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第3話

五年前。 俺は、東田家の秘密を聞いた。 「俺の家はさ、昔からΩしか産まれないんだ……」 「……えっ」 その頃から東田という男は、髪を派手に染めたり、ピアスを開けたり、勝手に授業を抜け出したりする問題児だった。 でも性格はホントに凄くいい奴で、そんな奴が毎回先生に呼び出されては怒られている姿を見ていると、なんだかほっとけなくなってしまい。俺が東田にどうして怒られるようなことをするのか聞き出したのが始まりだった。 「東田家の子供って、どうしてか必ず男のΩが産まれるんだよ。しかも、Ωに産まれた子供は高校を卒業すると同時に家が決めたαの奴と番になんなきゃいけないってわけ!」 「なんで、そんな……」 「さぁな?まぁ多分……Ωがいるってことがバレたくないんじゃね?ほら!Ωってあまりいい目で見られねぇじゃん?αと番になれば、わざわざ薬飲まなくてもヒートしなくなるし?しかも跡取りも産まれるし!一石二鳥!って事なんだと思うぜ?」 そんな大事な事を笑いながら伝える東田の態度に、俺は怒りを抑え込むのに必死だった。 特にその頃の俺は、東田に恋心を持っていると自覚したばかりで。高校を卒業したら東田が知らない男のモノになるという事実をすぐには受け入れられなかった。 「親の言いなりになるとか……お前そんなキャラじゃないじゃん。気持ち悪い」 「あ、はは……だろぅ?でもさ、まぁ~~俺だけ逃げるわけにもいかねぇしさ!」 なんでそんな簡単に言うんだ。 なんでそんな簡単に受け入れるんだ。 今俺が、どんな想いで聞いてるか知らないくせにーーーー。 「だから、さ……俺」 「っ……ひ、がしだ……」 その時。 俺の怒りは後悔に変わった。 こんな大事な事を簡単に言うのは、俺を心配させない為の優しさ。 俺なんかよりも一番傷ついてるのは本人だって事、長い付き合いなら分かっていたはずなのに。 「だから、さ、お、おれ……それ、までは、自由に……いきようって、思ってんだ……」 あの時の俺は、東田の頬から流れ落ちる涙を目にしてやっと、そのことに気が付いたのだ。 「なぁ~?小太郎?」 「え、あ!なに?」 「いや何じゃないよ!夏もそろそろ終わるし、本格的に勉強するぞ!って言ったの小太郎だろ?」 「あぁごめん」 「まったく」 ボーとしていた俺に、東田はふてくされたように唇を尖らし頬杖をつく。 見た目はチャラ男なくせに、仕草がいちいち女子なところがギャップ萌えと言うのだろうか……俺はにやける口を隠して視線を逸らした。 「なぁ~小太郎。ここどうするんだっけ?」 「え、あぁ……ここはな」 「ん?小太郎?なんか汗凄いな」 「え!?いやほら、今日暑いし」 「ふ~ん」 というか、自分の部屋で好きな奴と二人っきり。という空間に童貞の俺が耐えられるわけないだろう。しかも今日に限って乳首が透けそうな白のタンクトップなんて着てきやがって、そんなに犯されたいのかバーカ!! なんて、心の中で己と葛藤しつつ俺は氷の入ったジュースを一気に飲み干す。 「あぁ~あ。なんだかんだ言って、もう秋になるんだなぁ~」 「……そうだな」 この楽しい日々も、もうすぐ終わってしまうのか。 「嫌だな……」 「小太郎、今俺と全く同じこと思ったな」 「お前の「嫌だな……」は、今の勉強会のことだろ」 「だってよ~遊びてぇ~し~」 「じゃあ……後一時間頑張ったらな?」 「やったぁ!小太郎愛してる~」 「はいはい」 その『愛してる』が俺とは違うって分かっていても、単純な男の俺は思わず頬が緩んでしまった。 どんなに片思い歴が長くても、この初々しさだけはいつまで経っても変わらないな。 「あ、そうそう小太郎にお土産が……って……あ、れ?」 「どうした?」 「なんか……からだ、が」 その時。 東田から漂う甘い香りに、俺は心臓が高鳴った。 「ひ、がしだ」 「こた……ろぅ///」 熱を帯びた真っ赤な顔。首筋から静かに流れる汗。 そして、快感を求める瞳。 今まで見たことが無かった、Ωのヒート。 きっと東田を想う気持ちさえあれば、間違いなんて起こさない。いや起こさせないと思っていた。 けれど、そんなのただの妄想に過ぎなかったんだ。 「ひ、がしだ。ひがしだぁ///」 「あぁあ///いやぁ///ダメ、こたろぅ///」 体を覆う熱が冷めるまで、俺達は激しく抱き合った。 快楽に溺れ、欲望のままに求めあった代償。 それは、親友という形だった。

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