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第3話
彼はコートのポケットに両手を入れ、こちらを見ると「さあ、もっと寒くなる前に帰りなさい」と少し悲しそうな声と顔で言ってきた。
その言葉に「…ですね、そうします」と少し笑顔を作り答えた。
周りを見渡しつつよく考えてみればこの世の中、タダより怖いものはない。後々何かを請求されたり頼まれても嫌だな、と失礼なことを顔に出さずに思っていた。
その場で会釈をし彼に背を向け歩き出す、少し歩いて振り返ると彼はまだこちらを見ている。
なんだか変わった人だなと思いつつ軽く手を挙げ、彼も手を振り返してくれた。
もう会うこともないだろう。悪い人ではないみたいだけど興味はない。きっと向こうも気まぐれだ。
それよりも疲れ溜まってんだな…また眠くなってきた…早く家に帰ろう。そして寝るんだ、なんて欠伸をしながら1人口にする。
その頃、手を振り返しながら彼は言った。またね、と。
その言葉通り2人は再開する。
「やあ、涼君。こんにちは」
「…あぁ、公園の!また会いましたねwえっと」
「そっか、伝えてなかったね。俺は…んー…ユキって呼んでくれればいいよ」
ここは黒瀬の働く本屋だ。
お客さんだったのかと記憶を思い返すが今まで来たお客さんの中には居ない気がする。記憶が間違ってなければ。
「えっと…名前は…?あ、いやいいです。ユキ、さんですね。わかりました」
聞かれたくないのだろうか、一瞬怖い雰囲気と黒い視線を向けられた
「あら、黒瀬君知り合い?丁度いいわ、お友達と休憩いってらっしゃい!」
オーナーである女性がそう言う
「あ、いやそこまででは…ちょっと前に知り合って
「オーナーさん優しいんですね、お言葉に甘えて涼君お借りします」
黒瀬の言葉に被せるように彼が嬉しそうにオーナーに話しかけた
「さあ、俺は少し彼女と話しているから着替えておいで」
そう言い黒瀬の背を押した
「はあ…?まあいいか…腹減ったし。とりあえず着替えよう」
明らかな違和感に気付きながらも空腹には勝てないと着替えに行く、どうせ少し立ち話する程度だろう。この前のお礼に付き合ってやるか、なんて考えながら。
「黒瀬君のお友達なんて初めてよ!高校のお友達かしら?良かったわ、黒瀬君いい子なのに口数が少ないし友達いないのかと
「すみません、オーナーさん。ご相談があるんです」
「え?急ね、なにかしら」
「簡単なことですよ」
………
黒瀬が着替え戻るとまだ話している2人、しかし何かオーナーの表情がおかしいような…
「おかえり、涼君」
「あ、あら。早かったのね…」
にこりと笑いながら答えるユキと視線を泳がせるオーナー
「さあ行こうか、お腹空いただろう?何か食べたいものはあるかい?」
「いってらっしゃい、黒瀬君…」
「オーナー大丈夫ですか?なんだか具合悪そうですけど…」
「そ、そんなことはないわよ?大丈夫、いってらっしゃい!」
なにかに怯えるような急かされるような雰囲気で店を出される
「なんだあれ…ユキさん、もしかして何か」
「さあ、彼女は始めからああだったよ?きっとお腹でも痛いんじゃないかな?それより何処に行こうか?」
「…あの、この前はありがとうございました。でも一緒にご飯は行けません、あんま人と食べるの好きじゃないんで。何かお話があるならここで聞きますよ」
オーナーのあの慌てようもそうだが何よりユキさんが気になる。正直あまり彼のことは知りたくなかった。
それに俺はユキさんに名前を教えていないのだから。
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