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第2話

小学校の頃、学校に行くことが苦痛だった。手を触れれば汚いと嫌がられて、グループを作るときはいつも仲間はずれ。 楓と組まないようにしようと、みんな躍起になってグループを作っていた。 どうしてそうなるのか、楓には全くわからなくて。 周りと同じように生活しているにもかかわらず、いつ見ても乱雑な道具箱。 なぜみんなのお道具箱は僕と違ってそんなに綺麗なの?どうして普通に話していても、僕は先生に嫌な顔をされるの?どうして僕は、 …みんなの仲間になれないの? 毎日毎日そんなことの繰り返しで、嫌になって。 ある日カミソリで腕を切った。 驚いた母親はその場でパニックを起こし、楓を小児リハビリ科、という場所に連れて行った。 そこで楓は、週に一回、カウンセリングを受けた。 そのうちにどんどん道具箱を整理できるようになり、どうして自分が話していると、いきなり相手が怒り出すのかも、わかってきた。 もう大丈夫だと、通院を終えた後で、自分には少し自閉症スペクトラムの傾向があったと楓は知らされた。 それまでずっと、いじめはする方が悪いんだとばかり思っていた。 しかしだんだん物事を客観的に考えられるようになるうちに、圧倒的に自分が悪かったのだと思えてきて。 それが小学校六年生のときだった。 中学の3年間は、みんなが仲良くしてくれた。病気が治って、空気が読めるようになったからだと、嬉しかった。 高校に入ってすぐに仲良くなった5人は、楓ととても良くしてくれて、ただ少し勉強が嫌いで。だから、課題を見せてていた。 …だけど。 高校2年に上がってから、クラスの女子に 「楓くんがあいつらに課題を見せてるから、あいつらの内申が良くなって推薦の枠が減るかもしれないのは気にくわない。」 と怒られて。 楓はその言葉を間に受けた。すると、課題を見せなくなってから、少しずつ嫌がらせを受けるようになった。 例えば貸していたシャーペンを返してもらえなかったり。 例えば友達が忘れた教科書を、楓も同じ時間に同じ授業があるのに貸してくれと言われたり。 例えば、今みたいにパンツを脱がされたり。 でも、それは自分が空気を読めないから。何かの言葉で、彼らを傷つけてしまったから。 …だからきっと、仕方がないことなんだと、楓は思っている。 「いちについて、よーい…、ドンっ!」 50m走の測定、前の列がスタートを切った。 …次は僕の番。 スタートを告げる合図とともに、楓は重い足取りで駆け出した。

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