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それぞれの過去〜龍之介×虎次郎編〜【8】
「人目なら気にしなくても今なら客も少ないし、だれも見てないから大丈夫だって!」
虎次郎が人目を気にして照れくさくて恥ずかしがっていると勘違いして龍之介はそう言うがてんで的外れだった。
「りゅーちゃん……ちょっと……その……お手洗い……行きたぃ……」
虎次郎が頬を赤く染めて、消え入りそうな声で呟いて俯いたのをみて龍之介は頷いた。
「……そ、そっか! 気がつかなくて悪いな。 じゃあ、手洗いにいくか」
「う……うん」
龍之介に補助されながら、手洗い場までたどり着き出入り口で二人して立ち止まる。
「じゃあ、俺、表で待ってるからな!」
「うん……」
龍之介を表に待たせて、虎次郎は何とか自力でトイレの個室に入ると、ドアを閉め鍵をかけ、便座に腰掛けて一息ついた。
ハーフパンツを脱いで両足から抜いて、龍之介に中に出された精液が溢れて、汚れてしまった下着を脱ぎ捨てる。
虎次郎は脱ぎ捨てた下着とハーフパンツを荷物を置くために設置された場所へといったん置いて、便座に腰掛けたままの状態でそっと両足を広げた。
内側からとめどなくあふれ出してくる白濁をちり紙でふき取って綺麗にしてゆく。
ふき取ってもふき取っても奥からどんどん溢れ出てくるせいかきりが無かった。
虎次郎は意を決して、恐る恐る蕾へと自分で指を差し入れて、その白濁をそっと掻き出す。
緩んで柔らかく解かされたそこは特に痛みも違和感もなく指を飲み込んでゆく。
出てこなくなるまで指で精液を掻き出しては紙で拭きとり、それを幾度となく繰り返して、後始末を終えると、とりあえずハーフパンツだけ穿いて、身支度を整えてからトイレの個室からでた。
下着は……洗ってるときに人が来たら恥ずかしいし、痺れを切らせた龍之介が様子を見に来るかもしれないし、下着を手洗いしてるところを見られたらやっぱり恥ずかしい。
虎次郎はそう考えて、手にした下着を丸めて、手洗い場に設置されているゴミ箱に仕方なく捨てた。
ノーパンだとハーフパンツの隙間から風が入ってきてスースーするけど家に着くまで我慢すれば済むことだ。
手洗い場で、手を洗って、顔を洗ってからその場を後にする。
事後処理を一人で済ませて、やっと手洗い場から出てきた虎次郎の姿を見て、そわそわと落ち着き無く、トイレの前の廊下を行ったり来たりを繰り返して暇を潰していた龍之介が、嬉しそうな顔で駆け寄って来た。
「りゅーちゃんお待たせ……」
「コジロー! 随分長いこと時間がかかってるから個室で倒れてやしないか心配してたところだぞっ!」
「ごめんね……」
「なんでもないならいいんだ」
龍之介は屈託の無い顔で笑い、虎次郎をぎゅっと抱きしめて、彼の柔らかい金髪をぐしゃぐしゃと乱暴にかき混ぜるようにして撫でた。
しばらくお互いにぎゅうぎゅうと抱きしめあって戯れてから身を離すと二人してカラオケ屋を後にして表へと出た。
カラオケ屋から出てすぐの場所にある寂れた機械にふと目が留まって龍之介はそれを指差して虎次郎にも見るように促した。
「あれ、ほら!、なんつったか、懐かしいな!」
「……プリントメーカー?」
「そうそれ! 写真がシールになってでてくるやつ!」
「そういえば結構、昔に流行っていたっけ……」
「友達同士で交換し合ったりしまくったよな~!」
「…………」
虎次郎はこの機械で撮ったシールを交換し合うのが流行っていた時にも親しい友人は龍之介しかいなかったため、誰かとシールを交換したり、ましてやプリント機で誰かと一緒に撮影などした記憶は無かった。
「なあなあ! せっかくだし記念に二人で撮ってこうぜ!」
龍之介が嬉しそうにそう言うのに虎次郎は頷いて、その機械が設置されている場所へと二人して向かった。
可愛らしいキャラクターや柄の描かれたのれんを潜り抜けて中へと入ると液晶画面とボタンが設置されていた。
龍之介は慣れた手つきでそれを操作して、いろんな種類のフレームを選択していき、虎次郎に見せていった。
南の海やらキャラクター物やいろんな種類のフレームがあってそれを選んで撮影するとそのフレームに飾られた写真がシールになってでてくるようだ。
「コジロー、どのフレームにする?!」
「りゅーちゃんが選んでくれたのにする……」
「そっか! じゃあ、これでいいや!」
龍之介がそういって選択したのは雲と星の可愛らしい感じのフレームだった。
可愛らしいけれど派手さは無く、前に出過ぎない感じのフレームで虎次郎好みのものだ。
「じゃあ、撮影ボタンを押すからなっ! 2回撮れるから、ほら、いくぞっ!」
龍之介がそういってシャッターボタンを押してから、虎次郎を抱き寄せて歯を見せて笑いⅤサインをした。
2回シャッター音がなってしばらくしてガタンと音がして足元にある取り出し口にプリントされたシールが二枚落ちてきた。
龍之介は腰をかがめてそれを取り出して虎次郎に見せた。
「おおーー! 機械が古くなってたわりに綺麗に写ってるぞ! ほら!」
そう言われて龍之介に手渡されたプリントシールを見る。
一枚一枚のシールが親指の先より少し大きいくらいの小ささなのに普通の写真のようにそれは綺麗に撮れていた。
「……うん。思ってたよりかずっと綺麗だね」
「だろ! これ、コジローにやるよ!」
12枚組みのシールが2種類。
全部あわせると24枚のシールが手渡される。
「いいの?」
「おう!コレだけの枚数があれば携帯とか手帳とか鞄に貼り付けられるだろ?」
「うん……でもなんだかもったいなくて使えないよ」
「24枚もあるんだからあちこちにはっつけて寂しい時とかにそれ、見れば少しは気もまぎれるだろ?」
龍之介は虎次郎が寂しい時にすぐに二人でいる写真が見られるようにと考えてくれたのだと分かって、目頭が熱くなって虎次郎の目元に涙が滲んだ。
「そっか……りゅーちゃん、ありがとう。これ、僕の一生の宝物にするね」
虎次郎が泣き笑いでそう言うのを聞いて、龍之介も歯を見せて親指を立てて笑った。
「コジローは相変わらず安上がりだな! 一生の宝もんにするほどにいいものじゃないだろ?」
「そんなことない……僕にとってはなによりの宝物だよ」
「おおげさなやつだ!」
「そんなことないよ?」
「そうか?」
「うん」
龍之介とたわいのないそんな会話をするのがなにより幸せだった。
「じゃあ、そろそろ帰るか。 コジローんちまで送っていってやるよ!」
「うん、ありがとう」
「やっぱりうちまで、おぶっていってやろうか? 歩くの辛いだろ?」
「それほどでもないから大丈夫だよ」
「無理そうだと思ったらすぐに言えよ?」
「うん。りゅーちゃん、ありがとう」
二人でたわいのない話をしながら夕暮れに染まり始めた田舎道をゆっくりと歩いて家路へと向かう。
河原にある土手を歩いて橋を渡って細い道を抜けて砂利道を突き進み、少し奥まった所にレトロな昭和の雰囲気をそのままにしたような商店街が見えてくる。
そこだけ昔懐かしい古き良き時代にタイムスリップしたような気にさせられる。
楽しい時間はあっという間に過ぎ去り、コジローの家の前へとすぐにたどり着いてしまった。
虎次郎の家でもある寂れた駄菓子屋の前にたどり着いて二人は立ち止まる。
駄菓子屋の前には和服の上に割烹着を着た老婆が立って落ち葉を竹箒で掃いて表を掃除していた。
「おばーちゃん、ただいま」
虎次郎に声を掛けられ、それに気がついた老婆は竹箒を立てかけて置き、こちらを振り返った。
「おかえり、虎次郎」
老婆は虎次郎の元へとやってきて彼の頭を優しく撫でた。
「遅くなってごめんね。おばあちゃん、今からお風呂沸かしてお夕飯作るね!」
駄菓子屋の奥にある自宅の居間へと向かおうとする虎次郎を老婆は引き止める。
「風呂はもう沸かしてあるけぇ、気にせんでもええ」
「でもお夕飯はまだでしょ?」
「寿司を出前で取って置いてあっから大丈夫だ」
老婆が笑いながらそう言って、虎次郎の肩をぽんと叩いた。
「寿司か?! ばーさん、俺の分も取ってくれたんだろうな!」
虎次郎の後ろに立っていた龍之介がそう言うのを聞いて、老婆は見る間に眉をしかめ態度を豹変させた。
「だぁれが取るかいそぉんなもぉん!」
そう吐き捨てるように言ってそっぽを向いた。
「今日、俺とコジローが遊ぶって前もって知ってたんだろ?!」
「しっとろぉがほんなもんは関係ねぃ!」
「お、おばーちゃん……りゅーちゃんも僕の分あげるから、喧嘩しないでよ……」
虎次郎が弱り顔でそう言うのを聞いて彼の祖母はため息をついた。
「ふん。ちゃんと3人前とってあるわい! 表におったら寒くてかなわぁん!」
虎次郎の祖母はそう言って駄菓子屋の引き戸を開けて中へとさっさと先に入ってしまった。
「相変わらずかわいげのねー、ばーさんだな!」
龍之介は苦笑いしながらそう言う。
龍之介が幼い頃に大好きなヒーローのシール入りのチョコレート菓子を買いに、ここの駄菓子屋には通いつめていて、そのときに店番をしていた幼い虎次郎と出会い仲良くなった。
虎次郎の祖母とも、その頃からもうかなり長い付き合いになる。
小さい頃から甘いものが苦手だった龍之介は、おまけのシールだけ取って中身のチョコレート菓子をいつも捨てていたのだが、
『米の一粒もくえんかった時代があるっちゅうに、なんちゅうことするん!
目がつぶれるぞ、贅沢もぉんがぁっ!!!』
と駄菓子屋のばあさんに見つかりこっぴどく叱られた。
最近は菓子を買うこともなくなったために足が遠のいており、本当に久し振りにこの駄菓子屋に来た。
この駄菓子屋は昔から何一つ変わっておらず、ばあさんも相変わらずで、子供時代に帰って来たような懐かしさを感じた。
「おばーちゃん、本当はりゅーちゃんのことすごい気に入ってるんだよ」
虎次郎がそんなことを言うのを聞いて龍之介は信じられないというような顔をした。
「久し振りにあんなふうになったおばーちゃん見た……じつは照れてるだけなんだよ、あれ」
「な、なんだってー!? 照れているだけだと?!
なんだよ、あのばーさん、じつはツンデレキャラだったのか!」
「ツン……それはよくわからないけど、いつもよりなんか嬉しそうだったし」
「そうなのか? ……まあいいか! マジで超寒いし、はやく中に入ろうぜ!」
「うん、あがって」
虎次郎が引き戸を開けて、室内へと入っていく後を追う。
駄菓子屋の中は昔懐かしいお菓子や風船、玩具などで溢れ返っていた。
ふがしやきなこ棒というなつかしの駄菓子からビー球、おはじきなどが並べられている。
「いまでも、こんなん買うやついんのか?」
龍之介が店内を見回しながらそう言うのを聞いて虎次郎は頷いた。
「うん。昔、常連だった今、大人の人が子連れで結構よく買いに来たりするんだよ」
「へー、そうなのか!」
「おばあちゃんはそれを見るのが楽しみで駄菓子屋やっていてよかったって言ってたもの」
いつもひねくれた態度を取るばーさんがそんなことを言うのは龍之介には想像できない。
龍之介限定でそう言う態度を取っているだけで、他の人間には普通に接しているようだ。
そんな話をしながら、駄菓子屋の奥まった場所へと行き、靴を脱いで、障子の引き戸を開けて畳が敷き詰められた居間へとあがる。
そこには昔ながらのちゃぶ台が部屋の真ん中に置かれており、寿司桶が三つ並べられていた。
どうやら本当に、龍之介の分もちゃんと、とってあったようだ。
虎次郎が龍之介と遊びに行った日は彼を送って駄菓子屋まで毎回来るのが昔からのお決まりパターンで、そう言う日には龍之介は夕飯をご馳走になって長居をして眠りこけてしまい、母親の千鶴が迎えに来ていた。
たまに早く仕事を終えて帰宅してきた父親の龍一郎が迎えに来ることもあった。
龍一郎と千鶴も子供時代にこの駄菓子屋の常連で虎次郎の祖母とは昔からの顔なじみだった。
ポットからお湯を急須にそそいで、茶の用意をしている祖母の隣に虎次郎が正座して座り、虎次郎の向かい側に龍之介が座った。
「ほれ、龍一郎! さっさとそれ食ってけえれ!」
「ばーさん、俺、龍之介! 龍一郎は俺のとーちゃんだ! 何回、言えば覚えるんだ」
龍之介の名前と龍一郎の名前がごっちゃになっているのも昔から変わっていなくて龍之介は苦笑しながら、割り箸を割って、寿司をつついた。
虎次郎が緑茶がなみなみと注がれた湯のみをばあさんから受け取り龍之介に手渡した。
「りゅーちゃんのお茶、茶柱が立ってる」
そう言いながら手渡された湯飲みを受取って、中身を見ると確かに一本だけ茶柱が立っていた。
「茶柱ってくえんのか?」
「相変わらず、父親と違ってお前は馬鹿だぁんな!」
食えるかどうかを聞いてきた龍之介にばあさんはそう吐き捨てるようにいうと自分で入れた茶を啜った。
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