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第3話 私と彼の共通点
この野郎。
風の書いたものを読んで、第一の感想はそれだった。
『僕はエゴの事を好きに書くよ』
と言っていたが、本当に好き勝手に書いたので、「この野郎」である。
まあ、「昨日の事を書けば良い」と私は言ったものの、単純にお互いに発狂していただけなので、気にしない事にする。
今日は「梅雨時に相合傘をしながら森鴎外記念館に行こう」と話していた事でも書こうかと思っていたが、気が変わった。私も風の事を書こうと思う。
私と風の共通点を。
風の書いた小説を読んで知った事も、本人から聞いた事もある。
先ず、驚いたのが『お互いに父親違いの兄姉が居る』と言う事だ。
私がそれを聞かされたのは20歳の頃。
「お前ももう大人だから」と、母に電車の中で唐突に告白されて、そんなドラマの様な話が自分にあるのか、と驚いた事を覚えている。
なんでも、母は前の夫にDVを受けていて、東京に逃げて来て私の父と出会って私が生まれたのだが、前の夫が籍を抜いてくれないので結婚出来なかったそうだ。
成程。それで私の幼稚園のタオルケットの名字が今と違ったのだな、とぼんやりと幼い頃の素朴な疑問が解決したのだった。一緒に暮らしていた父が実父なだけ幸せなのかもしれない。
その半分血が繋がった姉とは一度会った事がある。丁度、風位の歳の頃の話だ。
新宿で待ち合わせていたのだが、小太りな化粧っ気の無い不細工と言って良い女が近付いて来た。あれが姉なのかと嫌な気分になった事と、姉がお土産にと小学生でも喜ばない様な玩具の携帯ストラップを渡してくれた事を記憶している。
母と姉と私で喫茶店で暫く話していたが、ティーポットが濃くなった、とお冷を足していた無作法に吃驚した。
嗚呼、知恵遅れの気狂いだ。そう感じた。
思うに、私の母も癇癪持ちのおかしな所があるし、叔父だかはアル中で酒をしこたま飲んで道路に寝そべって車に轢かれて死んだとか聞く。私の気狂いは母方の遺伝なのだろう。
何故こんな話を延々としたかと言うと、次の風との共通点が母方の遺伝だからだ。
風の母方は、神在月に神を降ろす家柄で風自身も昔は『見えた』らしい。今でこそ見えないが、聞こえたり嫌な感じはすると言う。風呂場ではよく聞こえるので、風呂が苦手だと言っていた。水はそう言う見えないものを呼ぶのだと民俗学を学んだ私は知っている。柳の下の女の幽霊は何故濡れているのか、と言う講義を受けた事がある。きっと風も水場に惹かれたものに反応しているのだろう。
2人とも精神科に通っている事は最早言うまでもない。
蛇足になるかもしれないが、セクシャリティも同じだ。2人ともバイセクシャルだ。但し、お互いに人に触れられるのも嫌だと言う意見は一致している。
世の中では『ノンセクシャル』と言うセクシャルマイノリティらしい。恋愛感情は抱くが、性的な事を忌避する人間の事を指す。私なぞ、舌と舌を絡ませるキスと言う行為は想像するだけでも怖気がする。
然し、何故か性経験自体はある。それも共通点だろうか。
私が嶽本野ばら氏の『ミシン』で知った、エス、と言う同性同士の精神的繋がり。同性愛者のプラトンが唱えたプラトニックラブ。或いはブロマンス。私と風の関係はそう言うものに近しい。
嗚呼、忘れていた。見た目も似ている。
未だ会った事の無い風の断片的に聞く外見を総合すると、眼鏡を掛けていて髪が長い真面目そうな子だそうだ。中性的な容姿なのだろう事は想像がつく。
私は男にしては声が高く、かと言って澄んだ声とも言い難い。変声期の最中の少年の様なくぐもった声をしている。
見た目も中性的なのか、コンビニエンスストアでちらりとレジの男女と年齢層を押すボタンを見ると、男女半々、20代のボタンを押すものも多い。30半ばの男にしては不可思議な現象だ。
幼少期から近眼で、眼鏡を掛けていた。成績もそれなりに優秀だったので、真面目な優等生扱いされていたが、酒も煙草も若い内から嗜む程度に不良であった。今でも酒と煙草は人生の友である。
そう言えば、風は煙草は煙たいけれど、エゴの香りを感じたいから僕に煙草の煙を吹き掛けて、と言っていた。彼に会ったら、そうするつもりだ。
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