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第1話
『三年三組 西條 小太郎 (18歳) β 』
そう書かれた診断書に、俺はつい紙を握りしめる。
「β……か」
分かっていた。
自分のような人間がαなんかになれるわけがないって分かっていたのに、いざその真実を突きつけられると、どうしても感情だけが追い付かない。
「おっ!小太郎はやっぱりβか!」
皺くちゃになった俺の診断書を取り上げ、友達の宮野 はケタケタと笑う。
「そういうお前もβだろ!」
「あはは!当たり前だろ?俺がそんな大層な人間に見えるか?」
「見えないね」
「ハッキリ言うな!っていうかクラスの大半がβだろ?んなαやΩが大量に出てたまるかよ。今後の学校生活に支障が出るわ!」
ドクッ。
αとΩ。
そんな何気ない宮野の言葉に、俺は一瞬息を呑み込んでしまった。
「あ、はは。そうだな!」
確かに生まれつきエリートの気質を持つαの奴なんて、クラスに一人か二人いるかいないか。
Ωなんて特に絶滅危惧種で、学校に一人いれば今頃大惨事になっているところだ。
でも、俺だけは知っている。
「そういえば、東田はどうだった?」
宮野の問いかけにゆっくりと振り向くのは、いつもの変わらない太陽のような笑顔。明らかに校則違反の金色の髪は、褐色肌の首筋を際立たせ俺を誘惑する。
今にも噛みついてしまいたいほどだ。
「えぇ俺?βに決まってんじゃん~」
「あはは!だよなぁー!東田バカだし、αとか絶対ないわ」
「言ったなこの野郎!つうかその言葉そっくりそのまま返してやらぁ!!」
「アハハ!わりぃわりぃ」
いつも通りのテンションで、東田は宮野の首を脇で締め上げる。
その光景を後ろで見ていると、東田の唇が俺の方を向いて小さく呟いた。
「小太郎」
俺は知っている。
幼稚園の頃からの親友である俺だけが。
「シーーーな?」
東田澄 がΩであることを、知っている。
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