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第2話
♪ポヨーン
今度はLINEの着信音。
「LINEだ!」
オレは灰谷から逃れてスマホに飛びつく。
距離近いって!殺す気か。
画面を見れば電話の着信が中田から。他にLINEのメッセージが四件も入ってる。
灰谷は「ん~」と大きく伸びをして首を左右にパキパキ振りながら部屋の奥に歩いて行った。
なんなのなんなのもう……。
とりあえずLINEのアプリを開く。
一番新しいのが中田から。
中田 『寝てる?』 2:08
これが今のだ。
つうか佐藤からも来てた。2時間も前だ。
佐藤 『((((;゚Д゚)))))))事故現場見ちった!!原付バイクがグチャグチャ。』 0:15
佐藤 『衝撃映像。クラッシュ!!……死んだな』 0:16
佐藤 『寝てんの真島~また明日学校でな(^∇^)ノおまいも事故には気をつけろよ!』 0:30
「なんなんだよ」
「誰?母親?」
オレの本棚を眺めながら灰谷が言う。
「いや中田、それと佐藤」
「ああー。お前ら仲いいよな」
「さっきまでうちにいたんだよ。宿題やっててさ。灰谷は終わった?」
「いや。もう関係ない」
やけにキッパリと言う。
「マジで?」
「うん」
こいつスゲエな。
「んで、あいつらなんだって?」
「ん?ああ。なんかバイク事故見ちゃっただってさ」
「ふうん」
「いちいち報告してくんなっつうの」
「へえー」
「佐藤のヤツ、あれは死んだなだって。ヒデェよな」
「ほう」
あれ?心なしかなんか、空気変わってね灰谷。
「おっワンピース全巻あんの?」
本棚の背表紙を眺めていた灰谷が言う。
「うん」
「つうかワンピースって結局なんなのかな」
「ああ。『ひとつなぎの大秘宝』ってやつ?なんだろうな」
「…謎だな」
「謎って、まあ最終回まで読めばわかるよ」
「……読めればな」
「え?」
♪テトテンテントン
「おわっ!」
またスマホの着信音。
灰谷が笑う。
「つうかお前、ビビリすぎ。言うの2回目だけど」
「うるせえよ」
誰からだ?おっ中田だ。
「なんだよ中田」
『あ…起きたか真島』
「起きたよ…何?どした」
『いや、その…お前んちの帰り道でさ…』
「バイク事故見たんだろ。佐藤からのLINE、今見たよ」
『ああ…んでな…その…その事故さ…』
「ああ」
『オレらの知ってるヤツでさ』
「え?誰?」
『いや、その、落ち着いて聞けよ』
「ああ」
ハー。電話の向こうで中田が息を吐く音がした。
何何。
誰誰?
『…灰谷なんだ』
「ん?」
『だから…灰谷なんだ』
「…」
灰谷?と見れば、ミルハニのボトルキャップフィギアをひっくり返してミニスカの中をのぞきこんでいる。
やっぱ欲しいんじゃん。
オレは灰谷に声をかける。
「灰谷」
「あ?」
「足あるよね?」
灰谷が怪訝そうな顔をする。
「何言ってんの?」
「なあ。何言ってんだよなあ」
『真島…おーい…真島ぁ』
オレを呼ぶ中田の声がする。
「聞こえてるって。冗談やめろよ」
『冗談じゃないんだって』
こいつ、イタイ。ネタはもうバレてんのに。もうオチてますけども~そのネタ振り。
「はいはい」
でも、なんでよりによって灰谷なわけ?ここにいるんだけど。デキすぎてねえ?
『オマエんちの先のコンビニの前で原付バイクがガードレールに突っこんでグチャグチャになってて。こりゃヤバイなって。救急車とかパトカーとか来てたから、うるさくなかったか?』
そういえば、うるさかったような。でも寝オチてたし。
『で、オレ、うち帰って寝てたら母親から電話があって。その事故が灰谷だって』
中田の母親は近所の総合病院で看護婦をしている。
『灰谷の母親がテンパってるから担任の連絡先教えてくれって。で…灰谷が意識不明の重体だって』
そういえば中田の母親と灰谷の母親は仲がいいって聞いたことがある。
ガタガタッと音がした。
見ればボトルキャプフィギアが床に散らばっている。
落としたな。
灰谷がオレを見て「ワリぃ」みたいな顔をして、拾い集めてテキトーに並べて行く。
ああ、並び順がグチャグチャに。つうかキャラ別に並べて、シークレットは真ん中なんだけど。
「そりゃ~大変だ~」
『ウソじゃねえって!』
中田の声が大きくなった。
うるせえな。なんでそんなに必死なんだよ。
「わかったよ。灰谷は意識不明の重体と。で、じゃあなんで中田はオレにそんなこと電話してくるわけ」
『え?いや…だってさ…オマエ……』
電話の向こうの中田が口ごもる。
「なんだよ」
『…だってオマエ…』
なんかゴニョゴニョしている。
「なんだよ!」
『…灰谷のこと…好きだろ』
「はあ~!?好きじゃねえし」
オレの声が大きかったので、灰谷が振り向いた。
なんでもないと、首を横に振る。
「…何言ってんの?」
『だから会える時に。会えるうちに。まあ会わせてくれるかわかんないけど。とにかく会いに行ったほうがいいと思って。なんなら、うちの母親使ってもいいしさ』
「はあ?お前ホントにどうしたの。なんでおばさんまで出てくんの」
『だから、もう…オマエは気がついてないかもしれないけどさ』
「何を?」
『いやだからさ…その…』
「ハッキリしねえな。なんなんだよ!」
『灰谷もオマエのことが好きなんだよ』
「は?」
オレは思わず、そばでウロウロしている灰谷の顔を見る。
目の合った灰谷が「ん?」という顔をする。
イヤイヤなんでもないと手を振る。
「はあ~?何言ってんの?わっけわかんねえ」
『オレにはわかんだよ。オマエが灰谷を見てるように、灰谷もオマエのこと見てんだよ』
灰谷を見れば、ベッドにケツから飛びこんでボヨンボヨンとスプリングを確かめている。
「つうか見てねえし」
『え?』
「いや、こっちの話。大体なんでお前にそれがわかるんだよ?」
『え?』
もう~どんな新しい遊びなんだよ。明日からいや、もうあと何時間かで学校だってのに。
「だから~なんでそんなことが中田にわかるのかって聞いてんの?」
『い…いいだろ別に』
「よくねえよ」
『……』
ああ、めんどくせえ。
「切るぞ」
『待て』
「もういいから」
『待てって。オレが…オレが……』
電話の向こうの中田がすう~っと息を吸いこむ音が聞こえた。
『真島のこと見てたから』
「は?」
『…真島が灰谷を見るように、オレがオマエのこと…真島を見てるからだよ』
え?ここにきてなんの告白なの中田。そのマジトーン。
『だから…わかったんだ』
つうか、これどういう遊び?オレがどうなったら誰の勝ちなわけ。
佐藤と何か賭けてんの?ゲームソフト?
どっちにしろ、くだらねえ。
「…中田、お前の話はよくわかった。オレをいつも見ていてくれてありがとう。嬉しいよ。でもな、オレお前のことシュミじゃないんだよ。男はやっぱワイルド系じゃないとツッコまれたくないだろう」
『真島!冗談じゃねえんだよ』
「明日、いや、もう今日か、ガッコで会ったら……ブッ殺す!」
オレは電話を切った。
すぐにまた着信が入る。
あいつら~特に中田マジうぜえ。悪ふざけにもほどがある。
スマホの電源を落とす。
「ああーマジふざけんな。あいつらブッ殺す!」
「電話終わった?オレ、時間ないんだけど」
オレの枕を抱っこしてベッドに腰掛けた灰谷が言う。
長い首をかしげアゴを心持ち上げてオレを見ながら。
あ、この顔好きだ、と思ったけど、そうじゃなくて。
「つうか灰谷、オマエも参加してるんじゃないの?この遊びに」
「遊び?なにそれ。オレは知らない。つうか、時間がない」
「なんの」
「オマエ、口説き落とさないと」
「はあ?」
灰谷は枕を放り投げるとおもむろに立ち上がり、テレビのリモコンを取ると消音でつけっぱなしだったテレビをブチッと消した。
え、なんで消すの。
灰谷がオレを見つめる。
何、なんだよその顔。そんなに見つめんなよ。
喉が渇く。
オレは灰谷の視線を避け、麦茶を口にする。
「抱いてやるよ」
ぶっ!!!灰谷の言葉に麦茶を吹いた。
何、なんなの。抱く?え?え?
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