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後編

 おじいちゃんが死んだ。  おじいちゃんといっても血のつながりはない。 わたしがまだ一人で生きていけないほど小さいころ、おじいちゃんがわたしを家族にむかえてくれたのだ。  おじいちゃんはひとりぐらしだったけれど、わたしのほかにも家族がいた。 それは一冊の本だった。  その本はおはなしができた。 あなたのおじいさんがあんまり大切にしてくれたからおはなしができるようになりました、と本は言っていた。 本とおじいちゃんはわたしが生まれるよりずっとずっと昔からいっしょにいたのだそうだ。 本にかいてあることばはむずかしくてわたしには読めなかった。 だけど本はいつもじぶんで読んでくれた。 ねる前にはおじいちゃんとふたりで本の声をきいた。 そうしてるといつのまにか朝になっていた。 いつもそうだった。  わかるつづりのことばだけひろって読んであそんだりもした。 そうするとおじいちゃんも本もわらってくれた。 本はなまえもむずかしかったのでわたしはアーちゃんと呼んでいた。  アーちゃんとわたしは友だちだった。 おじいちゃんがいそがしいときや家をるすにしているときにはアーちゃんがずっとそばにいてくれた。 わたしが学校に行くようになったらおじいちゃんといっしょにべんきょうを見てくれると言っていた。  だけどおじいちゃんは死んでしまった。 アーちゃんはおじいちゃんといっしょにいくと言った。 アーちゃんはおじいちゃんといっしょにいってしまうけれど、本としてのアーちゃんはわたしに持っていてほしいと言った。 そのときはよくわからなかったけれどわたしはうなずいた。  おじいちゃんは箱に入れられてふたをされてじめんにほった穴におかれて土をかけられた。 わたしはおじいちゃんがすきだと言ってくれたお気に入りのふくを着たかったのに、ごきんじょさんにまっ黒いふくを着せられて、アーちゃんをむねにかかえて、ふたりでそれをみていた。 ずっとずっとみていた。  さようなら、とアーちゃんが言った。 それきり本はただの本になった。 アーちゃんはおじいちゃんのところに行ってしまった。 よかったとおもった。 アーちゃんはおじいちゃんとずっといっしょにいたのだから、これで安心だとおもった。  アーちゃんのいなくなったアーちゃんをわたしは大切に持っている。 まだ読めないけれど、なにが書かれているかはぜんぶおぼえている。 おじいちゃんといっしょにきいた、アーちゃんの声で、ぜんぶおぼえている。

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