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第4話
対面で佳毅の太腿の上に両足を開くように載せられると、くぷりと後ろから指を挿入される。
「んっ…」
「ここはあの男に触らせた?」
和哉は横に首を振りながら「んん」と否定する。
「本当?」
「ん…佳毅のしか、挿れたことない…」
「それじゃ、さっきはカマかけたの?」
「…えっちしたとは、言ってないもん…あっ!」
中の指がぐりぐりと動きだし、和哉は思わず身悶えた。
Ωの体は男でも、性的興奮と共に後ろが濡れる。既にぐちゅぐちゅになっているそこは、かき回されるたび卑猥な音を立てた。
「本当か確かめないとね…」
言うなり佳毅の指が増え、検分するように中で蠢く。
その度に和哉は細い腰を揺らした。
欲しがっているのを知りつつ、わざと焦らして浅いところを何度も擦ってやる。
「あっ…んんっ…」
「和哉、前からいやらしいのが溢れてるよ」
耳元で佳毅が囁く。
直接の刺激を与えられなくても、和哉のそこはトロトロと愛液を零していた。
「や、見ないでっ…」
恥ずかしそうに天使のような愛らしい顔を歪める。
まさに和哉は佳毅の元へ堕ちてきた天使だった。
不意に和哉の前立腺に触れる。コリっとした独特の感触が佳毅の指先にあった。
「ひっ!や…あっ…あっー!」
びくびくと背を反らせたかと思うと、勃ち上がった先から白く濁った液を飛ばした。
「こんなにすぐイくなんて、確かに何もなかったようだな…」
「何も、シてないって、言った…」
潤ませた目で睨みつけるように言っても、何の迫力もなく、ただただ佳毅の理性を崩すだけだが、そんなこと和哉は思ってもみないようだ。
「じゃあなんで俺が誤解するような態度をとった?そんなにオレを怒らせたかったのか?」
「…知らない」
ぷいっと顔を背ける様子が可愛らしくて、その頰に触れるだけのキスをすると、和哉の目が驚いたように見開いた。
「じゃあ、教えたくなるようにするまでかな」
「あっ、も、やめ…」
先ほどから執拗なまでに乳首を舐められたり捏ねられたりしているうちに、和哉のそこはぷっくりと膨らんでしまっていた。
「嘘、良いんだろ。さっきからぎゅうぎゅう締め付けてくる」
「ちがっ…あ、やだっ…ん…」
捏ねられるたび、じわじわと甘い疼きが広がって腰が重くなる。
涙を浮かべて抵抗しても、その責めが休まることはなかった。
「和哉は嘘つきだからな」
後ろは佳毅をずぶりと飲み込んでいて、気をぬくと上下に揺すられる。
スキンをした上からでもその雄々しさは十分感じられた。
前からも後ろからも責め立てられ、身体中が性感帯になった気さえする。
「体はこんなに正直なのに」
対面でこんなことをするのは初めてで、佳毅の理性的で整った顔が時折歪むたび、心のなかがじわりと暖かくなってゆく。
汗ばんだ佳毅の額に思わずキスをすると、心なしか佳毅の顔が赤く染まった気がした。
「…!」
「佳毅…すき…ずっと…すきだったの…」
ぎゅっと広い背中に手を回しながら熱にうかされたように呟くと、和哉の中の佳毅が熱量を増す。
「あ…おっきく…」
「和哉…悪い…もう、抑えきれない…」
途端、抽送が力強くなる。
がくりと和哉の腰が抜けて、これまで以上に深く挿入された。
「あっ、あっ、奥っ、や、イくっ…ああっ」
先ほどまで責められていたせいで、重く溜まっていた精が押し上げられるようにどろっと吐き出される。
「や、だめっ、おかしいのっ、!」
快楽が身体中を痺れさせる。絶頂が止まらず甘く、苦しい。
初めての感覚に和哉は混乱したが、佳毅は止まらなかった。
「…っ、気持ち、いいか?」
「あっ、んんっ、わかんないっ、」
朦朧とする意識の中で佳毅の熱の籠もった声がする。
「和哉、お前は俺のことを誤解している。俺はお前が他の男に抱かれたかと思って、腸が煮えくり返ったよ。あの男を探し出して、二度と明るい道を歩けないようにしてやると、ね…」
あの冷静な顔の下で、そんな執着心を抱いていたかと思うとたまらなくなる。
「愛してる。一目惚れだったんだ。ずっと、初めて和哉を見たときから…」
それは和哉も同じだった。
−−だとしたら、僕たちは運命の番にとっくに巡り合っていたんだ。
けれどもう、意味のある言葉など出すことはできず、和哉は無我夢中で佳毅の唇を貪った。
それから程なく、とてつもない感覚があって、
「ひっ、あっ、やっ、しんじゃうっ、あっ−−!」
叫ぶように和哉が悶えると、ほぼ同時に中が熱くなる。
佳毅が達したのだ。
どうしてか、その瞬間和哉はひどく幸せで、少し切なくなり、涙がぽろりとこぼれた。
しばらくそのまま眠っていたのだろうか。
目を覚ますと体は清められており、不快感はなかった。
何より、目の前に微笑みを浮かべた佳毅がいる。
「無理、させたかな…」
和哉は小さく首を横に振った。
違う。
佳毅はこれまでも、不器用なりにこうやって自分に微笑みかけてくれていたのだ。とてもわかりにくくて、いや、何より自分がわかろうとしていなかったのだけれど…。
「ねえ、和哉、教えてくれるか?」
「何を…?」
自分の愚かな行いを、今なら素直に謝れる気がする。
「和哉は何で、あの時あんな木の上にいたんだい?」
「…!」
初めて出会ったあの日から、佳毅だけは和哉を和哉として扱ってくれていたのに。
「海が…海が見たかったの…」
「海?」
「天国では映像しか見たことがなくて」
「…そうだったのか、海ね…」
優しく和哉の髪を梳きながら、二人だけの秘密のように佳毅が言う。
「俺も好きだよ、海。今度、俺の好きな海岸に一緒に行こう…」
「…うん」
耳の奥で、あの日聞いた波の音がする。
それは全てを優しく包み込むような、深い愛情のような−−。
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