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幽霊との出会い(本編)
「おはよう」
「おっす」
「朝から校外学習ってダルいな」
「んとに」
「そういえば、今日だよね。検査の結果がでるの」
「ま、オレら庶民は、ベータじゃね?」
「尾張はアルファでも納得って気がするけどさ」
「なわけねーじゃん。うち、両親ともベータ」
「だね。アルファはアルファとオメガの番から生まれるのがほとんどだもんね。オメガだったら、生まれてすぐに検査でわかってるはずだし、今まで何もなかったってことは、やっぱりベータか」
「それより、急ごうぜ。間に合わない」
オレ、尾張。16歳。
普通の高校生。
その日は、平凡な日常のありふれた1日になるはずだった。
「げ、アルファかよ」
渡された検査結果に舌打ちする。
この国の政治や経済、芸能。あらゆるものの中枢は、アルファで占められている。
アルファは憧れと尊敬そして畏怖の対象。
といっても、アルファの数は少なく、生まれて一度も会ったことはない。
テレビの向こうの世界の人々。特権階級。
それが、アルファへの認識。
まさか、自分がアルファとは想定外。
面倒なだけで、嬉しくもなんともない。
「くそっ」
丸めてゴミ箱に投げ捨てる。
「結果どうだった? うちのクラスみんなベータ。尾張の言うとおり、今まで何もなかったってことはベータだよな。で、自由行動、どこにいく?」
「ん?」
「ほら、このリストの一番上の有形文化財は?」
「別にそこでいい」
「そういえばここって出るらしいよ」
「何が?」
「幽霊」
「へぇ」
「昔、アルファに捨てられて自殺したオメガの地縛霊。アルファが来るとうらめしや~って出るらしい」
話をしているうちに、目的地に到着。
歴史がありそうな大きな建物で、文化財に登録されているせいか、手入れは行き届いている。
どことなく懐かしい。
「あら、尾張くんたちもここ?」
「うん。南の推薦」
「あ、尾張くんと南くんだ」
「よっ!」
何人か知った顔のヤツがいる。
「尾張くん。一緒にまわろう? ここって幽霊が出るらしいよ。怖いし、手を握ってくれない?」
「ん? 朝から出るか?」
「でたら怖いじゃん。お願い」
「ほら、かせよ」
ま、いいか。
差し出された手を握ると、隣の部屋に引っ張られる。
その女子の反対側の手を繋がせようと振り返ると、不敵な笑顔を浮かべた南にひらひらと手を振られた。
「えみ、抜け駆けずるい」
「あんな見え透いたこと言えないわ」
女子がこそこそ話しているのが聞こえる。
怖がっているわりには、ずんずんと部屋の中を進む。
「あのさ、もっとゆっくりといかねぇ? 南と、はぐれるし」
「あ、ごめんなさい。二人になりたくて」
女子は、オレの顔を見上げると唇を突き出して目を閉じた。
「?」
なんだ?
脈絡全くなし。
━━また、タラシ込んで。全然、変わってない
はい?
誰?
━━肇、どれだけ待たせるんだよっ!! やっと現れたと思ったら女子とキスとか、ないわっ!!
は、はじめって、誰?
「なんか、聞こえないか?」
目を閉じて唇を突き出したままの女子に問う。
「え? 何?」
「ほら、はじめとかって声」
「何も聞こえないけど……」
二人で辺りを見回す。
━━その子には聞こえないよ
声が響く。
「ほら、この声、聞こえてない??」
「え? 何も……」
━━肇、ちゃんときいてる? だ、か、ら、聞こえないっていってるじゃんっ!
「はい? 肇って誰だよ? オレは肇ってやつじゃねーよっ!」
「……尾張くん? 誰と話してるの……?」
━━肇だよ。肇以外の誰よ? まんま、肇でしょ? 全く同じ魂だもん
「肇ってやつじゃねーって、言ってるだろっ! しつけーな」
「……尾張くん、大丈夫? ……誰か、呼んでこようか? まってて、呼んでくるっ!」
「え、、ちょっと?」
女子はオレを置いて、すごい勢いで走り去った。
きっと、戻って来ないだろう。
「で、お前は何者? ここにとりついているっていう地縛霊か?」
━━ひどい。地縛霊じゃない。忘れちゃったの? 叶だよ。あんたの運命の番の叶だよ。
「あん? 運命の番?? お前、頭大丈夫か?」
━━やっと巡り会えたのに……これからどうしたらいいの……やっと成仏できるって思ってたのに……シクシク
幽霊は泣きはじめた。
姿は見えないけど、心の底から嘆き悲しんでるのは伝わってくる。
悪い人間……って幽霊に対してこの使い方はあってるかわからないけど、兎に角、とりついたり呪ったりする悪霊ではなさそうだ。
「……マジか?」
━━マジだから。責任もって、俺を成仏させて!
「成仏ってどうすればいいんだよ?」
━━知らないし。知ってたら、成仏してるし。
「マジかよ……」
オレは頭を抱えた。
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