緒に住んでるもんね。」 楽しみだなぁとニコニコ微笑みながら食事を進める。 家を出るまであと三十分。 急いで朝食を食べ、スーツに着替えて出掛ける準備をする。 「命!命のお洋服借りるね!」 「ああ」 俺は毎日行っている本家だけれど、ユキは本当に久しぶり。半年前くらいに一緒に行ったけれど、その時会ったのは親父と若だけ。 早河と八田はたまに家に来るから会うけれど、赤石は桜樹組に居るから会わないし、中尾とユキはそもそもそれ程親しくないから会うことがない。 「今日、誰がいるの?早河さんと八田さんと……あ、世那さんは?」 「早河も八田もいると思う。世那は……多分、いるかな。赤石は時間ができたらユキに会いたいって言ってたから会えるかも。」 「本当!?嬉しいなぁ」 準備を終えて、玄関に行く。 後ろから「ニャー」と声が聞こえ、足元を見るとシロが傍に立っていた。 「行ってくるな。」 「シロくん、お留守番、よろしくね。いってくるね」 シロを撫でてから靴を履き、二人で外に出た。

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