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epilogue――結

 ときはめぐり、あれから五度目の春。  お線香の香りが漂う、薄桃色の芝桜が花盛りの静謐な墓苑を歩く。 「美春、なんてどうかな」 「この子が生まれてくる頃には夏になりますよ?」  足を止めて、悠深は優しく懐かしいその名を声にした。そうっと、膨らみが目立つお腹を撫で、訪ねてきた夫婦を労う。 「治美さんったら、生まれたら男の子でも女の子でもミハルと名前をつける、って言ってきかないのよ」 「きみだって構わないと言っていたじゃないか」 「とても思い出深い名前なのね」 「まあ、ね」  高月先輩とその奥さんは顔を見合わせて微笑んでいる。苦笑しながら賛同してくれた奥さんのお腹の子は今年の夏に生まれる予定だ。  冬の雪が解け、美しい春が訪れた故郷。  ぼくが初めて恋した輪廻に戻った清らかな魂もきっとどこかで、心安らぐ時間を、大切なひととともに、過ごしているに違いない。その隣にいるのは誰だろう。ぼくと隣を歩く悠深みたいに、穏やかに心通わせているのだろうか。 「おや、何を考えているのかな」 「ぼくもそのうち悠深みたいに、ひとの心に寄り添えるお坊さんになれるかな」  仏教系の大学を卒業し、修行を経た後、万寿寺本家の次期住職となった悠深は、地元の大学を出て就職できずにいたぼくを出家させ、弟子に抱えた。いまは法事や葬儀など、寺院の運営を手伝いながら学んでいるが、将来的には悠深が行ったような専門道場での修業を受け、跡取りのいない隣町の寺の住職になる予定だ。  なぜなら、いまになって自分にも悠深のようなちからがあればよかったのに、と悔やむようになっていたから。  ミハルを難なく成仏させた悠深の読経に嫉妬したし、憧れもした。  彼のようになりたい、彼の隣にいたい、これは初恋を浄化させたことで生まれたあらたな恋のはじまりなのか。 「なれるよ……なら」  小声で囁かれたのは、出家をしたことで改めたぼくの僧名だ。  慣れないその名を耳に留め、ぼくはうん、と頷く。  いまはただ、隣で彼が歩いてくれるだけでいい。  高月夫婦の後姿を見守ってから、悠深は早足で歩いていく。  穏やかな春の陽射しを浴びながら、ぼくも彼の背中を追いかける。  いつか追いついて、弟子なんかじゃないと認めさせるため。  学生時代のように、また、対等な状態でともに笑いあえる日が来るように――……  ――fin.

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