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フルーツと名前と時々たばこ構図

   ――拓真、今度はミカンやるよ。  そして今日も、たまたま会った平三から小ぶりのミカンを三個貰う展開が訪れた。 「だから、なんでミカン……」  天気が良い今日は一人で休み時間に校舎の裏庭で一個目のミカンの皮を剥きながら呟く俺、村上 拓真。  高校二年生で誕生日が八月十五日。。  男子進学校で全寮制とはなかなか良いものだと俺は思っているぞ。  そりゃもちろん最初の頃はホームシックになりがちで一年の時の同室者から『帰りまちゅかぁー?』なんてバカにされていたこともあったが、今じゃ懐かし過ぎる思い出だ。  あんなイケメンだった元同室者は立派なホモになって、この学校で――男子校で――コイビトなんてものを作ったんだ。  その事実を知っても引くことなく、お幸せにと口にした俺は昔過ぎる懐かしい思い出(バカにしてきた事)を穿り返さず祈ったもんだ。偉い俺。 「んー……甘い」  ――から、美味い。  二回目とはいえ恒例化してるんじゃないかと疑うほど、別のクラスである友人の松村 平三からミカンを貰った。前回はバナナだ。  あいつは部活でサッカーをやってるからさ。だからバナナを貰った時は〝エネルギー補給でいつも持ってるから、そのついでにくれたのかな〟なんて思ってたりしてたんだけど、常識的に考えてそんなのも有り得るわけもなく。無理矢理過ぎる結論に納得出来ないまま食したものだ。  けど、それがあり得るとしよう。考えてくれ。  ミカンはエネルギー補給になりますか?  帰宅部の俺にはその辺の知識など全くわからない。 「お、やっと拓真発見した」 「んあ?」  そんな考えをしながら貰ったミカンを食べていたら俺を呼ぶ声が聞こえた。顔を上げるとそこには現在の同室者である古河(こが)が手を振って近付いて来てる。  なんか、紙持ってるな。 「あらあら古河さん。今日は彼女とデートの古河さんじゃないですかー」 「めっちゃ恨みありそうな声……」  半分はそうかもしれない。  なんの取り柄もない普通過ぎる顔の俺に彼女なんてものがすぐに出来るわけもなく。つーか男子校の時点でもうここを卒業しない限り出来ねぇんじゃないかと諦めてるから。  ちなみに卒業というは、大学のことだ。  だって進学校なわけで、進路希望を変更しない限り、ほら、な……。  しね古河。 「てかなんでミカン?」 「さあ?平三から貰った」 「なんで松村?」  ――知らねぇよ。それは俺も探ってることなんだから。 「で、どうした。俺になんか用事があるんだろ?」  終わらない話を永遠としてても意味がない。  平三の件はまた別の日に解決させてやるから、と古河の話に戻してみると古河自身、一瞬でも忘れてたみたいで『あっ、』と呟いては持っていた紙を俺に渡してきた。 「……外泊届、ですか」 「まだ曖昧なんだけど、彼女も明日まる一日授業がないって聞いて。こりゃもう!そういうことかな!って!」 「……」 「で、俺も学校終わったらすぐに行きたいからさ。これ届けてほしいなぁ、って」 「……」  サッ、と渡された外泊届の紙。有無を言わさず渡された外泊届の紙。  外泊する理由になどと嘘ばっかりな外泊届の紙。  ミカン汁で無効にしてやろうか、イケメン北海道民よ。 「……実家って、お前北海道まで行くんだなあ?」 「ちょ……お前マジ怖い……。とっ、とりあえず!今度なんか奢るからさ!」 「んまぁいいけどさー」  こんな紙切れを寮長に渡すだけの仕事で奢ってくれるならいつでも届けてやるっての。  最近オープンしたステーキ屋でも食おうとしよう。はははっ。  400グラムで。 「外泊届かぁ」  いいなぁ……とか、 「――あの彼はきっと、彼女という人と今夜はズッコンバッコンだね」 「うわぁぁあぁぁぁ!」  寄りかかってたプレハブ倉庫の真上から急に声が降ってきた。  あまりの急さにダサくも叫んでしまったが、許してくれ。俺は幽霊とかああいうのが大の苦手なんだ。 「よ、陽梨先輩!いつの間に!」 「んふふー」  バッ、と首が折れそうなぐらいの勢いで顔を上げれば呑気な笑みに右手の指で煙草を挟みながら手を振る陽梨先輩がいた。  そうとわかれば漂ってきた煙草の匂いに、この人かなり勇者だな……と頭の隅で考える。  陽梨 流静。三学年の先輩でイケメン面した綺麗な顔に成績優秀で運動神経も抜群に比べて中身が黒い――と、思ってる――人。……学校で煙草なんて吸ってるけど、この人はこれでも生徒会役委員の書記を務めてるんだ。  いいのか、これで……性格の黒さもその煙草でやられてるんじゃねぇの? 「今度はミカン持ってるんだなあ?」 「え、あ……や、友達から貰って……」 「平三君からだろ?知ってる知ってる」  あ、もしかして俺が裏庭に来る前から陽梨先輩っていたのかな。じゃあ古河との会話も――、 「うちの会長のコレだもん。というか俺も平三君から果物貰ってるからさー」 「……」  小指をピッ、と立ててうちの生徒会長の恋人だからと主張してきた陽梨先輩。  まあ、あの二人は学年だけじゃなく教師を含んだ全校生が知ってるぐらい有名だしな……。だからって陽梨先輩が呆れた顔で言うってことは、あいつ等生徒会室でもすっげぇイチャついてんのかな!  ……ここまでリア充が揃ってると羨ましい感情が出てくるわ。それが例え、男同士でも、さ。 「よし、八代 拓真君。俺にそのミカン、くれ」  なにが『よし、』なのか正直わからないが陽梨先輩とはあの屋上前の階段踊り場以来会ってなかったから。とにかく反論せず素直に残りのミカン、二個をわざわざ立ち上がってプレハブ倉庫ののぼってまで、あげた。 「どうぞ」 「良い後輩だ」  上まで来たことに陽梨先輩は少し驚いたみたいで一瞬、目を丸くしたけどまたすぐにおちょくってるような笑みに戻り、ミカンを受け取った。  煙草はそのまま。器用に火種は消さず皮を剥き始めてる。……なんて危ない人だ。 「今度は外で煙草ですか、陽梨先輩」 「陽梨先輩、だなんて寂しいじゃないか八代 拓真君」 「いや、あんた先輩だし!一応、先輩だし!というか俺をフルネームで呼ぶあたりそっちもかなり他人事だよな!?えっ!?」 「どうしたのたっくん。テンション高過ぎてついて行けないぞ?」 「たっくん!?すごい近くに来たなおい!」 「……ふぅ、」 「ゲホッ!」  疲れるツッコミを容赦なく打ち入れてたら唐突に煙を顔にかけられた。  無風のなか、一直線に吹かれた白いもやもやはブレることなく俺の顔面に直撃だ……。不良でもなんでもない俺からしたら慣れてないからすぐに涙は出そうになるし咳も出る。  この人なにを考えてるんだ……! 「拓真君うるさい。さすがに俺の喫煙がバレちゃう」 「……バラしてやりましょうか、今すぐに」  腕で鼻と口を塞いで睨むように言えば、陽梨先輩は崩さぬ笑顔でまた口を開いた。 「流静」 「……は?」 「俺の名前」  いや、バリバリ知ってますけど。  よくわからない発言に首を傾げてみると、陽梨先輩の笑みが、色気のある笑みに……見えて、きた……?  なんだ俺。溜まってんのか。ならばちょうどいい。同室者の古河はセックスのために今日は部屋にいないし。俺も一人でシコってやる。欲だけ出して一人の余韻に浸らずそのまま寝てやる!  相手がいないからって悲しくならないように寝てやる! 「俺は拓真君と呼ぶから拓真君も今後、俺を流静様と呼んでみようか」 「なんでサマ?え?人生とんだ格差社会と聞きますが、そこまでの差ですか?」 「冗談だ」 「へ?」  やばい。俺この人の扱い厳しいかも。なに言ってるんだろうか……あれかな。違うクラスだけど、友人の木下 歩系かな。だとしたら、この人まで腐男子なんじゃ……。  あれ、イケメンってこんなにも残念な人達なんだっけ?  世の女はこんなおかしな人達を好むんだっけ?  同性も同じだ……!  イケメンならおかしな人達でもホモれるのか……っ! 「拓真君、」 「ごほっ……はい、なんでしょーか。流静サマ……」 「ふっ」  また吹かした煙が目に、鼻に侵入してきて咳が出る。きっとこの制服にも煙草の匂いが移っているに違いない。なんだこの謎過ぎる時間は……。  くそ、もうこうなったら甘過ぎるミカンをもう一度食べようかな。 【フルーツと名前と時々たばこ構図*END】    

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