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第13話
見るともなくテレビを見ながら中田が作ってくれたトーストをかじり、目玉焼きを食べ、コーヒーを飲む。
すぐに食べ終わる。
中田はたまにオレの方をチラっと見ながらコーヒーばかり飲んで食事に手をつけていない。
「中田、お前それ、食わねえの?」
「うん。食欲ねえわ」
「んじゃ、ちょうだい」
「いいよ」
なんだかひどく腹がへっている。なんでだろう。
トーストに目玉焼きをのせて、ワシワシと食べる。
「コーヒーもっと飲むか?」
「うん」
中田がオレのカップにコーヒーを注ぐ。
「つうか中田。お前ってホント、オカンみてえな」
「は?」
「着替えさせてくれて、メシ作ってくれて。佐藤がよく言ってっけど。当たってるわ」
「やめろ。つうか口元、卵ついてんぞ」
シュッシュッとティッシュを二枚引き抜いてオレの方に放ってよこす。
「ハハハッ。ほら、オカン」
「や~め~ろ!」
その時、不意に感じる違和感。
なんだろう…違和感を感じる。
何に?何が違う?
この違和感は…なんだ?
♪ポヨーン
LINEの着信音。
スマホをチェックすると佐藤からLINEが三件来ていた。
昨日
佐藤『真島~寝てんの?始業式来ねえの?』8:15
佐藤『中田に聞いた~具合ワリぃんだって?おーい大丈夫かあ~』14:13
今日
佐藤『母ちゃんが真島と中田の分も弁当作ってくれたぜ~。今日は来いよ~』7:13
「何?佐藤?」
「うん。おばさんがオレ達の分も弁当作ってくれたってさ」
「ああ。唐揚げ弁当だな、きっと」
「うん。あれ、うんまいよね。ただずーっとニンニクくせえけど」
「だな」
「中田、お前は家帰らなくてよかったのか」
「いまさら…。大丈夫だよ。昨日は深夜勤だったから多分まだ帰ってねえよ」
「そっか」
夏休みの間、中田と佐藤、三人で遊び倒した。
そうだな、いまさらか。
中田の家は看護婦の母親と二人きりだ。
そのせいもあってか家事全般が得意で面倒見がいい。
怒ったところなんて見たことがなくて、とにかく懐が深い。
佐藤の家は大家族。
末っ子の佐藤はヤンチャで少々ガサツだが裏表のないイイやつだ。
オレはといえば、一人っ子で少々人見知り。
境遇も性格もてんで違う三人だけど、なぜか仲良くつるんできた。
中田がメシ作って、オレと佐藤が食う。
幾度となく、くり返された光景だった。
今はただ佐藤がいないだけだ。
…それなのになぜだろう。この違和感は。
まるで何もかもがよそよそしく、一枚薄皮をかぶったような。
見える景色は同じなのに、ふいに違う世界にいるような気になるのは。
オレ自身の中身がごっそりと変わってしまったような…感覚…。
「真島、オマエ、大丈夫?」
顔を上げれば中田が心配そうな顔で見つめている。
「え?何が?」
「いやその…」
中田が口ごもる。
ヘンなやつ。
「べつに大丈夫だよ」
「そっか。ならいいんだけど…」
そうこうしているうちに学校に行く時間が近づいていた。
「オマエ、どうする?今日も休むか」
「なんで?」
「いや…体調万全じゃないみたいだし」
「昨日休んじゃったからな。唐揚げ弁当待ってるし、行かねえとダメだろう」
「まあな」
中田が食器を洗ってくれてる間に制服に着替える。
「んじゃ、そろそろ行くか」
声を掛けると中田が言いにくそうに言う。
「あのさ…スカーフとか持ってねえの?」
「なんで?」
「いや、首…」
「ん?」
ああ。首の痕か。
オレは別にいいんだけど、色々聞かれてもめんどくさいか。
でも夏にスカーフっておかしくね?
ガタガタとテレビ台についている引き出しをかき回す。
あった。湿布。前に捻挫した時の。
これを貼っちまえ。喉もまだ少し痛いしちょうどいいや。
鏡をのぞきこみ、痕を隠すようにベタベタと貼りつける。
すんげえ首こってて痛い人風…って無理あるか。
まあいいや。
「行こうぜ」
中田はオレの湿布姿を見てまたなんか言いたそうだったけど言わなかった。
かわりに小さくため息をついた。
言えばいいのに。
なんだそれ、ダサッ!でもいいのに。
オレは中田と登校した。
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