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第2話
「はぁ~~三年になった途端テストマジ多すぎ~~。だるいわぁ」
「ま、進路の事もあるしな」
「小太郎はどうすんの?」
「俺?俺は大学行くつもり」
「うげぇ、まだ勉強するつもりかよぉ~~流石小太郎は真面目ちゃんだなぁ」
「お前は将来の事考えなさすぎ。何がしたいとかないの」
「あぁ~~将来……か……」
「……あっ」
しまった……。
気兼ねなしに言った自分の言葉に後悔した時には既に、東田の表情は少し沈んでいた。
事情を知っていたはずの俺がこんな事言うなんて、何考えてんだ。バカかよ……。
「……なぁーに落ち込んでんだよ!小太郎!」
「痛っ!!!」
下を向いていた俺の背中を、東田は思いっきり手のひらで叩いてきた。
そのあまりの痛さに思わず悶絶してしまう。
というかコイツは、毎回加減というものを知らない。
一度ふざけて頬をビンタされた時は、まるで漫画のような星がチカチカと見えたくらいだ。
「アハハっ!ダセェ!」
「っ……誰のせいだと思ってんだバカ」
……でも。
正直この痛みのおかげで、俺は何度も助けられてきた。
落ち込んでいる時も、友達と喧嘩した時も、悔しかった時も、悲しかった時も。東田の遠慮のない張り手が俺の気持ちを切り替えてくれたんだ。
「なぁ小太郎、俺は全然気にしてねぇからな?」
「……あぁ。ありがとうな」
自分の事よりも先に他人を気遣う東田の優しさが好きで、どんなに辛くても笑顔で絶やさない東田がほっとけなくて。
そうしてずっとアイツの側にいた俺は、いつのまにか東田の事を親友以上として見るようになっていた。
でもこの気持ちは、届いても届かなくても決して結ばれることは無い。
だって東田は将来……。
「ま!卒業したら金持ちαのヒモになって、金を搾り取れるだけ搾り取って裕福に暮らしてやるから安心しな!」
「……安心できるかよ、ばーか」
安心なんて出来るわけがない。
会ったことも無いαの男と、愛おしい人が番になるなんて。安心できるわけないじゃないか。
「小太郎はちゃんと可愛い女見つけて可愛い子供作れよ?あ、結婚式とかも呼んでな?ご祝儀千円しか持って行かねぇから」
「五万用意したら呼んでやる。というか、結婚とかよりもまず卒業だろ?東田は特に留年しそうな点数ばっかだから心配だ」
「うるせぇ!あ、そうだ。今日カラオケ行こうぜぇ~」
「……やっぱり心配だ」
「えぇ~いいだろ~?なぁ一緒に行こうぜ?こ・た・ろ・う!」
そんな可愛らしく迫られて、俺が断れるわけがないだろう。
ホントずるい奴……。
もし俺がαだったら、今すぐその首筋に一生消えないくらいの噛み後を残してやるのに。βの俺には番になる権利すら与えられない。
こんなにも愛しているのに。
「はぁ~じゃあ三時間だけな?そのかわりちゃんと薬持って行けよ……」
「分かってるって!卒業するまでは普通の学園生活送りてぇし!ヒートして小太郎に迷惑もかけたくねぇしさ!」
「……そうか、それならいいんだ」
Ωの人間は定期的に発情期。つまりヒートして、番のいないαやβを惹きつける。
どれだけ東田が好きな俺でも、もしかしたらΩのフェロモンには勝てないかもしれない。
それに。
行為に及んだとしても、βの俺は番になれない。
ホント、この世界は残酷だ。
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