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第16話
「真島」
耳元で声がする。
「真島」
いつのまにか眠ってしまったらしい。
灰谷?
目を開ければ灰谷がいる。
灰谷がオレを見つめている。
「真島」
「灰谷」
灰谷がベッドに入ってくる。
オレは灰谷に抱きつく。
「灰谷~」
頭を灰谷の胸にこすりつける。
「なんだよオマエ、どこ行ってたんだよ」
灰谷がオレの頭にチュッチュッとキスをする。
「ワリぃワリぃ」
「灰谷ぃ~」
灰谷だ。
灰谷。灰谷。
オレは灰谷のカラダに手を回し、足をカラダにギュウギュウと巻きつける。
「一人で留守番してたガキか。お~よしよし」
頭を撫でられる。
「ガキ扱いすんなよ~」
「ずいぶん一人で遊んだな」
灰谷を思い出してシた痕跡があちこちに。
顔が一気に赤くなる。
「カ~ワイイ」
チクショウ。キラキラ笑いやがって。
「つうか灰谷、これなんなんだよ。鏡見てビックリしたわ」
オレは首の痕を撫でながら言う。
「Sっ気あんじゃねえの」
「ごめん。悪かった」
灰谷がうつむいた。
そんなにしょんぼりしなくても。
「いや…まあ…いいんだけど…」
「いいのかよ。オマエMっ気あるんじゃねえの」
灰谷がニヤリとする。
やられた。
「ねえよ!つうか結局オレ、されるばっかりでオマエのことあんま見てねえし、触ってねえじゃん」
「ん~それは真島がオレに夢中になってたからだろ」
「あ~?でも…俺だって灰谷の隅々まで、見て、触って、感じて、記憶したい」
灰谷が黙りこんだ。
また、引っ掛けようとしてんな。その手にはのるか。
チュッと唇にキスされた。
何?
「オマエ、ほんっとカワイイな」
灰谷は本当にたまんないみたいな顔をして言った。
「…何言ってんの?」
顔が赤くなった。
「カワイイ」
「やめろ」
「いや、カワイイって」
「やめろってば」
「テレんなよ」
「テレてねえよ」
灰谷はオレをギュッギュッと抱きしめた。
もうなんなのコイツ。デレデレか!
「いいよ」
「ん?」
「だからいいよ。今日は真島がオレを好きにしても」
「ホント?」
「ホントホント」
灰谷は両手をひろげてゴロンと転がりカラダの力を抜いた。
カモンとでも言うように手招きをする。
誘う視線がヤラシい。
オレは灰谷の腹の上にまたがる。
灰谷は挑発的な顔でオレを見つめる。
負けるか。
灰谷の顔を両手ではさんでじっと見つめ返す。
灰谷。
灰谷。
オレは額にキスをしてまぶたにキスをする。
「昨日のオレ、再放送」
「悪いか」
「いいや~気持ちいいぜ。どこもかしこも」
「マネすんな」
「オマエこそマネすんな」
「チクショー。犯す」
オレは灰谷の着ていたTシャツを剥ぎ取ってメチャクチャにキスの雨をふらせた。
「くすぐったいって」
「あんあん言わせてやる」
「オマエは言ってたけどな」
灰谷が笑う。
そうだ乳首だ。乳首を開発してやる。
オレは灰谷の乳首をペロペロと舐める。
「今のうちだ。好きにしとけ」
…今のうちって?
オレは顔を上げて灰谷の顔を見る。
灰谷はオレの顔をみてクシャっと笑い、オレの頭を撫でた。
「灰谷…」
灰谷は黙ってオレを胸に引き寄せた。
灰谷。
灰谷。
灰谷の胸。
灰谷の腕。
オレは灰谷の心臓の音を聴く。
灰谷はちゃんとここにいるよ。
灰谷が口を開いた。
「…もっと早くこんな風に…」
オレを見つめる。
「いや、こんなことでもないと一生無理だったか」
優しい目だ。愛おしむ目だ。恋人の目だ。
オレもこんな目をしてるのかな灰谷。
じわりと涙が出そうになったから、オレは口を開く。
なんでもいい。なんか…。
「あのさ、体育の授業で走り高跳びやったことあったじゃん」
「あ?なんだよ、いきなり」
「オレさ、あの時の灰谷を今日一日ずっと思い出してたんだよ」
「ん~?」
「背面跳び。フォームが独特でさ。助走っていうの、あれが力抜けててちょっと足引きずるみたいな、たたたって。で、全然スピード出てるように見えないのに、ふわりって背中がバーの上を飛び越えてて、すとって落ちる。すんげえキレイだった」
灰谷がオレの髪を撫でる。
「んで、あの時バーの高さを上げてって、最後、灰谷一人になったじゃん」
「そうだっけ」
「そうだよ。で、その前の高さの時、まだ全然余裕あったのにさ、跳ぶの一人になった途端に引っ掛けたじゃん」
「そうかなあ」
「そうだよ。絶対もっと跳べたのに。あれ、わざとだろ」
「覚えてねえ」
「いや、わざとだよ。わかったもん」
「なんでわかんだよ」
「見てたから。たぶん自分でも無意識にオマエのこといつも見てたから。あれさ、一人だけでいつまでもやるのが恥ずかしかったんだろ」
「さあね」
「そうだよ。なんかそういうとこあんだよな。照れ屋っていうか」
「誰がシャイボーイだ」
灰谷のほっぺをつまむ。
「シャイボーーイ」
「やめろ。キスすんぞ」
「してして。ん~」
「ん~…しねえ」
「ケチ!」
ハハハッと灰谷は笑った。
灰谷の笑い声、好きだ。
「…走り高跳びはさ、気持ちよかったよ。呼吸を整えて集中してリズム作って走り出す。ポンって飛んだあと一瞬ふわっとして気がついたら、マットに放り出されて天地がひっくり返って、空が見えるんだ。あれが好きでさ。でも記録とかはあんまなあ。関係ないっていうか」
自分のことを気さくに話してくれる灰谷。嬉しいな。
「そういうとこ好きだったなオレ」
あっ、思わずついて出た自分の言葉にビックリする。
だったって…だったって…違う、これじゃまるでオレ…。
「ちっ…ちがう…」
うろたえるオレの目を見て灰谷が言った。
「真島…ありがとな」
「え?」
「オレのこと、受け入れてくれて」
「そんなこと…オレだって…オレに会いにきてくれて…」
オレを見つめる灰谷の顔が、目が、優しい。
こみ上げるこの気持ちはなんて言うんだろう。
愛しい?
そんで胸をかきむしりたくなるようなこの感情は…。
せつない?
せつなくて苦しい。
涙が出そうだ。
オレたちはどちらからともなく、唇を合わせた。
カラダをピタリとくっつけて。手と手を握りあって。
このまま一つになっちゃえばいいのに。
オレは灰谷にすがりつく。
「灰谷。行くな。どこにも行くな」
「真島…真島…真島」
息もできないほど強く抱きしめられた。
「灰谷…灰谷…灰谷」
オレも抱きしめ返した。
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