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第1話
…どうして、僕は、生きているの…?
神様はどうして、僕なんか を作ったの…?
桜木楓 は、目の前の現実から逃げたくて、ふと、空を仰いだ。
そよ風が頬を撫で、見上げた空は綺麗な青。
鳥が飛んでいる。
この綺麗な空を自由に飛ぶことができたなら、どんなに幸せだっただろうか。
無駄なこと。でも、考えてしまう。
「おい、よそ見ばっかしないでさっさと脱げって。」
声とともに視界がぐらりと揺らぎ、目の前の現実に再び向き合わされた。
にやにやと笑う5人の友達にぐるりと囲まれて、降ろされたハーフパンツはすでに靴の上。
水色のトランクスと一緒に、コンプレックスである白く艶かしい肢体がむき出しになっていた。
ハーフパンツを履こうとすればおそらく怒られる。しかしこんな真昼間の授業中に、人前で下半身を晒すだなんて。
「…できないよ…。」
目にいっぱいに溜め込んでいた涙が、ほろりと零れ落ちた。がしがしと手で拭うと、汗が目に入ってしみる。
「じゃあ、無理やり脱がせてもっとたくさんの人に見てもらうか?」
「それとも、もうお前なんて一生無視してやろうか?」
くつくつと笑う友達は、5人とも高校の最初から仲良くしていた仲間たち。
彼らに見捨てられたら、僕はまた1人になってしまうかもしれない。
そう思うと怖くて、楓はふるふると震えた。
「仲間はずれ、やだ…。」
涙声でそういうと、リーダー的存在の隼人が、よしよしと優しく頭を撫でる。
「じゃあ、脱げるな?俺らは楓が男か知りたいだけなんだ。」
「…ぐすっ…ぅっ…、うんっ…。」
泣きながら頷いて、楓は腰に手をかけた。
…仕方ない。全部、僕が悪いから。
ぐっと目をつぶって、トランクスを下まで下ろす。
燦々と降り注ぐ日差しの下で、普通より小ぶりの白い性器がふるりと零れた。
恥部を太陽に容赦なく照りつけられた羞恥に、反射的に性器を両手で覆う。
「隠してたら見えないだろ。ちゃんと見せろよ。」
その手を、囲っていたうちの1人が退けて。
「うわっ、ほとんど毛、生えてねえじゃん!」
「なんかちっちぇー。」
全員の視線が、しおれた楓の雄に集中した。
あまり家から出ない楓の、白桃のように白く艶かしい腿の間に、申し訳程度についているそれ。
「…ぅ、ぅぇっ…、あんま、見ないでよぉ…、…ぐすっ…。」
本来誰にも見せてはいけないそこを、をじろじろと見られ、その上その通りの感想まで言われて。楓は泣きながらその場に崩れ落ちた。
「ねえ、なんか泣き声聞こえない?」
「あっちじゃない?」
向こう側から、女子の声が聞こえてくる。
「やべっ!」
大慌てで友人達が、楓の下着とハーフパンツを履かせた。
「あ、いたいた。…あれ、桜木、どうしたの、大丈夫?」
女子が楓の方に駆け寄ってくる。
「あー、なんか、ぶつけちゃったらしくてさ。でも、痣も何にもないから大丈夫だろ。」
何もなかったように、友人の1人がそう答えた。
「なんだ。ね、そろそろ男子が走るばんだよ。戻って来いって先生が。」
「あー、サンキュ。
おい、戻るぞ。」
「はーい。」
みんなが何もなかったような顔をしているから、楓も何もなかったように彼らに紛れて授業に戻った。
それがなんの変哲も無い楓の日常。
たまにみんなから嫌なことをされるのは、きっと、僕が空気を読めないから。
そう、楓はいつも自分に言い聞かせている。
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